姜きょう維

姜きょう維
清きよし代だいの書物しょもつに描えがかれた姜きょう維
蜀しょく漢かん 平たいら襄じょう侯こう / 大将軍だいしょうぐん
出生しゅっしょう	建たて安やすし7年ねん（202年ねん） 涼りょう州しゅう天水てんすい郡ぐん冀県
死去しきょ	景元かげもと5年ねん1月がつ18日にち（264年ねん3月3日にち）
拼音	Jiāng Wéi
字じ	伯はく約やく
諡号しごう	開明かいめい王おう（西にし魏たかしによる追贈ついぞう）
主君しゅくん	曹叡→劉りゅう禅ぜん

姜きょう 維（きょう い、建たて安やすし7年ねん（202年ねん） - 景元かげもと5年ねん1月がつ18日にち（264年ねん3月3日にち））は、中国ちゅうごく三さん国こく時代じだいの人物じんぶつ。魏たかし・蜀しょく漢かんに仕つかえた。字じは伯はく約やく。涼りょう州しゅう天水てんすい郡ぐん冀県の出身しゅっしん。父ちちは姜きょう冏。妻つまは柳やなぎ氏し。末裔まつえいに隋ずい末すえの姜きょう宝たから誼よしみ・唐とうの官僚かんりょうの姜きょう恪つとむ・姜きょう協きょうがいる。

生涯しょうがい

出生しゅっしょう

姜きょう氏しは代々だいだい「天水てんすいの四姓しせい」と呼よばれる豪族ごうぞくだった。10代前半ぜんはんに、郡ぐんの功こう曹そうだった父ちちが異い民族みんぞくの反乱はんらん鎮圧ちんあつに従軍じゅうぐんし戦死せんししたため、母ははの手てで育そだてられた。郡ぐんに出仕しゅっしして上計あげ掾じょうとなった後のち、召めされて雍州刺史ししの従事じゅうじとなった。その後ご、かつての父ちちの功績こうせきが取とり上あげられて、中ちゅう郎ろうの官かんを贈おくられ、天水てんすい郡ぐんの軍事ぐんじに参与さんよすることになった。

蜀しょくへの降伏ごうぶく

建けん興きょう6年ねん（228年ねん）、蜀しょくの諸しょ葛かずら亮あきらが北きた伐きにて接近せっきんした際さい、天水てんすい太守たいしゅの馬うま遵とともにその偵察ていさつに赴おもむいた。ところが各かく県けんの降伏ごうぶくを耳みみにした馬うま遵は、配下はいかの梁りょう緒いとぐち（功こう曹）・尹いん賞しょう（主おも簿ぼ）・梁りょう虔けん（主おも記き）・姜きょう維（中ちゅう郎ろう）らが諸しょ葛かずら亮あきらと内通ないつうしているのではないかと疑うたがい、上うえ邽に逃亡とうぼうした。姜きょう維らは彼かれを追おったが城内じょうないに入はいる事ことを許ゆるされなかった。このため冀県に戻もどったが、そこでも受うけ入いれてもらえなかったため、取とり残のこされた姜きょう維らは行いき場ばを失うしない、仕方しかたなく蜀しょくに降伏ごうぶくした。諸しょ葛かずら亮あきらは街まち亭ていの戦たたかいで敗北はいぼくすると、西にし県けんの1000余あまり家かと姜きょう維らを引ひき連つれて成都せいとに帰還きかんした。そのため姜きょう維はこれ以後いご、魏ぎ領りょうに残のこった母ははと生いき別わかれになった。諸しょ葛かずら亮あきらは「姜きょう維は仕事しごとを忠実ちゅうじつに勤つとめ、思慮しりょ精密せいみつである。涼りょう州しゅうで最高さいこうの人物じんぶつだろう」と言いい、また「姜きょう維は用兵ようへいに秀ひいで、度胸どきょうがあり、兵へいの気持きもちを深ふかく理解りかいしている」などと評ひょうするほど、その才ざいを高たかく評価ひょうかし、倉くら曹掾・奉たてまつ義よし将軍しょうぐんの官かんを与あたえ、当とう陽ひ亭てい侯こうに封ふうじている。

裴松之のが注ちゅうで引用いんようする孫まご盛もりの『雑記ざっき』によれば、姜きょう維の母親ははおやが魏ぎに戻もどるよう手紙てがみを送おくったが、姜きょう維は蜀しょくで栄達えいたつするという大望たいぼうがあるため戻もどらないと返事へんじしたとある。

蜀しょく軍ぐんの中枢ちゅうすうへ

五丈原ごじょうげん諸しょ葛かずら亮あきら廟びょうの姜きょう維像

その後ごは北きた伐きに従軍じゅうぐんし、中ちゅう監かん軍ぐん・征せい西にし将軍しょうぐんに昇進しょうしんした。建けん興きょう12年ねん（234年ねん）、諸しょ葛かずら亮あきらの死後しごは成都せいとに帰還きかんし、右みぎ監かん軍ぐん・輔漢将軍しょうぐんを授さづけられた。また諸しょ軍ぐんを指揮しき・統率とうそつする事ことを許ゆるされ、平たいら襄じょう侯こうに進すすむ封ふうされた。

延のべ熙元年がんねん（238年ねん）、諸しょ葛かずら亮あきらの後のちを継ついだ大将軍だいしょうぐん蔣琬は、魏ぎ征伐せいばつの準備じゅんびのため大軍たいぐんを統率とうそつして漢かん中ちゅうに駐屯ちゅうとんし、姜きょう維もそれに従軍じゅうぐんした。その後ご、姜きょう維は司馬しばに任命にんめいされ、一軍いちぐんを率ひきいて何なん度ども西方せいほうに侵入しんにゅうした。延のべ熙3年ねん（240年ねん）、羌族の迷当の反乱はんらんに呼応こおうして隴西に侵攻しんこうしたが、郭かく淮に鎮圧ちんあつされたため撤退てったいした。延のべ熙6年ねん（243年ねん）、蔣琬は北きた伐きを断念だんねんして主力しゅりょく軍ぐんを漢かん中ちゅうから撤退てったいさせた。その際さい、姜きょう維を鎮西ちんぜい大将軍だいしょうぐん・涼りょう州しゅう刺史ししに任にんじて北方ほっぽうへの備そなえに残のこした。同どう時期じきに国境こっきょうを預あずかる者ものとして鎮南大将軍だいしょうぐん馬うま忠ただし、鎮北大将軍だいしょうぐん王おう平たいら、東ひがしを預あずかる前ぜん将軍しょうぐん鄧芝がいる。延のべ熙10年ねん（247年ねん）には、衛まもる将軍しょうぐん・録ろく尚書しょうしょ事ごとと昇進しょうしんを続つづけ、軍事ぐんじの中枢ちゅうすうを担になうようになった。

同年どうねん、汶山での異い民族みんぞくの反乱はんらんを制圧せいあつすると、隴西郡ぐんに進出しんしゅつして魏ぎの郭かく淮・夏なつ侯こう覇はらと戦たたかい、これに勝かちこの地ちの異い民族みんぞくを味方みかたに付つけた。涼りょう州しゅうの胡えびす王おうである白虎びゃっこ文ぶん等とうが民衆みんしゅうを率ひきいて降ふってきたため、これを繁しげる県けんに住すまわせた。汶山の平たいら康やすし夷えびすが反はんしたため、姜きょう維はこれを討うち平たいらげた。姜きょう維は還かえると、節ふしを假かされた。延のべ熙12年ねん（249年ねん）、姜きょう維は再ふたたび西平にしだいらに出兵しゅっぺいし勝利しょうりを得える事ことなく撤退てったいしたが、郭かく脩おさむを捕とらえた。姜きょう維は郭かく脩おさむを脅迫きょうはくしたが、屈服くっぷくしなかったという。姜きょう維は、西方せいほうの風俗ふうぞくに通つうじている事ことや自みずからの才能さいのうと武勇ぶゆうを恃みとし、大だい規模きぼな北きた伐き軍ぐんを起おこして諸しょ葛かずら亮あきらの遺志いしを遂とげたいと願ねがっていた。だが、蔣琬の後任こうにんである大将軍だいしょうぐん費ひ禕は賛同さんどうせず、姜きょう維に1万まん以上いじょうの兵へいを与あたえなかった。習鑿歯ぱの『漢かん晋すすむ春秋しゅんじゅう』によると、費ひ禕は姜きょう維に対たいし「我々われわれの力ちからは丞相じょうしょう（諸しょ葛かずら亮あきら）に遥はるかに及およばない。その丞相じょうしょうでさえ中原なかはらを定さだめる事ことが出来できなかったのだ。ましてや我々われわれに至いたっては問題もんだい外がいである。今いまは内政ないせいに力ちからを注そそぎ、外征がいせいは人材じんざいの育成いくせいを待まってからにすべきだ」と語かたっていたという。

北きた伐うと蜀しょくの衰退すいたい

延のべ熙16年ねん（253年ねん）、費ひ禕が魏ぎの降くだ将しょうの郭かく循(郭かく脩おさむ)に刺殺さしころされると、姜きょう維は費ひ禕の後のちを受うけ軍ぐん権けんを握にぎり、数すう万まんの兵へいを率ひきいて北きた伐きを敢行かんこうした。翌年よくねん、魏ぎの李り簡の寝返ねがえりに乗じょうじて狄道県けんをはじめ三さん県けんを制圧せいあつし、徐じょ質ただしを討うち取とった。さらにその翌年よくねんには、魏ぎから亡命ぼうめいしてきた夏なつ侯こう覇はらとともに魏ぎの王おう経けいを洮水の西にしで大破たいはした。王おう経けい軍ぐんの死者ししゃは数すう万まん人にんに及およんだという。（狄道の戦たたかい）この功績こうせきにより翌よく延のべ熙19年ねん（256年ねん）に大将軍だいしょうぐんに昇進しょうしんした。しかし同年どうねん、胡えびす済ずみが約束やくそくを破やぶり後詰ごづめに現あらわれなかったため、段だん谷だにで魏ぎの鄧艾に大敗たいはいし（段だん谷だにの戦たたかい）、国力こくりょくを大おおいに疲弊ひへいさせた。姜きょう維は諸しょ葛かずら亮あきらの先例せんれいに倣ならって、自みずからを後こう将軍しょうぐん・行ぎょう大将たいしょう軍事ぐんじへと降格こうかくさせる事ことで敗戦はいせんの責任せきにんを取とっている。延のべ熙20年ねん（257年ねん）、魏ぎの諸しょ葛かずら誕が寿ことぶき春はるで反乱はんらんを起おこした（諸しょ葛かずら誕の乱らん）のに乗じょうじて魏ぎに攻せめ入はいったが勝かてず、翌よく景けい耀元年がんねん（258年ねん）に諸しょ葛かずら誕の敗はい死しを聞きき撤退てったいした。同年どうねん、大将軍だいしょうぐんに復帰ふっきした。こうしたことから国内こくないでは北きた伐きへの批判ひはんが高たかまり、この頃ころに譙周が陳ちん祗との討論とうろんを元もとに、『仇かたき国論こくろん』という北きた伐きの無謀むぼうさを批判ひはんした著書ちょしょをまとめた。また、朝廷ちょうてい内ないで数少かずすくない北きた伐き推進すいしん派はだった陳ひね祗も同年どうねんに没ぼっし、姜きょう維は孤立こりつした。

このため姜きょう維は北きた伐きを一時いちじ中断ちゅうだんし、代かわりに漢かん中ちゅうの守備しゅびに手てをつけた。姜きょう維は「諸しょ陣営じんえいを交錯こうさくさせて守備しゅびする従来じゅうらいの漢かん中ちゅう防衛ぼうえい法ほうは、防御ぼうぎょ力りょくは高たかいが大勝たいしょうは期待きたいできません。諸しょ陣営じんえいを引ひき退しりぞかせ、兵へいを漢かん城じょう・楽らく城じょうの二に城しろに集中しゅうちゅうさせた上うえで、関所せきしょの守まもりを重視じゅうしして防御ぼうぎょにあたらせ、敵てきが攻せめてきたら遊ゆう撃げき隊たいを両城りょうじょうより繰くり出だして敵てきの隙すきを伺うかがわせましょう。敵てきが疲弊ひへいし撤退てったいした時とき、一斉いっせいに出撃しゅつげきして追撃ついげきすれば敵てきを殲滅せんめつできるでしょう」と建議けんぎした。その結果けっか、胡えびす済ずみを漢かん寿ことぶきまで退しりぞかせ、監かん軍ぐんの王おう含に楽らく城じょうを守まもらせ、蔣斌に漢かん城じょうを守まもらせた。また、西安しーあん・建たて威たけし・武たけ衛まもる・石門せきもん・武たけ城じょう・建たて昌あきら・臨遠に防御ぼうぎょ陣じんを築きずいた。

姜きょう維は長年ながねんに亘わたり軍事ぐんじ面めんのみに力ちからを注そそぎ、一切いっさい内政ないせいを顧かえりみなかった。このため劉りゅう禅ぜんが黄き皓あきらを重用じゅうようして酒色しゅしょくに溺おぼれてしまい、国政こくせいは混乱こんらんした。

景けい耀5年ねん（262年ねん）、4年ねん振ふりに北きた伐きを敢行かんこうしたが、鄧艾に撃退げきたいされた。涼りょう州しゅう出身しゅっしんの姜きょう維は、蜀しょく漢かんの朝廷ちょうてい内ないでは孤立こりつしがちであったため、同年どうねんに黄き皓あきらが閻宇と結託けったくし姜きょう維の軍ぐん権けん没収ぼっしゅうを画策かくさくした際さいには、当時とうじ朝政ちょうせいを担になっていた諸しょ葛かずら瞻や董ただし厥もこれに同調どうちょうし、益えき州しゅう刺史ししに任にんじて成都せいとに留とめ置おかせようとしたほどであった（孫まご盛もり『異同いどう記き』）。姜きょう維は黄き皓あきらを除のぞくよう劉りゅう禅ぜんに嘆願たんがんしたがき入きいれられず、また身みの危険きけんも感かんじたため、これ以後いご成都せいとに戻もどる事ことが出来できなくなった。その際さいに、姜きょう維は趙ちょう雲くもら蜀しょく設立せつりつの功労こうろう者しゃに対たいし、侯ほうの諡おくりなを送おくるべきと劉りゅう禅ぜんに進言しんげんした。設立せつりつの功労こうろう者しゃらには侯ほうの諡おくりなが送おくられた。

蜀しょく漢かんの滅亡めつぼうと姜きょう維の最期さいご

姜きょう維

景けい耀6年ねん（263年ねん）、姜きょう維は魏ぎの侵攻しんこうが近ちかいと見みて、劉りゅう禅ぜんに張ちょう翼つばさ・廖化を増援ぞうえんに派遣はけんするよう上表じょうひょうした。しかし黄き皓あきらは鬼神きじんや巫女ふじょの神託しんたくを信しんじ、敵てきが来こないと考かんがえていたため、劉りゅう禅ぜんにこの事ことを採とり上あげないよう意見いけんした。そのため、群臣ぐんしんは姜きょう維の上表じょうひょうを知しらされなかった。

果はたして同年どうねん5月がつ、魏ぎの司馬しば昭あきらの命いのちを受うけた鄧艾・鍾会が侵攻しんこうして来きたため、ようやく劉りゅう禅ぜんは援軍えんぐんを派遣はけんした。一方いっぽうの姜きょう維は剣けん閣かくで鍾会軍ぐんに抵抗ていこうした。しかし姜きょう維と鍾会が対峙たいじしている間あいだに、鄧艾が陰平かげひらから迂回うかいして成都せいと盆地ぼんちに進入しんにゅうし、綿めん竹ちくで諸しょ葛かずら瞻を討うち取とった。この知しらせを聞きいた劉りゅう禅ぜんは最早もはや抵抗ていこうすらできず、鄧艾に成都せいとを攻せめられる前まえに降伏ごうぶくした。劉りゅう禅ぜん降伏ごうぶくの報ほうを受うけた姜きょう維は、残念ざんねんに思おもいながらも鍾会に降伏ごうぶくした（蜀しょく漢かんの滅亡めつぼう）。将士しょうしらは皆みな怒いかり、剣けんで石いしを斬きったという。鍾会に「なぜ降伏ごうぶくが遅おくれたのか」と詰なじられたが、「これでも早はやすぎたのだ」と答こたえ、鍾会はこの返答へんとうを非常ひじょうに立派りっぱだとした。

降伏ごうぶく後ごの姜きょう維は、鍾会が魏ぎに反逆はんぎゃくする意図いとを抱だいている事ことを見抜みぬき、鍾会に接近せっきんして反逆はんぎゃくするよう提案ていあんした。その目的もくてきは、まず鍾会を魏ぎから独立どくりつさせ、機会きかいを見みて鍾会と魏ぎの将兵しょうへいを殺害さつがいし、劉りゅう禅ぜんを迎むかえ入いれて蜀しょくを復興ふっこうさせようというものであった。鍾会は姜きょう維の進言しんげんに従したがい、遠征えんせいに従軍じゅうぐんした将軍しょうぐんらを幽閉ゆうへいし反乱はんらんを準備じゅんびした。だが将軍しょうぐんらが命いのちの危機ききを感かんじて暴動ぼうどうを起おこしたため計画けいかくが失敗しっぱいし、姜きょう維は鍾会および妻子さいしらと共ともに殺ころされた。享年きょうねん63。

『三国志さんごくし』蜀しょく書しょ姜きょう維伝の注ちゅうに引ひく『世よ語ご』によれば、魏ぎ兵へいが彼かれの遺体いたいを斬きり刻きざんで胆きもを取とり出だしたとき、その胆きもは一いち升しょう枡ますほどもある巨大きょだいなものであったと記述きじゅつされている。

西にし魏たかしのときに宇文うぶん泰たいによって開明かいめい王おうと追贈ついぞうされた。

かつて剣けん閣かく県けん剣けん門もん関せき鎮に墓所はかしょがあり、墓碑ぼひ・墓はか廟びょうなどがあったが、1936年ねんに川かわ陝公路ろ（現在げんざいのG108国道こくどう）の整備せいびのため取とり壊こわされた。唯一ゆいいつ残のこっていた墓はか亭ていも、1960年代ねんだいに文化ぶんか大だい革命かくめいで破壊はかいされ、現在げんざいは跡形あとかたもない。

甘粛かんせい省しょう南東なんとう部ぶの天水てんすい市し甘あま谷たに県けんには姜きょう維の墓所はかしょがあり、彼かれを祀まつる「姜きょう公こう祠ほこら」が存在そんざいし、祠ほこらには姜きょう維を描えがいた壁画へきが、像ぞうなどがある。また四川省広元市剣閣県の剣けん門もん関せき近ちかくに『漢かん大将軍だいしょうぐん姜きょう維之墓ぼ』が存在そんざいする。

三国志さんごくし演義えんぎでの活躍かつやく

成都せいと武たけし侯こう祠ほこらの姜きょう維像

小説しょうせつ『三国志さんごくし演義えんぎ』では馬うま遵配下かの将しょうとして登場とうじょうし、諸しょ葛かずら亮あきらの計略けいりゃくを逆手さかてにとって危機ききに陥おちいらせたり、趙ちょう雲くもと一いち騎き討うちで互角ごかくの勝負しょうぶを演えんじたりしている。諸しょ葛かずら亮あきらはその才ざいを高たかく見込みこみ、自みずからの後継こうけい者しゃとするために計略けいりゃくを用もちいて姜きょう維を蜀しょくに投降とうこうさせている。

『演義えんぎ』での姜きょう維は諸しょ葛かずら亮あきらの第だい一いち後継こうけい者しゃとしての趣おもむきが強つよく、基本きほん的てきに才覚さいかくある善玉ぜんだまに描えがかれており、諸しょ葛かずら亮あきらの死後しご、北きた伐きを続つづけて時ときに敗やぶれる描写びょうしゃはあるものの、それによる国力こくりょく衰退すいたいに関かんしては特筆とくひつされていない。

これにより、晩年ばんねんに重臣じゅうしんたちが姜きょう維を中央ちゅうおうから遠とおざけていくということに関かんし劉りゅう禅ぜんの暗愚あんぐを強調きょうちょうし、姜きょう維の非ひを読者どくしゃに感かんじさせにくい意匠いしょうになっている。なお演義えんぎ第だい119回かいでは、なぜか姜きょう維の享年きょうねんを59としている。また、取とり出だされた胆きもも鶏卵けいらんほどの大おおきさと、史実しじつよりも大幅おおはばに縮小しゅくしょうされている。

横山よこやま光輝みつてるの『三国志さんごくし』では、蜀しょく征討せいとう戦せんに対たいし諸しょ将しょうと共ともに剣けん閣かくの要害ようがいに立たて籠こもり連れん弩いしゆみで抵抗ていこうしている。このため鄧艾は姜きょう維との戦たたかいを諦あきらめ、別べつ動どう隊たいを率ひきいて迂回うかいし成都せいとを攻せめ、姜きょう維が鍾会率ひきいる魏ぎの主力しゅりょくと戦たたかっている間あいだに劉りゅう禅ぜんらを降伏ごうぶくさせてしまう。劉りゅう禅ぜんらの降伏ごうぶくを知しり、劉りゅう禅ぜんから降伏ごうぶくの勅命ちょくめいを受うけた姜きょう維は、諸しょ葛かずら亮あきらから託たくされた蜀しょくを守まもれなかったことを嘆なげきつつ、岩いわに剣けんを叩たたきつけて折おり、他たの兵士へいしらと共ともに泣なきながらそれに従したがい降伏ごうぶくするという締しめくくりになっている。

吉川よしかわ英治えいじの小説しょうせつ『三国志さんごくし』では、最期さいごが鍾会に逆さからったことで彼かれに殺ころされるという何故なぜか正史せいしとは正せい反対はんたいの末路まつろを辿たどったことになっている。

評価ひょうか

才能さいのうについては諸しょ葛かずら亮あきら・鍾会だけでなく、鄧芝も高たかく評価ひょうかし、蔣琬は北きた伐きを姜きょう維に任まかせようとしていた。反面はんめん、頑かたくなに北きた伐きを行おこなったために、譙周を始はじめとする宮中きゅうちゅうの官僚かんりょうや、廖化・張ちょう翼つばさらの将軍しょうぐんにも非難ひなんされている。

魏ぎの鍾会は、姜きょう維を高たかく評価ひょうかし魏ぎの名士めいしと比較ひかくすれば、公休こうきゅう（諸しょ葛かずら誕）・泰たい初はつ（夏なつ侯ほう玄げん）も及およばないと評ひょうした。
また姜きょう維に何なん度ども苦杯くはいを舐なめさせた鄧艾も、当代とうだいの英雄えいゆうであり、私わたしと会あったが為ために、窮きゅうしただけなのだと姜きょう維を称となえた。

西にし晋すすむの歴史れきし家か郭かく頒は著作ちょさく、『魏ぎ晋すすむ世よ語ご』において時ときの蜀しょくの官かん属ぞくは皆みなな天下てんかの英俊えいしゅんであったが、姜きょう維の右みぎに出でる者ものはいなかったと評ひょうした。

西にし晋すすむの王おう崇たかしは、鍾会の知略ちりゃくは張ちょう良りょうに為なすと称となえられた、姜きょう維はこれをいくばくもなく陥おとしいれたのだからその知略ちりゃくはそれに勝まさるものであったといえよう、惜おしい哉と評ひょうした。

『三国志さんごくし』の撰者せんじゃ陳ちん寿ひさしは「姜きょう維は文武ぶんぶともに優すぐれていたが、多年たねんに亘わたり国力こくりょくを無視むしした北きた伐きを敢行かんこうし、蜀しょくの衰亡すいぼうを早はやめた」という批評ひひょうを下くだしている。また孫まご盛もりは「姜きょう維は防衛ぼうえいの任務にんむに就つきながら、敵てきを招まねき寄よせ領土りょうどを失うしなった。滅亡めつぼう後ごは、幸運こううんにも鍾会の厚情こうじょうを受うけておきながらも、鍾会を裏切うらぎる事ことを考かんがえ、道理どうりに外はずれた成功せいこうを得えようと望のぞんだ。なんと愚おろかな事ことだろうか」と断だんじている。

一方いっぽう、裴松之のは姜きょう維に対たいして好意こうい的てき評価ひょうかを下くだしており、姜きょう維の死後しご、郤正がその人格じんかくを高たかく評価ひょうかした文章ぶんしょうに対たいする孫まご盛もりの痛烈つうれつなる批判ひはんについて、再さい批判ひはんを加くわえている。また東あずま晋すすむの干ひ宝たからは「蜀しょくの滅亡めつぼう時じに死しぬことができず、鍾会の乱らんで死しんだのは、死しぬべき場所ばしょを得えられなかったからといえよう」という意見いけんを述のべている。

また南みなみ宋そうの胡えびす三さん省しょうは「姜きょう維の知ちは、鍾会を手てのひらで転ころがすに足たるものだった。時間じかんと命いのちは限かぎられており、どうして行おこなわずにいられようか。姜きょう維の心しんは終始しゅうし、漢かんの為ためであり、千載せんざいの機会きかいの下した、丹にの如ごとく輝かがやいた。陳ちん寿ひさしや孫まご盛もりが貶へんすることは、誤あやまりである」と述のべている。

日本にっぽんの吉川よしかわ英治えいじは自著じちょ『三国志さんごくし』のあとがきにおいて「姜きょう維の多た熱ねつ的てき感情かんじょうは蜀しょく史しの華はなである」としながらも、「諸しょ葛かずら亮あきらには遠とおく及およばないと知しりながら、その誓ちかうところ余あまりに大おおきく、その任にんあまりに多おおく、しかも功こうを急いそいだ結果けっか、蜀しょくの衰退すいたいを速はやめてしまった」という意見いけんを述のべている。