松江まつえ藩はん

松江まつえ藩はん（まつえはん）は、出雲いずもまたは隠岐おきを加くわえた2か国こくを領有りょうゆうした藩はん。藩はん庁ちょうは松江城まつえじょう（島根しまね県けん松江まつえ市し殿町とのまち）。藩主はんしゅは外様とざま大名だいみょうの堀尾ほりお家か、京極きょうごく家かと続つづき、親藩しんぱんの雲くも州しゅう松平まつだいら家かが廃藩置県はいはんちけんまで支配しはいした。

藩はん史ふみ[編集へんしゅう]

前史ぜんし[編集へんしゅう]

豊臣とよとみ政権せいけん時代じだい、出雲いずもは山陰さんいん道どう・山陽さんよう道どう9か国こくを領りょうしていた毛もう利家としいえの支配しはい下かで、一族いちぞくの吉川よしかわ広ひろ家かがかつて尼子あまこ氏しの居城きょじょうだった月山がっさん富田とみた城しろ（現げん島根しまね県けん安来やすぎ市し）を政庁せいちょうとして出雲いずもおよび隠岐おきの2か国こくを経営けいえいしていた。

堀尾ほりお家時いえとき代だい[編集へんしゅう]

慶長けいちょう5年ねん（1600年ねん）関ヶ原せきがはらの戦たたかいの後のち、毛利もうり家かは周防すおう・長門ながと2か国こくに減げん封ふうとなり、吉川よしかわ広ひろ家かも岩国いわくにに移うつされた。これにより遠江とおとうみ国こく浜松はままつで12万まん石せきを領りょうしていた堀尾ほりお忠ただし氏しが、この前年ぜんねんに隠居いんきょして越前えちぜん国こく府中ふちゅうに5万まん石せきの隠居いんきょ料りょうを得えていた父ちち・吉晴よしはるとともに、あらためて出雲いずも・隠岐おき2国こく24万まん石せきで入部にゅうぶ、出雲いずも富田とみた藩はん（いずもとだはん）が立たて藩はんした。

忠ただし氏しは間まもなく慶長けいちょう9年ねん（1604年ねん）に27歳さいで没ぼっし、跡あとを継ついだ忠晴ただはるはまだ5歳さいの幼児ようじだったことから、祖父そふ・吉晴よしはるがその後見こうけんとして事実じじつ上じょうの藩主はんしゅとなった。吉晴よしはるは月山がっさん富田とみた城しろが山やま城じょうで不便ふべんを感かんじたため、慶長けいちょう12年ねん（1607年ねん）から足あしかけ5年ねんをかけて松江城まつえじょうを築城ちくじょうするとともに、その城下町じょうかまちの建設けんせつを行おこなった。慶長けいちょう16年ねん（1611年ねん）に吉晴よしはるは松江城まつえじょうに移うつり、松江まつえ藩はんが成立せいりつしたが、吉晴よしはるはこれを見届みとどけると間まもなく死去しきょした。忠晴ただはるは成人せいじんしたものの男子だんしに恵めぐまれず、寛永かんえい10年ねん（1633年ねん）に33歳さいで死去しきょすると堀尾ほりお家かは無む嗣改易かいえきとなったが、堀尾ほりお家かが築きずいた松江まつえは以後いごも政治せいじ経済けいざいの中心ちゅうしんとして栄さかえ、今日きょうに至いたっている。ちなみに、忠晴ただはるが死亡しぼうし堀尾ほりお家かの無む嗣改易かいえきが明確めいかく化かした時とき、その後釜あとがまとして美作みさく津山つやま藩はん主おも・森もり忠政ただまさの許もとに出雲いずも・石見いわみ・隠岐おきの3か国こくへの加増かぞう転てん封ふうの話はなしが浮上ふじょうする^[1]。津山つやま藩はんでは藩士はんしを巡検じゅんけんさせて検討けんとうするも、肥沃ひよくでない土地とちも多おおく含ふくまれていたことから、忠政ただまさも当初とうしょ乗のり気きではなかったが、老中ろうじゅう・酒井さかい忠勝ただかつより御ご内証ないしょうが届とどけられたことによりこの話はなしを受うけた。しかし翌よく寛永かんえい11年ねん（1634年ねん）7月がつ7日にちに忠政ただまさが京都きょうとで急死きゅうししたため、将軍家しょうぐんけとの正式せいしきな会談かいだんが持もたれる前まえでもあったことから3か国こく加増かぞうの話はなしは立たち消ぎえとなった^[1]。

京極きょうごく家時いえとき代だい[編集へんしゅう]

結局けっきょく、堀尾ほりお家かに代かわって寛永かんえい11年ねん（1634年ねん）、若狭わかさ小浜おばま藩はんより京極きょうごく忠ただし高だかが入部にゅうぶした。京極きょうごく家かは戦国せんごく時代じだいに守護しゅご代だいの尼子あまご家かに支配しはい権けんを奪うばわれる以前いぜんの出雲いずも守護しゅごであり、故こ地ちに復帰ふっきしたことになる。24万まん石せきの領地りょうちに加くわえ、公儀こうぎ御料ごりょうの石見いわみ銀山ぎんざん、石見いわみ国こく邇摩郡ぐん・邑智おうち郡ぐんの計けい4万まん石せきを預あずかることとなった。しかし3年ねん後ごの寛永かんえい14年ねん（1637年ねん）、忠ちゅう高だかは死去しきょした。死しに臨のぞみ末期まっき養子ようしとして甥おいの高和こうわを立たてたが認みとめられず、改易かいえきとなった。しかし高和こうわは同年どうねん、祖先そせんの勲功くんこうを理由りゆうに播磨はりま龍野たつの藩はん6万まん石せきに封ふうじられた。この時点じてんで隠岐おきは公儀こうぎ御料ごりょうとなった。

松平まつだいら家時いえとき代だい[編集へんしゅう]

寛永かんえい15年ねん（1638年ねん）、結城ゆうき秀康ひでやすの三男さんなん・松平まつだいら直政なおまさが18万まん6000石せきで信濃しなの松本まつもと藩はんより転てん封ふうした。以後いご、出雲いずも国こくは雲くも州しゅう松平まつだいら家かの領りょうするところとなった。また松平まつだいら家かは公儀こうぎ御料ごりょうとなった隠岐おき1万まん4000石せきも預あずかることになった。

藩はんの財政ざいせいは年貢ねんぐ米まいによる収入しゅうにゅうのみでは立たち行ゆかず、入にゅう封ふう当初とうしょより苦くるしかった。このため早はやくから専売せんばい制せいを敷しき、木蝋もくろう、朝鮮人参ちょうせんにんじん、木綿こわた、そして鉄てつの生産せいさんを統制とうせいした。特とくにこの地ちは古ふるくから、たたら製鉄せいてつやたたら吹ふきによって砂鉄さてつから鉄てつを生産せいさんすることが盛さかんだった。享とおる保ほ11年ねん（1726年ねん）5代だい・宣せん維は田部たなべ・桜井さくらい・絲原いとはらの大山おおやま林りん地主じぬし3家いえを中心ちゅうしんに組合くみあいによる独占どくせん制度せいどでの製鉄せいてつをおこなった。

不ふ昧（ふまい）と号ごうした7代だい・松平まつだいら治郷はるさとは特とくに有名ゆうめいな藩主はんしゅである。先代せんだい・宗そう衍の代だいより藩政はんせい改革かいかくに着手ちゃくしゅしていた家老がろう・朝日あさひ丹波たんばを引ひき続つづき起用きようして財政ざいせい再建さいけんを推進すいしんした結果けっか、寛政かんせい年間ねんかん（1789年ねん - 1801年ねん）には8万まん両りょうもの蓄財ちくざいが出来できるまでになった。治郷はるさとは藩はん財政ざいせいの好転こうてんを期きに、かねてからの趣味しゅみであった茶道さどうに傾倒けいとうして不ふ昧流を創設そうせつした。名器めいきの蒐集しゅうしゅうも行おこなっているが、その目録もくろくである『雲くも州しゅう蔵ぞう帳ちょう』や、著書ちょしょ『古今ここん名物めいぶつ類聚るいじゅう』、そして『瀬戸せと陶器とうき濫觴らんしょう』上中かみなか下巻げかんは茶道さどう研究けんきゅうの重要じゅうような資料しりょうの一ひとつとなっている。また茶道さどうとの絡がらみで、松江まつえの町まちはこの頃ころより京都きょうと・奈良なら・金沢かなざわと並ならび和菓子わがしの一大いちだい名所めいしょとなった。茶ちゃや和菓子わがしのみに留とまらず、松江まつえおよび出雲いずも地方ちほうでは今日きょうでも、治郷はるさとが好このんだ庭園ていえんや工芸こうげい品ひんなどが「不ふ昧公好このみ」と呼よばれる一ひとつの銘柄めいがらと化かしているほどである。しかしその反面はんめん、晩年ばんねんに至いたっては膨大ぼうだいな散財さんざいから再ふたたび藩はん財政ざいせいを傾かたむけることとなった。

幕末ばくまつの松江まつえ藩はんは政治せいじ姿勢しせいが曖昧あいまいで、大政奉還たいせいほうかん・王政おうせい復古ふっこ後こうも幕府ばくふ方かた・新しん政府せいふ方かたどっちつかずだったために、新しん政府せいふの不信ふしんを買かった。結局けっきょくは新しん政府せいふに恭順きょうじゅんすることとなり、慶応けいおう4年ねん（1868年ねん）に始はじまった戊辰戦争ぼしんせんそうでは京都きょうとの守備しゅびについた。同年どうねん、隠岐おきを治おさめていた松江まつえ藩はんの代官だいかんが島民とうみんの蜂起ほうきにより放逐ほうちくされるという隠岐おき騒動そうどうが起おこった。江戸えど時代じだい中期ちゅうきから頻繁ひんぱんに起おこっていた隠岐おきでの飢饉ききんへの対処たいしょ不足ふそく、外国がいこく船せんの来航らいこう・上陸じょうりくに対たいする無為むい無策むさくぶりなどに対たいする島民とうみんの不満ふまんが爆発ばくはつしたのである。代官だいかん放逐ほうちく後ご、隠岐おきでは自治じち政府せいふが成立せいりつ、一旦いったんは松江まつえ藩はんに奪うばい返かえされたものの、鳥取とっとり藩はんと新しん政府せいふの介入かいにゅうにより再ふたたび自治じち政府せいふが開ひらかれ、以後いごは鳥取とっとり藩はんの預あずかりとなった。明治めいじ2年ねん2月がつ25日にち（1869年ねん4月がつ6日にち）には廃藩置県はいはんちけんよりも2年ねん早はやく隠岐おき県けんが誕生たんじょうしている。

松江まつえ藩はんは明治めいじ4年ねん（1871年ねん）の廃藩置県はいはんちけんにより松江まつえ県けんとなり、その後ご島根しまね県けんに編入へんにゅうされた。松平まつだいら家かは明治めいじ2年ねんの版籍はんせき奉還ほうかんとともに華族かぞくに列れっし、明治めいじ17年ねん（1884年ねん）の華族かぞく令れいで伯爵はくしゃくに叙爵じょしゃくされている。

支ささえ藩はんとしては、広瀬ひろせ藩はんと母里もり藩はん、また一時いちじ存在そんざいした松江まつえ新田にった藩はんがある。

歴代れきだい藩主はんしゅ[編集へんしゅう]

堀尾ほりお家か[編集へんしゅう]

外様とざま 24万まん石せき（1600年ねん - 1633年ねん）

京極きょうごく家か[編集へんしゅう]

外様とざま 24万まん石せき（1634年ねん - 1637年ねん）

忠ちゅう高だか

雲くも州しゅう松平まつだいら家か[編集へんしゅう]

親藩しんぱん 18万まん6千せん石せき（1638年ねん - 1871年ねん）

重臣じゅうしん[編集へんしゅう]

乙部おとべ九郎兵衛くろべえ家か
乙部おとべ可か正せいが初代しょだい。
三谷みたに半はん太夫たゆう家か
藩はん祖そ直政なおまさ生母せいぼの異母いぼ兄けい三谷みたに吉長よしながが初代しょだい。
朝日あさひ丹波たんば家か
朝日あさひ重政しげまさが初代しょだい。
神谷かみや兵庫ひょうご家か
神谷かみや富次とみじが初代しょだい。
柳やなぎ多四郎たしろう兵衛ひょうえ家か
結城ゆうき氏しの一族いちぞく柳やなぎ多た長ちょう弘ひろしが初代しょだい。
大橋おおはし茂しげる右みぎ衛門えもん家か
福島ふくしま正則まさのり旧臣きゅうしん大橋おおはし重賢しげかたが初代しょだい。

支ささえ藩はん[編集へんしゅう]

松江まつえ新田にった藩はん[編集へんしゅう]

松江まつえ新田にった藩はん（まつえしんでんはん）は、江戸えど時代じだい中期ちゅうきに一時いちじあった、松江まつえ藩はんの新田にった分ぶん知ちによる支ささえ藩はん。元禄げんろく14年ねん（1701年ねん）、松江まつえ藩はん2代だい・綱つな隆たかしの五男いつお・近きん憲けんが1万まん石せきを分与ぶんよされ立たて藩はんした。近きん憲けんは宝永ほうえい元年がんねん（1704年ねん）兄あにで3代だい松江まつえ藩主はんしゅ・綱つな近ちかの養子ようしとなり、本家ほんけを相続そうぞくして4代だい・吉よし透とおるとなったため、所領しょりょうは松江まつえ藩はんに還付かんぷされ廃はい藩はんとなった。

幕末ばくまつの領地りょうち[編集へんしゅう]