鍾毓

鍾 毓（しょう いく、? - 景元かげもと4年ねん（263年ねん））は、中国ちゅうごく三さん国こく時代じだいの魏たかしの政治せいじ家か。字じは稚やや叔。豫よ州しゅう潁川郡ぐん長ちょう社しゃ県けん（現在げんざいの河南かなん省しょう許もと昌あきら市し長ちょう葛かずら市し）の人ひと。父ちちは鍾繇、弟おとうとは鍾会。

概要がいよう

14歳さいの時ときに散ち騎き侍さむらい郎ろうとなる。頭あたまの回転かいてんの速はやさや談笑だんしょうする様ようは父ちちの鍾繇の風格ふうかくがあった。太ふとし和わ年間ねんかんの初はじめ、蜀しょく漢かんの諸しょ葛かずら亮あきらが祁山を包囲ほういすると、魏ぎ帝みかど曹叡は親おや征せいを検討けんとうしたが、鍾毓は費用ひようが嵩かさむことと、暑あつさの盛もりに至尊しそんが動うごくべきではないという理由りゆうからこれに反対はんたいした。太ふとし和わ4年ねん（230年ねん）に鍾繇が亡なくなると、その爵位しゃくいを継ついだ。黄門こうもん侍さむらい郎ろうに転任てんにんした後のち、豪華ごうかな宮殿きゅうでんを造営ぞうえいする曹叡を諌いさめ、また荒地あれちの開墾かいこんを再開さいかいするよう進言しんげんした。

正せい始はじめ年間ねんかんに散ち騎き常つね侍さむらいへ転任てんにん。正せい始はじめ5年ねん（244年ねん）、蜀しょく漢かん征伐せいばつに苦戦くせんし増兵ぞうへいを求もとめる曹爽に対たいし、撤退てったいを進言しんげんした。その後ごは曹爽の気持きもちを損そこね、侍さむらい中ちゅうを経へて、魏ぎ郡ぐん太守たいしゅに転任てんにん。この頃ころ、来訪らいほうした占うらない者しゃの管かん輅と『易えき経けい』について議論ぎろんし、管かん輅の論ろんの二に十じゅう余よ箇条かじょうを批判ひはんしたが、全すべて管かん輅によって反論はんろんされ、屈服くっぷくするに至いたった。また管かん輅が自身じしんの誕生たんじょう日びをい当いあてたことに感嘆かんたんしつつも、「死しは天てんによって定さだめられるもので、君きみによって定さだめられるものではない」と述のべ、自身じしんの死期しきについては占うらなわせなかった。

正せい始はじめ10年ねん（249年ねん）、曹爽が処刑しょけいされた後のちに中央ちゅうおうへ戻もどり、御ご史し中ちゅう丞すすむ・侍さむらい中ちゅう・廷尉に転任てんにんした。亡なき主君しゅくんや父ちちへの誹謗ひぼうを取とり締しまる制度せいどを作つくり、また封ふう侯こうされた時ときに妻つまを取とり替かえる制度せいどを廃はいした。

嘉平かへい6年ねん（254年ねん）、夏なつ侯ほう玄げんらが司馬しば師し排斥はいせきのクーデターを企くわだてて、逮捕たいほされた。供述きょうじゅつ書しょの作成さくせいを拒否きょひする夏なつ侯こう玄げんに対たいし、鍾毓は自みずから取とり調しらべに当あたり、事実じじつと符合ふごうするよう供述きょうじゅつ書しょを作成さくせいして見みせると、夏なつ侯ほう玄げんはただ頷うなずくばかりだった。また同おなじくクーデターの容疑ようぎで惨殺ざんさつされた李り豊ゆたかの遺体いたいについては、法ほうによって処刑しょけいされたものではないことから当初とうしょ引ひき受うけを拒否きょひし、正式せいしきな命令めいれいを受うけてようやく応対おうたいしたという。

正せい元もと2年ねん（255年ねん）、毌丘倹・文ぶん欽の乱らんが勃発ぼっぱつすると、持じ節ぶしとして揚あげ州しゅう・豫よ州しゅうの慰撫いぶに当あたった。帰還きかん後ごは尚書しょうしょに転任てんにんした。

甘露かんろ2年ねん（257年ねん）、諸しょ葛かずら誕の乱らんが勃発ぼっぱつ。次ついで呉ごの孫まご壱いちが魏ぎに降伏ごうぶくした。「孫まご壱いち降伏ごうぶくの影響えいきょうで、呉ごは諸しょ葛かずら誕救援きゅうえんには出兵しゅっぺいできないでしょう」という楽観らっかん論ろんも出でたが、鍾毓は「諸しょ葛かずら誕反乱はんらんの影響えいきょうは大おおきく、孫まご壱いち降伏ごうぶくの影響えいきょうは小ちいさい」としてそれを否定ひていした。司馬しば昭あきらは鍾毓の意見いけんを是ぜとし、諸しょ葛かずら誕討伐とうばつに随行ずいこうさせた。

反乱はんらん鎮圧ちんあつ後ごの甘露かんろ3年ねん（258年ねん）、青あお州しゅう刺史しし・後こう将軍しょうぐんに転任てんにん。その後ごは都みやこ督ただし徐じょ州しゅう諸しょ軍事ぐんじ、都みやこ督ただし荊州諸しょ軍事ぐんじを歴任れきにんした後のち、景元かげもと4年ねん（263年ねん）に死去しきょした。車くるま騎き将軍しょうぐんを追おい増まされ、恵めぐみ侯こうと諡おくりなされた。子この鍾駿が爵位しゃくいを継ついだ。

鍾毓没ぼつ後ごの景けい元もと5年ねん（264年ねん）、弟おとうとの鍾会が蜀しょくで反乱はんらんを企くわだてたが、敗はい死し。鍾毓の子こで、鍾会が養育よういくしていた鍾峻・鍾辿も死刑しけいに該当がいとうしたが、鍾繇・鍾毓の功績こうせきをもって恩赦おんしゃされた。兄弟きょうだいが恩赦おんしゃされたのは、鍾毓が司馬しば昭あきらに対たいし「鍾会は策謀さくぼうに走はしりすぎて一貫いっかんした態度たいどを取とれない男おとこだから、任務にんむを彼かれ一人ひとりに任まかせるのは宜よろしくない」と諫言していたためとも言いわれる。

『晋すすむ書しょ』に立たて伝つてされている魏ぎ舒は、鍾毓配下はいかの長ちょう史ふみを務つとめていたが、鍾毓の射的しゃてき遊あそびの際さいは常つねに得点とくてん係がかりをしていた。しかしある日ひ、人数にんずう合あわせで魏ぎ舒が参加さんかすると、その矢やは全すべて的中てきちゅうした。鍾毓はその実力じつりょくに感嘆かんたんすると共ともに、「私わたしはそなたの才能さいのうを知しり尽つくしていなかった。このことは弓ゆみの腕うでに限かぎらないだろう」と陳謝ちんしゃした。

三国志さんごくし演義えんぎにおける鍾毓

小説しょうせつ『三国志さんごくし演義えんぎ』では第だい107回かいで、蜀しょく漢かんに投降とうこうした夏なつ侯こう覇はが以下いかのエピソードを姜きょう維に語かたり、鍾会への警戒けいかいを促うながす。魏ぎ帝みかど曹丕に謁見えっけんした当時とうじ8歳さいの鍾毓は、満面まんめんに汗あせを掻かいていたため、「卿きょう何なにを以もって汗あせするや？」と下した聞きこされ、「戦せん戦せん惶惶、汗あせ出で如漿」と駢文をもって答ごたえた（惶と漿はともに平声ひょうしょう陽ひ韻いん）。しかし同おなじことを問とわれた7歳さいの弟おとうと・鍾会は、「戦せん戦慄せんりつ慄、汗あせ不ふ敢出」と一いち枚まい上手じょうずの駢文で答こたえた（慄と出だしはともに入声にっしょうで類似るいじ韻いん）ため、人々ひとびとは鍾会を誉ほめそやしたという。

出典しゅってん

• 陳ちん寿ひさし『三国志さんごくし』魏ぎ書しょ 巻まき13 鍾繇伝でん附ふ 鍾毓伝でん