法正のりまさ

法正のりまさ
清きよし朝あさ時代じだいの法正のりまさの肖像しょうぞう
後こう漢かん 尚書しょうしょ令れい・護まもる軍ぐん将軍しょうぐん
出生しゅっしょう	熹平5年ねん（176年ねん） 扶風郡ぐん郿県
死去しきょ	建たて安やすし25年ねん（220年ねん）
拼音	Fǎ Zhèng
字じ	孝こう直じき
諡号しごう	翼つばさ侯こう
主君しゅくん	劉りゅう璋あきら→劉りゅう備

法ほう 正ただし（ほう せい、176年ねん - 220年ねん）は、中国ちゅうごく後こう漢かん末期まっきの参謀さんぼう・政治せいじ家か。劉りゅう備に仕つかえて活躍かつやくした謀はかりごと臣しん。字じは孝こう直じき。司つかさ隷扶風郡ぐん郿県（現在げんざいの陝西せんせい省しょう宝たから鶏にわとり市し眉まゆ県けん）の人ひと。曾祖父そうそふ（又または高祖父こうそふ）は法雄のりお、祖父そふは法ほう真しん、父ちちは法ほう衍、子こは法ほう邈。

生涯しょうがい

建たて安やすし元年がんねん（196年ねん）、飢饉ききんに遭あったため同郷どうきょうの孟はじめ達たちと共ともに益えき州しゅう牧まきの劉りゅう璋あきらに身みを寄よせた。久ひさしくして劉りゅう璋あきらの下したでは新都しんと県令けんれいや軍ぐん議ぎ校こう尉じょうに就ついた。任用にんようされず、また益えき州しゅう出身しゅっしんのともに僑客となっていた者ものに節ふし行ぎょうの無なさを誹謗ひぼうされた。

その後ご、かねてから「劉りゅう璋あきらでは大事だいじを成なせない」と考かんがえていた法正のりまさは、親友しんゆうの張ちょう松まつと共ともに劉りゅう備の益えき州しゅう攻略こうりゃくに協力きょうりょくすることにした。法正のりまさは張ちょう松まつと共ともに劉りゅう璋あきらに進言しんげんし、曹操そうそうと断交だんこうさせ劉りゅう備と盟約めいやくを結むすばせた。更さらに張ちょう魯の脅威きょういを利用りようして劉りゅう璋あきらを再ふたたび動うごかし、劉りゅう備の下したに使者ししゃとして赴おもむき、密ひそかに自身じしんや張ちょう松まつと協力きょうりょくして、劉りゅう備つぶさに益えき州しゅうへ入はいるよう勧すすめた。個人こじん的てきに親したしかった彭羕が劉りゅう備への仕官しかんを求もとめてきた際さいには、龐統と共ともにこれを推挙すいきょしている（『蜀しょく書しょ』彭羕伝でん）。その後ご、鄭てい度たびが劉りゅう璋あきらに対たいし焦土しょうど作戦さくせんを進言しんげんしたと聞きいた劉りゅう備が、どう対処たいしょすべきかこれを法正のりまさに相談そうだんすると、法正のりまさは劉りゅう璋あきらにはその作戦さくせんが実行じっこうできないと予測よそくし、降伏ごうぶくを勧告かんこくする手紙てがみを劉りゅう璋あきらに送おくった。同年どうねん（214年ねん）に成都せいとが包囲ほういされると、劉りゅう璋あきらは間まもなく降伏ごうぶくした。

劉りゅう備が益えき州しゅうの支配しはいに成功せいこうすると、その功績こうせきにより蜀しょく郡ぐん太守たいしゅ・揚あげ武将ぶしょう軍ぐんに任にんじられ、中央ちゅうおうの政治せいじに諸しょ葛かずら亮あきらと共ともに当あたるとともに、劉りゅう備の策謀さくぼう相談役そうだんやくとなった（『蜀しょく書しょ』先さき主ぬし伝でん）。元もとの蜀しょく郡ぐん太守たいしゅであった許もと靖やすしは、劉りゅう璋あきらが敗北はいぼくしそうになると劉りゅう備への投降とうこうを図はかったことから、劉りゅう備つぶさに疎うとまれていた。しかし名声めいせいの高たかい人物じんぶつであったため、法正のりまさはその虚名きょめいを利用りようするよう勧すすめた。またこの後のち、孫まご夫人ふじんから離縁りえんされた劉りゅう備つぶさに呉ご氏し（呉ご懿の妹いもうと、後ごの穆きよし皇后こうごう）を娶めとるよう説得せっとくしている。

諸しょ葛かずら亮あきらと法正のりまさは性向せいこうが異ことなっていたが（『蜀しょく書しょ』法ほう正伝せいでん）、公おおやけの立場たちばに立たって互たがいに認みとめ合あっていた。また、諸しょ葛かずら亮あきらは常つねに法正のりまさの智さとし術じゅつを高たかく買かっていたため、法正のりまさの蜀しょく郡ぐん太守たいしゅとしての不ふ公正こうせいな振ふる舞まいも容認ようにんした。益えき州しゅうの内うち、かつて張ちょう魯が治おさめていた漢かん中ちゅうは曹操そうそうの支配しはい下かにあり、夏なつ侯ほう淵ふかし・張ちょう郃が駐屯ちゅうとんしていた。同年どうねん（217年ねん）、曹操そうそう軍ぐんの内情ないじょうを分析ぶんせきした法正のりまさは劉りゅう備つぶさに漢かん中ちゅう侵攻しんこうを勧すすめ、自身じしんも軍師ぐんしとして従軍じゅうぐんした。劉りゅう備の下したで適切てきせつな進言しんげんを行おこないつつ、同年どうねん（219年ねん）の定じょう軍ぐん山やまの戦たたかいでも軍ぐん監かんとして策さくを献けんじ、黄き忠ただしに命めいじて夏なつ侯こう淵ふちを斬きらせるなど見事みごと勝利しょうりに導みちびいている。法正のりまさの献策けんさくを聞きき知しった曹操そうそうは「劉りゅう備があのような策さくを考かんがえ付つくはずがない。誰だれかに教おしえられたに違ちがいないと思おもっていた」と語かたったという。しかし、『三国志さんごくし』の注釈ちゅうしゃく者しゃである裴松之のは、曹操そうそうの発言はつげんに対たいして「これは、思おもうに悔くやし紛まぎれのことばであって、事実じじつを推測すいそくしたものではない」と批判ひはんしている。また「わしは有能ゆうのうな人材じんざいをほぼ全すべて集あつめたが、なぜ法正のりまさのみ手てに入いれられなかったのだろうか」とも述のべた。

その後ご、劉りゅう備が遠征えんせいしてきた曹操そうそうを退しりぞけ、漢かん中ちゅうを制覇せいはし漢かん中ちゅう王おうを称しょうすると、尚書しょうしょ令れい・護まもる軍ぐん将軍しょうぐんに任にんじられたが、翌年よくねん（220年ねん）に病死びょうしした。享年きょうねん45歳さい。劉りゅう備は何なん日間にちかんも彼かれを悼いたみ、翼つばさ侯こうという諡号しごうを諡おくりなった。死後しご、子こが後こうを継ついで関内かんない侯こうとなり、後のちに奉たてまつ車くるま都と尉じょう・漢かん陽ひ太守たいしゅに昇進しょうしんした。

章あきら武たけ2年ねん（222年ねん）、夷えびす陵りょうの戦たたかいで劉りゅう備が大敗たいはいした際さい、諸しょ葛かずら亮あきらは「もし法ほう孝こう直じきが生いきていれば、陛下へいか（劉りゅう備）の東征とうせいを止とめられたはずだ。仮かりに止とめられなくとも、今回こんかいのような大敗たいはいはしなかったろうに」と嘆なげいている。

逸話いつわ

劉りゅう備が曹操そうそうと争あらそっていた際さい、軍ぐんが前進ぜんしんを躊躇ちゅうちょし、後退こうたいすべきであった。劉りゅう備は大おおいに怒おこって後退こうたいを許ゆるさなかった。劉りゅう備の周まわりまで矢やが雨あめのように降ふり注そそぎ危険きけんであったが、群臣ぐんしんに敢あえて諌いさめる者ものはいなかった。そこで法正のりまさが劉りゅう備の前まえに立たつと、劉りゅう備は法正のりまさに矢やを避さけるようにと命めいじた。「明あかり公こう(劉りゅう備)が矢やや石いしの飛とび交かう中なかにおられるのに、どうして私しごときが避さけられましょうか」と法正のりまさが答こたえると、劉りゅう備はやっと法正のりまさと共ともに後退こうたいした。

評価ひょうか

陳ちん寿ひさしは「法正のりまさは判断はんだん力りょくに優すぐれ、並外なみはずれた計略けいりゃくの所有しょゆう者しゃであった。しかし、徳性とくせいについて賞賛しょうさんされることはなかった。魏ぎ臣しんに当あてはめれば程ほど昱・郭かく嘉よしみに比類ひるいするだろうか」と述のべている。

関連かんれん項目こうもく

• 張ちょう松まつ
• 孟はじめ達たち
• 彭羕
• 諸しょ葛かずら亮あきら
• 孫まご夫人ふじん