網野あみの菊きく

網野あみの 菊きく （あみの きく）
新潮社しんちょうしゃ『週刊しゅうかん新潮しんちょう』第だい3巻かん第だい9号ごう（1949）より
誕生たんじょう	1900年ねん1月がつ16日にち 東京とうきょう市し麻布あざぶ区く谷町たにまち
死没しぼつ	(1978-05-15) 1978年ねん5月15日にち（78歳さい没ぼつ）
職業しょくぎょう	小説しょうせつ家か
最終さいしゅう学歴がくれき	日本女子大学にほんじょしだいがく英文えいぶん科か卒業そつぎょう
代表だいひょう作さく	『光子こうし』（1926年ねん） 『さくらの花はな』（1961年ねん） 『ゆれる葦あし』（1961年ねん - 1963年ねん） 『一期一会いちごいちえ』（1967年ねん）
主おもな受賞じゅしょう歴れき	女流じょりゅう文学ぶんがく者しゃ賞しょう（1948年ねん） 女流じょりゅう文学ぶんがく賞しょう（1962年ねん） 芸術げいじゅつ選奨せんしょう文部もんぶ科学かがく大臣だいじん賞しょう（1962年ねん） 読売よみうり文学ぶんがく賞しょう（1968年ねん） 日本にっぽん芸術げいじゅつ院いん賞しょう（1968年ねん）

網野あみの 菊きく（あみの きく、1900年ねん1月がつ16日にち - 1978年ねん5月15日にち）は大正たいしょう末期まっきから昭和しょうわにかけて活躍かつやくした小説しょうせつ家か。志賀しが直哉なおやに見出みいだされ、『光子こうし』で文壇ぶんだんに登場とうじょう。自みずからの生おい立たちや度重たびかさなる不幸ふこうを材ざいとした私小説ししょうせつに徹てっし、その重厚じゅうこうな文体ぶんたいが、戦後せんご高たかく評価ひょうかされて多数たすうの賞しょうを受うけた。日本にっぽん芸術げいじゅつ院いん会員かいいん。別名べつめい・相原あいはら菊子きくこ。

経歴けいれき

東京とうきょう市し麻布あざぶ区く谷町たにまち（現げん・六本木ろっぽんぎ1、2丁目ちょうめ）で馬具ばぐ製造せいぞう業ぎょうの父ちち・亀吉かめきち（1875-）とふじのの長女ちょうじょとして生うまれた。亀吉かめきちは信州しんしゅうの農家のうかの出だしだが、赤坂田あかさかだ町まちの馬具ばぐ辰たつこと金子かねこ辰五郎たつごろうに奉公ほうこうして馬具ばぐ職人しょくにんとなり、戦争せんそう需要じゅようで成功せいこうし、馬具ばぐ革具かわぐ軍ぐん需品じゅひん一式いっしき製造せいぞう販売はんばいのほか東京とうきょう電線でんせん株式会社かぶしきがいしゃの監査かんさ役やくも務つとめた。菊きくが生うまれた頃ころは貧民ひんみん街がいにあった元もと人力車じんりきしゃ夫おっとの祖父そふの家いえで暮くらしていたが、家計かけいが豊ゆたかになるにつれ、赤坂あかさか表おもて町まち、麹町こうじまち区く三番さんばん町まち（現げん・九段南くだんみなみ、九段北くだんきた）へと転居てんきょし、菊きくは小学生しょうがくせいの途中とちゅうから番ばん町まち小学校しょうがっこうで学まなんだ。取引とりひき先さきの若わかい店員てんいんとの不倫ふりんにより母親ははおやが姦通かんつう罪ざいで実刑じっけいとなり両親りょうしんが離婚りこんしたため実母じつぼとは7歳さいで生いき別わかれ、3人にんの継母けいぼを迎むかえ、腹違はらちがいの異母弟いぼてい妹いもうとに囲かこまれるという複雑ふくざつな家庭かていで育そだつ。13歳さいごろ腹膜炎ふくまくえん・肋膜炎ろくまくえんを患わずらい、叔母おばの家いえで病臥びょうがする。

千代田ちよだ高だか女おんなを経へて、1916年ねんに日本女子大学にほんじょしだいがく英文えいぶん科かに入学にゅうがくし、同年どうねん実母じつぼへの複雑ふくざつな心境しんきょうを描えがいた「二に月がつ」を執筆しっぴつし、1920年ねんに同どう作さくを含ふくむ『秋あき』を国文こくぶん堂どう書店しょてんより自費じひ出版しゅっぱんして作家さっかデビュー。同級生どうきゅうせいに宮本みやもと百合子ゆりこ、児童じどう文学ぶんがく作家さっかの丹野たんのてい子こ（野の町まち禎子さだこ）がおり、丹野たんのとは生涯しょうがい親交しんこうした。大学だいがくを卒業そつぎょうしたのち、母校ぼこうで教師きょうしを務つとめる。1922年ねんから二に年ねんあまり早稲田大学わせだだいがく露ろ文科ぶんかの聴講生ちょうこうせいとなる。

友人ゆうじんの湯浅ゆあさ芳子よしこと旅行りょこう中ちゅうに関東大震災かんとうだいしんさいが起おこり、東京とうきょうに戻もどれなくなったため湯浅ゆあさの故郷こきょう京都きょうとに滞在たいざいし、当時とうじ粟田口あわだぐちに住すんでいた志賀しが直哉なおやを一いち期きの思おもいで訪たずねたところ、持参じさんした『光子こうし』を志賀しがに認みとめられて弟子でしとなり、志賀しがの斡旋あっせんで1925年ねんに『文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう』に『家いえ』を、翌よく26年ねん『中央公論ちゅうおうこうろん』2月がつに『光子こうし』を発表はっぴょう。1926年ねんから二に年間ねんかん志賀しがの転居てんきょ先さきである奈良ならに住すんだ。志賀しがを通つうじて武者小路むしゃのこうじ実篤さねあつや滝井たきい孝作こうさくはじめ多おおくの文人ぶんじんと交流こうりゅうした。新あらたな母ははの輿入こしいれが引ひき金がねとなり、1929年ねんに発作ほっさ的てきに服毒ふくどく自殺じさつを図はかり、翌年よくねんには密ひそかに心しんを寄よせていた画家がかの中村なかむら研一けんいちの結婚けっこんに打撃だげきを受うける。

作品さくひんを読よんで感激かんげきしたという京都きょうと帝国ていこく大学だいがく哲学てつがく科か卒そつの教師きょうし相原あいはら信しん作さくから手紙てがみで求婚きゅうこんされてすぐ承諾しょうだくし、お互たがい顔がおを知しらないまま1930年ねんに結婚けっこん。満まん洲しゅう奉天ほうてんの満州まんしゅう医科いか大学だいがく予よ科か教室きょうしつにドイツ語ご教師きょうしとして勤務きんむしていた相原あいはらとともに奉天ほうてんで暮くらす。しばらく文筆ぶんぴつから遠とおざかるが、帰国きこく後ごの1938年ねんに離婚りこんし、1940年ねんに『汽車きしゃの中なかで』で復帰ふっき。失敗しっぱいした結婚けっこんをもとに『肥ふとる』『風呂敷ふろしき』『妻つまたち』『おかしな結婚けっこん』などを執筆しっぴつ。私小説ししょうせつ、随筆ずいひつ風ふうの作品さくひんが多おおい。ロシアの児童じどう文学ぶんがく、民話みんわなどの翻訳ほんやくもある。戦中せんちゅうは東京とうきょうで一人暮ひとりぐらしをし、吉屋よしや信子のぶこや池田いけだ小菊こぎくらと親交しんこうする一方いっぽう、両手りょうてを重症じゅうしょうの水虫みずむしに冒おかされ、リウマチに悩なやまされるなど不調ふちょうも抱かかえた。

1962年ねん「さくらの花はな」で芸術げいじゅつ選奨せんしょう文部もんぶ大臣だいじん賞しょうおよび女流じょりゅう文学ぶんがく賞しょう。1968年ねん、『一期一会いちごいちえ』で読売よみうり文学ぶんがく賞しょう。同年どうねん、日本にっぽん芸術げいじゅつ院いん賞しょう、1969年ねん芸術げいじゅつ院いん会員かいいん。1971年ねんに護国寺ごこくじ裏うらの直ちょく居きょアパートに転居てんきょ、同所どうしょには広津ひろつ和郎かずおの仕事場しごとばがあり、広津ひろつの娘むすめで、網野あみのの没後ぼつごのその生涯しょうがいを著あらわした広津ひろつ桃子ももこと親したしくなる。

1978年ねん5月がつ15日にち、東京とうきょう都と渋谷しぶや区く千駄ヶ谷せんだがやの東京とうきょう勤労きんろう者しゃ医療いりょう会かい代々木よよぎ病院びょういんにおいて、腎不全じんふぜんのため78歳さいで死去しきょ。墓所はかしょは青山あおやま霊園れいえん。網野あみの菊きく旧居きゅうきょ跡あと（1942年ねんから空襲くうしゅうで焼やけるまで居住きょじゅう）として千代田ちよだ区く四番よんばん町まち図書館としょかん（四番よんばん町まち1番地ばんち）に記念きねんプレートが設置せっちされている。

著作ちょさく

墓はか

• 『秋あき』国文こくぶん堂どう書店しょてん 1921
• 『光子こうし』新潮社しんちょうしゃ 1926 - 継母けいぼの死しを題材だいざいにしたもの
• 『汽車きしゃの中なかで』春陽しゅんよう堂どう 1940
• 『若わかい日ひ』全国ぜんこく書房しょぼう「女流じょりゅう作家さっか叢書そうしょ」1942

  他たは、池田いけだ小菊こぎく、壺井つぼい栄さかえ、中里なかさと恒子つねこ、佐多さた稲子いなこ、真杉ますぎ静枝しずえ

• 『妻つまたち』東あずま晃あきら社しゃ 1943 - 奉天ほうてんでの結婚けっこん生活せいかつについて
• 『雪ゆきの山やま』昭南しょうなん書房しょぼう 1943
• 『海辺うみべ』三島みしま書房しょぼう 1947
• 『街まちの子供こども』東京とうきょう出版しゅっぱん 1947
• 『花束はなたば』雄鶏社おんどりしゃ 1948
• 『幸福こうふくということ』竜南りゅうなん書房しょぼう 1958
• 『さくらの花はな』新潮社しんちょうしゃ 1961 - 腹違はらちがいの妹いもうととの確執かくしつを題材だいざいにした
• 『随筆ずいひつ 冬ふゆの花はな』三さん月がつ書房しょぼう 1962
• 『ゆれる葦あし』講談社こうだんしゃ 1964／講談社こうだんしゃ文芸ぶんげい文庫ぶんこ 1994
• 『一期一会いちごいちえ』講談社こうだんしゃ 1967 - 引退いんたい後ご入水じゅすい自殺じさつした八はち代目だいめ市川いちかわ團だん蔵ぞうを偲しのび題材だいざいにした
• 『白文はくぶん鳥とり』土筆つくし社しゃ 1967
• 『遠山とおやまの雪ゆき』皆みな美び社しゃ 1971
• 『心しんの歳月さいげつ』新潮社しんちょうしゃ 1972
• 『雪ゆき晴ばれ 志賀しが直哉なおや先生せんせいの思おもい出で』皆みな美び社しゃ 1973
• 『陽ひのさす部屋へや』講談社こうだんしゃ 1975 - 短たん編集へんしゅうでほかに下記かきを収録しゅうろく

入いれ歯ば・自分じぶんの家いえ・抱だき人形にんぎょう・ばあばいや・新茶しんちゃ・巣立すだつ・幸しあわせな晩年ばんねん
夏期かき寮りょう・ひとの恋文こいぶみ・見学けんがく旅行りょこう・海うみ・清香きよか・猫ねこ・菩提樹ぼだいじゅの葉は

• 『時々ときどきの花はな』木耳きくらげ社しゃ 1978 - 随筆ずいひつ集しゅう
• 『一期一会いちごいちえ・さくらの花はな』講談社こうだんしゃ文芸ぶんげい文庫ぶんこ 1993 - 新編しんぺん全ぜん8作さく

作品さくひん集しゅう

• 『網野あみの菊きく全集ぜんしゅう』全ぜん3巻かん組ぐみ 講談社こうだんしゃ 1969 - 第だい3巻かんに12名めいによる作家さっか・作品さくひん論ろん
• 『おん身みは花はなの姿すがたにて 網野あみの菊きくアンソロジー』山下やました多恵子たえこ編へん 未知みち谷だに 2011
• 『日本にっぽんの文学ぶんがく44　野上のかみ弥生子やよこ　網野あみの菊きく』中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ 1965
• 『現代げんだい日本にっぽん文学ぶんがく大系たいけい48 瀧井たきい孝作こうさく　網野あみの菊きく　藤枝ふじえだ静男しずお集しゅう』筑摩書房ちくましょぼう 1972
• 『筑摩ちくま現代げんだい文学ぶんがく大系たいけい 40 網野あみの菊きく・壷井つぼい栄さかえ・幸田こうだ文集ぶんしゅう』 筑摩書房ちくましょぼう 1978
• 『網野あみの菊きく・芝しば木き好子よしこ・中里なかさと恒子つねこ　女性じょせい作家さっかシリーズ5』角川書店かどかわしょてん 1999

翻訳ほんやく

• エリザベス・クレグホーン・ギャスケル『シャーロット・ブロンテ伝つて』実業之日本社じつぎょうのにほんしゃ（伝記でんき文学ぶんがく選集せんしゅう） 1942
• 『ロシヤ小説しょうせつ選せん』中学生ちゅうがくせい全集ぜんしゅう：筑摩書房ちくましょぼう 1950、新版しんぱん1962 - 作品さくひん8編へんの再話さいわ
• ウィリアム・ハドソン『夢ゆめを追おう子こ』岩波いわなみ少年しょうねん文庫ぶんこ 1951、復刊ふっかん1992
• ヴィタリー・ビアンキ『小しょうネズミのピーク』岩波いわなみ少年しょうねん文庫ぶんこ 1954、復刊ふっかん1992
• 『火ひの鳥とり』小学生しょうがくせい全集ぜんしゅう：筑摩書房ちくましょぼう 1955、新版しんぱん1963 - 民話みんわ、絵えワルワーラ・ブブノワ
• ピョートル・パーヴロウィチ・エルショーフ『せむしの小しょう馬うま』岩波いわなみ少年しょうねん文庫ぶんこ 1957、改版かいはん1986
• サムエル・マルシャーク『十二月じゅうにがつ物語ものがたり』講談社こうだんしゃ 1962

関連かんれん文献ぶんけん

• 三國みくに一朗いちろう『三國一さんごくいち朗ろうの人物じんぶつ誌し』「網野あみの菊きく」（毎日新聞社まいにちしんぶんしゃ、1982）
• 広津ひろつ桃子ももこ『石蕗つわぶきの花はな　網野あみの菊きくさんと私わたし』（講談社こうだんしゃ、1981、講談社こうだんしゃ文芸ぶんげい文庫ぶんこ 1994）

関連かんれん項目こうもく

• 日本にっぽんの小説しょうせつ家か一覧いちらん

外部がいぶリンク

• 早稲田わせだと文学ぶんがく（網野あみの菊きく） - 早稲田大学わせだだいがく - ウェイバックマシン（2012年ねん7月がつ19日にちアーカイブ分ぶん）
• 明日あしたへ宮本みやもと百合子ゆりこ、『婦人ふじんと文学ぶんがく―近代きんだい日本にっぽんの婦人ふじん作家さっか』(実業之日本社じつぎょうのにほんしゃ、1947) - 網野あみのの『光子こうし』『憑きもの』について評論ひょうろん