王おう蕃しげる

王おう 蕃しげる（おう はん、228年ねん - 266年ねん）は、中国ちゅうごく三さん国こく時代じだいの呉ごの天文学てんもんがく者しゃ・数学すうがく者しゃ・政治せいじ家か。字じは永えい元はじめ。揚あげ州しゅう廬いおり江え郡ぐんの人ひと。弟おとうとは王おう著ちょ・王おう延のべ。『三国志さんごくし』呉ご志こころざし に伝つてがある。

生涯しょうがい

博学はくがくで天文てんもん・数学すうがくに通つうじていた。

尚書しょうしょ令れいに任にんじられた後のちで官かんを退しりぞいたが、孫まご休きゅうが即位そくいすると再ふたたび官かんに就つき、薛瑩・虞おそれ汜・賀が邵と共ともに散ち騎き中ちゅう常つね侍さむらいの官かんに任にんじられ、駙馬都と尉じょうを加くわえられた。この人事じんじは世間せけんに評価ひょうかされた。蜀しょく漢かんに使者ししゃとして赴おもむいたときは、蜀しょくの人々ひとびとにも高たかく評価ひょうかされた。帰還きかん後ごに夏なつ口こう督とくとなった。

孫まご晧が即位そくいすると、中央ちゅうおうに戻もどされ常つね侍さむらいとなった。同おなじ常つね侍さむらいの万まん彧や中書ちゅうしょ丞すすむの陳ひね声ごえは孫まご晧のお気きに入いりで、ひたすら諂へつらい出世しゅっせした人物じんぶつであったため、有能ゆうのうで名声めいせいもある王おう蕃しげるから軽かるんじられているのではないかと疑心暗鬼ぎしんあんきとなり、陳ひね声ごえにいたっては讒言ざんげんまでした。王おう蕃しげるは誇ほこり高たかい性格せいかくであったため、孫まご晧の前まえでも正論せいろんを吐はき、孫まご晧の意いに逆さからったことも何なん度どかあった。このため孫まご晧から憎にくまれるようになった。

甘露かんろ2年ねん（266年ねん）、晋すすむに使者ししゃとして赴おもむいていた丁ちょう忠ただしが戻もどって来きた時とき、行おこなわれた宴会えんかいの席せきで王おう蕃しげるが酔よいつぶれて突つっ伏ぷしていると、酔よった振ふりをしているのだと思おもった孫まご晧から、孫まご晧の息いきのかかった者もの達たちを伴ともない、穏おだやかに宴会えんかい場じょうの外そとへ連つれ出だされた。酔よいが覚さめないうちに王おう蕃しげるは宴会えんかいに戻もどったが、威厳いげんが備そなわっていて立たち居振いふる舞まいが自然しぜんだった。このため自分じぶんの予想よそうが正ただしいと思おもい込こんだ孫まご晧は怒いかり、命令めいれいして正殿せいでんの前まえで王おう蕃しげるを斬きらせ、死体したいを山野さんやに投なげ捨すてさせた。

滕牧や留とめ平ひらたは王おう蕃しげるのために弁護べんごしたがき入きいれられなかった。また、陸りく凱は王おう蕃しげるの死しを惜おしみ上じょう疏した。その文章ぶんしょうが正史せいしに収録しゅうろくされている。

王おう蕃しげるの家族かぞくは広州こうしゅうに強制きょうせい移住いじゅうさせられた。弟おとうとの王おう著ちょと王おう延のべは才能さいのうある人物じんぶつだったが、天てん紀き3年ねん（279年ねん）の郭かく馬うまの乱らんで郭かく馬ばからの味方みかた要請ようせいを断ことわったため、殺害さつがいされている。

小説しょうせつ『三国志さんごくし演義えんぎ』では、孫まご晧の所業しょぎょうを諌いさめて怒いかりを買かい、処刑しょけいされた人物じんぶつの一人ひとりとして名なが挙あがるのみである。

評価ひょうか

薛瑩は王おう蕃しげるを「器量きりょうが大おおきく様々さまざまな物事ものごとに通つうじた人物じんぶつ」として、楼ろう玄げん・賀が邵・韋昭と並ならぶ人物じんぶつであると評価ひょうかした。また胡えびす沖おきは、韋昭を除のぞいた三さん名めいの人物じんぶつについて楼ろう玄げんを最もっとも高たかく評価ひょうかし、賀が邵がその次つぎであるとしつつも、三者さんしゃとも甲乙こうおつ付つけ難がたいと評ひょうしている。陳ちん寿ひさしは、薛瑩や胡えびす沖おきの評価ひょうかを踏ふまえつつも「乱みだれた政治せいじの時代じだいに高官こうかんにあったのだから、非業ひごうの死しを遂とげたことも仕方しかたのないことである」と評ひょうしている。

関連かんれん項目こうもく

• 3世紀せいき生うまれの天文学てんもんがく者しゃ

参考さんこう文献ぶんけん

• 陳ちん寿ひさし、裴松之の注ちゅう『正史せいし 三国志さんごくし』、井波いなみ律子りつこ・今こん鷹たか真しん・小南こみなみ一郎いちろう 訳わけ・解説かいせつ（ちくま学芸がくげい文庫ぶんこ全ぜん8巻かん、1992 - 93年ねん）、※呉くれ書しょは6・7・8巻かん、小南こみなみ一郎いちろう訳やく。