蔣琬

蔣琬
蜀しょく漢かん 安陽あんよう亭ちん侯こう・大だい司馬しば
出生しゅっしょう	生年せいねん不ふ詳しょう 荊州零れい陵りょう郡ぐん湘郷県けん
死去しきょ	延のべ熙9年ねん（246年ねん） 益えき州しゅう梓あずさ潼郡涪県
拼音	Jiǎng Wǎn
字じ	公おおやけ琰
諡号しごう	恭きょう侯こう
主君しゅくん	劉りゅう備→劉りゅう禅ぜん

蔣 琬（しょう えん、? - 246年ねん）は、中国ちゅうごく後こう漢かん末期まっきから三さん国こく時代じだいの蜀しょく漢かんにかけての政治せいじ家か。字じは公おおやけ琰。子こは蔣斌・蔣顕。従弟じゅうていは劉りゅう敏さとし・潘はん濬。

荊州零れい陵りょう郡ぐん湘郷県けん（現在げんざいの湖南こなん省しょう婁底市し双そう峰みね県けん井い字じ鎮）の人ひと。入にゅう蜀しょく前まえの荊州領有りょうゆう時代じだいの劉りゅう備に仕官しかんした。劉りゅう備亡なき後あとは遺児いじの劉りゅう禅ぜん・丞相じょうしょうの諸しょ葛かずら亮あきらを支ささえ、諸しょ葛かずら亮あきらの死しに際さいして後事こうじを託たくされた。卓越たくえつした政治せいじ手腕しゅわんを持もち、諸しょ葛かずら亮あきらに「社稷しゃしょく之の器うつわ（国家こっかを担になう器うつわである）」と才能さいのうを認みとめられ、諸しょ葛かずら亮あきら・費ひ禕・董ただし允まこととともに「四よん相そう」あるいは「四よん英えい」と称しょうされた。関せき羽はね敗はい死後しごに孫まご権けんに帰順きじゅんした潘はん濬（蔣琬の従弟じゅうてい）に妹いもうとが嫁とついでおり、潘はん濬とは義兄弟ぎきょうだいの関係かんけいである。

略歴りゃくれき

20歳さいにして、従弟じゅうていの劉りゅう敏さとしとともにその名なを知しられるようになり、荊州領有りょうゆう時じの劉りゅう備つぶさに仕官しかんした。劉りゅう備の入にゅう蜀しょくに随行ずいこうし広ひろ都と県けん長ちょうに任命にんめいされた。劉りゅう備が広こう都県とけんを訪おとずれた際さい、仕事しごとを放置ほうちして泥酔でいすいしていたため、激怒げきどした劉りゅう備つぶさに処罰しょばつされそうになったが、諸しょ葛かずら亮あきらの取とり成なしにより県けん長ちょうを罷免ひめんされただけで済すんだ。まもなく什邡県令けんれいに復帰ふっきし、建たて安やすし24年ねん（219年ねん）、劉りゅう備が漢かん中ちゅう王おうに即位そくいすると尚書しょうしょ郎ろうに任にんじられた。

建けん興きょう元年がんねん（223年ねん）、諸しょ葛かずら亮あきらが丞相じょうしょう府ふを開府かいふすると茂しげる才ざいに推挙すいきょされるが、蔣琬は最初さいしょ固辞こじして劉りゅう邕・廖淳・陰かげ化か・龐延らに譲ゆずって受うけようとせず、諸しょ葛かずら亮あきらに諭さとされた。東ひがし曹掾、後のちに昇進しょうしんして参さん軍ぐんに任にんじられた。建けん興きょう5年ねん（227年ねん）、諸しょ葛かずら亮あきらが北きた伐きを開始かいしした際さいには、長ちょう史しの張ちょう裔と共ともに留守るすとして成都せいとに残のこり、政治せいじ・軍事ぐんじを預あずかった。諸しょ葛かずら亮あきらは『出師すいし表ひょう』において「侍さむらい中ちゅう（郭かく攸之・費ひ禕）・尚書しょうしょ（陳ちん震しん）・長ちょう史し（張ちょう裔）・参さん軍ぐん（蔣琬）、此これ悉ことごとく貞良さだよし死し節ぶしの臣しんなり」と蔣琬を称となえた。建けん興きょう8年ねん（230年ねん）に張ちょう裔に代かわって長ちょう史しとなり、また撫なで軍ぐん将軍しょうぐんにも任にんじられた。諸しょ葛かずら亮あきらは密ひそかに劉りゅう禅ぜんに対たいし「私わたしが死しぬことがあれば、後事こうじを蔣琬に託たくすべきです」と上書うわがきしていた。

建けん興きょう12年ねん（234年ねん）、諸しょ葛かずら亮あきらが死去しきょすると尚書しょうしょ令れいとなり、すぐに仮かり節ふし・行ぎょう都みやこ護まもる・領りょう益えき州しゅう刺史ししを加くわえられた。丞相じょうしょう長ちょう史しの楊儀は中ちゅう軍師ぐんし、丞相じょうしょう司馬しばの費ひ禕は後こう軍師ぐんし、護まもる軍ぐんの姜きょう維は右みぎ監かん軍ぐん・輔漢将軍しょうぐん、中ちゅう監かん軍ぐんの鄧芝は前ぜん軍師ぐんし・前ぜん将軍しょうぐん、張ちょう翼つばさは前ぜん領りょう軍ぐん、左ひだり将軍しょうぐんの呉ご懿は車くるま騎き将軍しょうぐん・督とく漢かん中ちゅう、参さん軍ぐんの王おう平たいらは後こう典てん軍ぐん・安あん漢かん将軍しょうぐんとなり、蔣琬はこれらの人々ひとびとと諸しょ葛かずら亮あきらの死しに動揺どうようする北きた伐きの根拠地こんきょちであった漢かん中ちゅうおよび成都せいとの蜀しょく政権せいけんを落おち着つかせる役やくを担になった。

楊儀の失脚しっきゃくを経へて、建けん興きょう13年ねん（235年ねん）に大将軍だいしょうぐん・録ろく尚書しょうしょ事ごと・中ちゅう都と護まもる・領りょう益えき州しゅう刺史ししに昇進しょうしんし、また安陽あんよう亭ちん侯こうに封ふうじられた。延のべ熙元年がんねん（238年ねん）、詔みことのりにより漢かん中ちゅうにて大将軍だいしょうぐん府ふを開府かいふして屯田とんでんを進すすめ、明あけて延のべ熙2年ねん（239年ねん）、大だい司馬しば・録ろく尚書しょうしょ事ごと・領りょう益えき州しゅう刺史ししに昇進しょうしんした。蜀しょくでは諸しょ葛かずら亮あきらの死後しごは丞相じょうしょうの職しょくは置おかれなかったが、蔣琬は軍事ぐんじ統帥とうすいの最高さいこう位いである大将軍だいしょうぐん・大だい司馬しば、行政ぎょうせい実務じつむの最高さいこう位いである録ろく尚書しょうしょ事ごと、地方ちほう行政ぎょうせいの最高さいこう位いである益えき州しゅう刺史ししを全すべて兼務けんむし、丞相じょうしょうの職権しょっけんをほぼ全すべて掌握しょうあくしていた。『三国志さんごくし』費ひ禕伝によると、国くにの恩賞おんしょう・刑罰けいばつは全すべて漢かん中ちゅうにいる蔣琬に諮問しもんされ、その後ごで実施じっしされたという。

延のべ熙4年ねん（241年ねん）に、北きた伐きについて漢かん中ちゅうで蔣琬と費ひ禕が数カ月すうかげつ協議きょうぎした。延のべ熙6年ねん（243年ねん）、蔣琬は姜きょう維を涼りょう州しゅう刺史ししとした上うえで北方ほっぽうに当あたらせ、費ひ禕に大将軍だいしょうぐん・録ろく尚書しょうしょ事ごとの職しょくを託たくし、自身じしんは涪に駐屯ちゅうとんする旨むねを上うえ疏し認みとめられた。延のべ熙7年ねん（244年ねん）、蔣琬は以前いぜんの諸しょ葛かずら亮あきらによる北進ほくしん策さくの度々どどの失敗しっぱいを受うけ、姜きょう維に北方ほっぽうで魏ぎを牽制けんせいさせたうえで、自みずからは漢かん水すいを利用りようして東進とうしんし魏ぎ興きょうや上うえ庸いさおを攻撃こうげきする計画けいかくを立たてた。しかし、持病じびょうにより実行じっこうできずにいたことと、撤退てったいの困難こんなんさを挙あげて計画けいかくの反対はんたいを唱となえる人ひとが大勢おおぜいいたことから、劉りゅう禅ぜんの指示しじにより、計画けいかくは実行じっこうされず中止ちゅうしされた。蜀しょくに北きた伐きの動うごきが見みえないため、延のべ熙7年ねん（244年ねん）、呉ごの歩ふ騭・朱しゅ然しからは「蜀しょくは魏ぎと通つうじて呉ごを攻せめようとしている」と言上ごんじょうしたが、孫まご権けんはこれを容いれることはなかった。延のべ熙9年ねん（246年ねん）に病気びょうきが重おもくなり死去しきょ、恭きょう侯こうと諡おくりなされた。東あずま晋すすむの常つね璩の『華陽かよう国こく志こころざし』によると、蔣琬の墓所はかしょは涪にあるとされる。

人物じんぶつ

成都せいと武たけし侯こう祠ほこらの蔣琬塑像そぞう

• 諸しょ葛かずら亮あきらが亡なくなった時とき、人々ひとびとは不安ふあんを抱だいたが、後事こうじを託たくされた蔣琬の様子ようすが変かわらないのを見みて心服しんぷくしたという。
• 楊戯が蔣琬との議論ぎろんの途中とちゅうで返事へんじに詰つまってしまう事ことがあった。その時とき、楊戯を快こころよく思おもわない者ものが失脚しっきゃくさせようと「楊戯は蔣琬殿どのと議論ぎろんをしていると言いうのに返事へんじをせぬとは無礼ぶれいではありませぬか」と指摘してきした。すると蔣琬は「人ひとは顔かおの造つくりが違ちがうように考かんがえ方かたも人ひとによって違ちがう。彼かれは自分じぶんの考かんがえを曲まげてまで私わたしの意見いけんに合あわせる事ことはしないが、かと言いって否定ひていすれば公おおやけに私わたしを批判ひはんする事ことになってしまうからあえて返事へんじをしなかったのだ。これは彼かれの長所ちょうしょである」と弁護べんごした（この出来事できごとが『十人十色じゅうにんといろ』の由来ゆらいとされる）。
• 蔣琬を「前任ぜんにん者しゃ（諸しょ葛かずら亮あきら）に及およばない」と謗そしった楊敏に対たいしても、「事実じじつ私わたしは諸しょ葛かずら亮あきら殿どのに及およばない」と言いって恨うらみを持もつような事ことがなかった。後のちに楊敏は逮捕たいほされる事ことがあったが、それでも蔣琬は個人こじん的てき感情かんじょうでもって刑けいに処しょす事ことはなかった。このように蔣琬は個人こじん的てき感情かんじょうに流ながされず、冷静れいせいで道理どうりに基もとづいた態度たいどを取とった。
• 東あずま晋すすむの袁宏の「三さん国名こくめい臣しん序じょ賛さん」（『文選ぶんせん』所収しょしゅう）においては、蜀しょくの4名めい臣しんとして諸しょ葛かずら亮あきら・龐統・黄き権けんと並ならんで取とり上あげられており、諸しょ葛かずら亮あきらの後継こうけい者しゃとして高たかく評価ひょうかされている。また小説しょうせつ『三国志さんごくし演義えんぎ』でも、蔣琬は有能ゆうのうな政治せいじ家かとして描えがかれ、正史せいし同様どうよう、高官こうかんを歴任れきにんし最終さいしゅう的てきに丞相じょうしょうにまで昇のぼっている。
• 明あきら末すえ・清きよし初はつの思想家しそうか・儒学じゅがく者しゃの王おう夫おっと之のは、著書ちょしょ『読通鑑かん論ろん』で、蔣琬の魏ぎ興きょうや上うえ庸いさおを狙ねらった北きた伐き計画けいかくを愚策ぐさくとして批判ひはんしている。