人吉ひとよし藩はん

人吉ひとよし藩はん（ひとよしはん）は、肥後ひご国こく南部なんぶの球磨くま（くま）地方ちほうを領有りょうゆうした藩はん。藩はん庁ちょうは人吉ひとよし城しろ（現在げんざいの熊本くまもと県けん人吉ひとよし市し）に置おかれた。

略りゃく史し

藩主はんしゅ家かの相良さがら氏しは鎌倉かまくら時代ときよ初頭しょとうの建たて久ひさ4年ねん（1193年ねん）、この地ちの地頭じとうに任にんぜられた。その後ご戦国せんごく大名だいみょうに成長せいちょうし、江戸えど時代じだいに入はいっても領主りょうしゅとして存続そんぞくし明治維新めいじいしんを迎むかえた極きわめて稀まれな藩はんの一ひとつである。

天正てんしょう15年ねん（1587年ねん）豊臣とよとみ秀吉ひでよしの九州きゅうしゅう征伐せいばつの際さい、老臣ろうしんの深水ふかみ長ちょう智さとしは大友おおとも氏し・島津しまつ氏しの間あいだに挟はさまれた小しょう領主りょうしゅの苦衷くちゅうを秀吉ひでよしに訴うったえた。長ちょう智さとしの奔走ほんそうにより当主とうしゅの相良さがら頼房よりふさ（後ごの初代しょだい藩主はんしゅ・長ちょう毎ごと）は領土りょうどを安堵あんどされた。

慶長けいちょう元年がんねん（1596年ねん）深水ふかみ長ちょう智さとしの甥おい・頼よりゆき蔵ぞうと重臣じゅうしん・犬いぬ童わらわ頼よりゆき兄けいとの対立たいりつが激化げきかしこれを石田いしだ三成みつなりが仲裁ちゅうさい。結果けっか、頼よりゆき蔵ぞうが敗訴はいそし彼かれの後うしろ盾たてとなっていた加藤かとう清正きよまさの下したに奔り、深水ふかみ一族いちぞくは頼よりゆき兄けいにより討うたれた。これにより犬いぬ童わらわ頼よりゆき兄けいは相良さがら清きよし兵衛ひょうえ頼よりゆき兄けいと名乗なのり家老がろう・執政しっせいとなり相良さがら家かの中心ちゅうしん的てき役割やくわりを果はたしてゆくこととなる。

慶長けいちょう5年ねん（1600年ねん）の関ヶ原せきがはらの戦たたかいでは、事件じけんの仲裁ちゅうさいに立たった三成みなりへの恩義おんぎから当初とうしょ西にし軍ぐんに付ついた。しかし頼よりゆき兄けいは日向ひなた国こくの小しょう領主りょうしゅである秋月あきづき種たね長ちょう・高橋たかはし元種もとだねらとともに東ひがし軍ぐんへの寝返ねがえりを実行じっこうした。その結果けっか、彼かれらは徳川とくがわ家康いえやすより旧領きゅうりょうを安堵あんどされ各かく自立じりつ藩はんした。

人吉ひとよし藩はんは薩摩さつま藩はんとよく似にた中世ちゅうせいの名残なごりを残のこした行政ぎょうせい機構きこうとなっていた。その1つは外城とじょう制せいである。領内りょうないには14の外城とじょうがあり、それぞれに数すう人にんの家臣かしんが居住きょじゅうし領地りょうちと領民りょうみんの支配しはいを行おこなった。兵へい農のう分離ぶんりがなされておらず、半はん農のう半はん兵へいの無給むきゅう郷士ごうしが人口じんこうの約やく3分ぶんの1を占しめていた。また、キリシタン禁制きんせいとともに浄土真宗じょうどしんしゅう本願寺ほんがんじ派は禁制きんせいを厳守げんしゅしていたことも薩摩さつま藩はんと同おなじである。

藩はん財政ざいせいは初期しょきには、「長崎ながさき買物かいもの」と称しょうされる商売しょうばいにより潤うるおっていた。長崎ながさき買物かいものとは色いろ緞子どんす（いろどんす）・毛氈もうせん（もうせん）・天鵞絨びろうど（びろうど）など舶来はくらい織物おりものを藩はんが長崎ながさきで買かい、京都きょうとで販売はんばいすることで利潤りじゅんを上あげるというものである。

また、新田にった開発かいはつに力ちからを注そそぎ寛永かんえい年間ねんかんには2万まん1000石せきもの新田しんでんが開発かいはつされた。また、日本にっぽん三さん大だい急流きゅうりゅうの一ひとつである球磨川くまがわは舟ふねの遡行そこうが不可能ふかのうと考かんがえられていたが、商人しょうにんの林はやし正ただし盛もりが寛文ひろふみ5年ねん（1665年ねん）に河川かせん改修かいしゅう工事こうじを完成かんせいさせ、これにより河口かこうの八はち代だいまでの水路すいろが確保かくほされて産物さんぶつの搬出はんしゅつ入いれが容易よういになった。これに伴ともない、熊本くまもと藩はん細川ほそかわ家かの許可きょかを得えて八はち代だいに舟場ふなばを設もうけると、球磨くまと八はち代だいの間あいだの物流ぶつりゅうが球磨川くまがわで行おこなわれるようになった。

しかし、幕府ばくふ手伝てつだいや藩邸はんてい改修かいしゅう、度々どどの球磨川くまがわの氾濫はんらんやウンカの発生はっせい等とうにより次第しだいに財政ざいせいは悪化あっかしていった。宝たから暦れき年間ねんかんに於おける100石せき取とりの藩士はんしの実質じっしつ高だかは、およそ3分ぶんの1の36石せきにまで減少げんしょうしている。さらに、150石せき取とり以上いじょうの藩士はんしは馬うまを所持しょじすることが義務付ぎむづけられていたため、ギリギリの禄ろく高だかの者ものは殊更ことさらに窮乏きゅうぼうに喘あえいだ。にもかかわらず、藩はん財政ざいせいが悪化あっかした江戸えど時代じだい中期ちゅうき以降いこう、藩主はんしゅが短命たんめいで頻繁ひんぱんに交代こうたいしたため改革かいかくに手てを付つけることができず、また、藩はん内ないの対立たいりつ（後述こうじゅつ）が改革かいかくの手てを鈍なまらせていた。

江戸えど時代じだい後期こうきには苧からむし（お）、椎茸しいたけ、茶ちゃなどの栽培さいばいを奨励しょうれいし財源ざいげん確保かくほに努つとめたが、藩はん内ない抗こう争そうの煽あおりを受うけたこともあり功こうを奏そうしなかった。

幕末ばくまつの文久ぶんきゅう2年ねん（1862年ねん）には人吉ひとよし城下じょうかは「寅とら助じょ火事かじ」と呼よばれる大火たいかに見舞みまわれ、財政ざいせいは大おおきな痛手いたでを被こうむった。

明治めいじ4年ねん（1871年ねん）に廃藩置県はいはんちけんにより人吉ひとよし県けんとなったのち、八代やしろ県けん、白川しらかわ県けんを経へて熊本くまもと県けんに編入へんにゅうされた。明治めいじ2年ねん（1869年ねん）相良さがら家かは華族かぞくに列れっし、明治めいじ17年ねん（1884年ねん）子爵ししゃくとなった。

藩はん内ない抗争こうそう

人吉ひとよし藩はんでは深水ふかみ氏しと犬いぬ童わらわ氏しの対立たいりつに始はじまり、門葉もんよう（相良さがら一族いちぞく、小しょう衆議しゅうぎ派はと呼よばれる）と家老がろう（大だい衆議しゅうぎ派は）との対立たいりつが絶たえず、たびたびお家いえ騒動そうどう・事件じけんが起おこった。古ふるくからの小しょう領主りょうしゅゆえに門葉もんようが数すう家いえあり、また家臣かしんも古ふるくからの存在そんざいで、互たがいの権利けんり主張しゅちょうが当主とうしゅの権力けんりょくを小ちいさくしていった。しかし、これほど多数たすうの騒乱そうらんが起おこった藩はんは極きわめて珍めずらしい。一方いっぽう、同おなじく古ふるくからの小しょう領主りょうしゅであった大村おおむら氏しは、大村おおむら藩はんの初期しょき段階だんかいで強制きょうせい的てきに改革かいかくを行おこない藩主はんしゅの権力けんりょくを強化きょうかし、それにより藩はん内ないを纏まとめることに成功せいこうしている。

お下しもの乱らん

お下しもの乱らん / 御下おしもの乱らん（おしものらん）は、別名べつめい、相良さがら清きよし兵衛ひょうえ事件じけんあるいは田代たしろ半兵衛はんべえの反はんとも呼よばれる。2代だい藩主はんしゅ頼よりゆき寛ひろしは寛永かんえい17年ねん（1640年ねん）重臣じゅうしんであり次第しだいに権力けんりょくを増幅ぞうふくしていった相良さがら清きよし兵衛ひょうえ頼よりゆき兄けい(犬いぬ童わらわ頼よりゆき兄けい)の専せん横よこを、幕府ばくふに対たいし訴うったえ裁可さいかを仰あおいだ。頼よりゆき兄けいは江戸えどへ召還しょうかんされ小田原おだわら藩はん仮かり預あずかりとなった。この間あいだに江戸えど屋敷やしきより国許くにもとへの使者ししゃとして神瀬かみぜ外がい記き、深水ふかみ惣そう左衛門さえもんが遣つかわされた。使つかいの内容ないようは、頼よりゆき兄けいの養子ようし（義子ぎし）である田代たしろ半兵衛はんべえ頼よりゆき昌あきら（犬いぬ童わらわ半兵衛はんべえとも）を引ひき続つづき藩士はんしとして取とり立たてる、というものであった。しかし、半兵衛はんべえは既すでに頼よりゆき兄けいの処分しょぶんを知しっており、「お下屋敷しもやしき」と呼よばれる頼よりゆき兄けいの屋敷やしきに呼よばれた外そと記きと惣そう左衛門さえもんは半兵衛はんべえらに襲おそわれる。惣そう左衛門さえもんは無事ぶじに逃にげのびるも、外そと記きは捕とらえられ全すべての指ゆびを切きられた上うえで殺害さつがいされた。そして頼よりゆき兄けいの一族いちぞくはお下屋敷しもやしきに立たて籠こもり、藩はん兵へいがこれを取とり囲かこみ戦闘せんとうとなった。結局けっきょく、頼よりゆき兄けいの一族いちぞく全員ぜんいんが討死うちじにまたは自害じがいにより121名めいが死亡しぼうした。これがお下しもの乱らんと呼よばれる事件じけんである。

頼よりゆき兄けいは幕府ばくふの裁定さいていにより遠流おんる（津軽つがる藩はん預あずかり）となり、弘前ひろさきで明あかり暦れき元年がんねん（1655年ねん）に88歳さいで客死かくししている。

村上むらかみ一族いちぞく鏖殺おうさつ事件じけん

村上むらかみ一族いちぞく鏖殺おうさつ事件じけん（むらかみいちぞくおうさつじけん）は、お下しもの乱らんの4年ねん後ごの正保まさやす2年ねん（1645年ねん）に起おきた事件じけんである。300石せき取とりの上士じょうしである村上むらかみ顕あらわ武ぶが、一族いちぞくを招まねいて先祖せんぞ供養くようの法要ほうようをおこなっている最中さいちゅうに、顕あらわ武ぶの養子ようしである角すみ兵衛ひょうえとその実兄じっけいである柳やなぎ瀬長せなが左衛門さえもんが乱入らんにゅうし、一族いちぞく約やく70名めいを惨殺ざんさつした。直後ちょくごに角すみ兵衛ひょうえと長ちょう左衛門さえもんは自決じけつしている。角すみ兵衛ひょうえの生母せいぼの出自しゅつじが低てい身分みぶんだったために、顕あらわ武ぶの妻つまが養子ようし縁組えんぐみに反対はんたいして夫おっとに訴うったえ、顕あらわ武ぶも養子ようし縁組えんぐみを一時いちじ中断ちゅうだんしたために起おこった事件じけんであるとされている。

竹たけ鉄砲てっぽう事件じけん

竹たけ鉄砲てっぽう事件じけん（たけでっぽうじけん）は、8代だい藩主はんしゅ頼よりゆき央ひさしが鉄砲てっぽうにより暗殺あんさつされた事件じけんである。別名べつめい、御ご手て判ばん銀ぎん事件じけんとも呼よばれる。元々もともと相良さがら家かの記録きろくにはなく、秘匿ひとくされていた事件じけんであるが、渋谷しぶや季き五ご郎ろうが相良さがら家か近世きんせい文書ぶんしょを整理せいり中ちゅうに偶然ぐうぜん発見はっけんし判明はんめいした。

発端ほったんは7代だい頼よりゆき峯みねの宝たから暦れき5年ねん（1755年ねん）に領内りょうないを襲おそった大だい水害すいがいである。藩はんは当時とうじすでに財政ざいせいが逼迫ひっぱくしていたが、この大だい水害すいがいにより藩士はんしの生活せいかつは壊滅かいめつ的てきな打撃だげきを受うけた。翌よく宝たから暦れき6年ねん（1756年ねん）、藩士はんし救済きゅうさい策さくとして、家老がろう・万江まえ長ちょう右みぎ衛門えもんらの大だい衆議しゅうぎ派はが希望きぼう者しゃに対たいし御ご手て判ばん銀ぎんの貸かし付つけの触ふれを出だした。しかしこの貸付かしつけは、その借かり高だかに応おうじて家いえ禄ろくを渡わたす分ぶんを差さし引ひくというものであり、100石せき取とり以上いじょうの上うえ給きゅう者しゃらは、その返済へんさい方式ほうしきでは実質じっしつ的てきに知行ちぎょうの削減さくげんとなり藩士はんしが一層いっそう貧困ひんこんに喘あえぐとして異ことを唱となえ、門葉もんよう方かたに訴うったえ出でた。実際じっさい、上うえ給きゅう者しゃで借かり受うけを請こう者ものは無なく、万江まえら一同いちどうは謹慎きんしんに及およぶ。一方いっぽう、相良さがら頼よりゆき母はは（後ごの頼よりゆき央ひさし）ら門葉もんようは、この一いち件けんを江戸えどの頼よりゆき峯みねへの報告ほうこくする際さい、速すみやかに処分しょぶんすべく万江まえを切腹せっぷくにし、他たの者ものを逼塞ひっそくすべしとの密書みっしょを送おくっている（万江まえらは処分しょぶんされず、謹慎きんしんも解とかれた模様もよう）。

宝たから暦れき7年ねん（1757年ねん）、藩主はんしゅ・頼よりゆき峯みねは、帰国きこくに際さいして従前じゅうぜんどおり門葉もんよう（実じつは弟おとうと）の相良さがら頼よりゆき母ははを仮かり養子ようしにしようとした。頼よりゆき母ははは門葉もんようの中心ちゅうしん的てき人物じんぶつであったため、家老がろう・万江まえらはこれに反対はんたいし、連判れんばん状じょうを提出ていしゅつするにいたった。しかし頼よりゆき峯みねは、強硬きょうこうな反対はんたいを押おし切きって頼よりゆき母ははを仮かり養子ようしとして帰国きこくした。ところが、頼よりゆき峯みねを毒殺どくさつし頼よりゆき母ははの擁立ようりつを企くわだてがあるという遺書いしょを残のこして、藩はん医い・右みぎ田立ただち哲あきらが自殺じさつするという事件じけんが起おこった。頼よりゆき峯みねは吟味ぎんみのうえ小しょう衆議しゅうぎ派はを処罰しょばつした。

宝たから暦れき8年ねん（1758年ねん）、頼よりゆき峯みねは江戸えど参府さんぷの途上とじょう発病はつびょうし、江戸えど到着とうちゃく後ご死去しきょした。死去しきょにより頼よりゆき母ははが出府しゅっぷし、8代だい藩主はんしゅ・頼よりゆき央ひさしとなった。翌よく宝たから暦れき9年ねん（1759年ねん）6月がつに帰国きこくした頼よりゆき央ひさしは、その2ヶ月かげつ後ごに急死きゅうしする。相良さがら家かの記録きろくでは、閏うるう7月がつに体調たいちょうを崩くずし薩摩さつま瀬せの別邸べっていで療養りょうようしていたが、病状びょうじょうが悪化あっかし死亡しぼうしたとされている。

しかしい伝いつたえによれば、薩摩さつま瀬せの別邸べっていに滞在たいざい中ちゅうの閏うるう7月がつ、鉄砲てっぽうにより狙撃そげきされ8月がつに至いたり死亡しぼうしたという。藩はんは、銃声じゅうせいを子供こどもの竹たけ鉄砲てっぽう（爆ばく竹ちく）であると誤魔化ごまかし、調査ちょうさを求もとめる訴うったえを取とり上あげなかったという。大だい衆議しゅうぎ派はと小しょう衆議しゅうぎ派はが対立たいりつする中なか、小しょう衆議しゅうぎ派はの中心ちゅうしん人物じんぶつであった藩主はんしゅの抹殺まっさつを謀はかったものと言いわれている。

また、これにより藩主はんしゅ相良さがら家かの血統けっとうは断絶だんぜつし、以後いご約やく10年間ねんかん、他家たけから晃あきら長ちょう、頼よりゆき完かん、福ぶく将しょう、長ちょう寛ひろしの4人にんを相次あいついで継嗣けいしに迎むかえ入いれるという不安定ふあんていな家督かとく相続そうぞくを続つづけ（内密ないみつの藩主はんしゅすり替かえも行おこなっている）、なんとかお家か断絶だんぜつの危機ききを切きり抜ぬけていった。

茸たけ山やま騒動そうどう

茸たけ山やま騒動そうどう（なばやまそうどう）は、天保てんぽう12年ねん（1841年ねん）に起おこった百姓ひゃくしょう一揆いっきである。14代だい藩主はんしゅ頼よりゆき之これは田代たしろ政典まさのりを家老がろうに登用とうようし藩政はんせい改革かいかくを推進すいしんした。その一環いっかんとして豊後ぶんご国こくより椎茸しいたけ栽培さいばいを導入どうにゅうし座ざ（特権とっけん商人しょうにん制度せいど）を設もうけた。作物さくもつへの課税かぜいや椎茸しいたけ山やまへの入山にゅうざん禁止きんしなどに不満ふまんを抱だいた藩はん内ない一いち円えんの農民のうみん約やく1万まん人にんが、特権とっけん商人しょうにん宅たくなどを打うち壊こわした。結果けっか、政典まさのりは切腹せっぷくし、座ざが廃止はいしされることで収拾しゅうしゅうした。また、一揆いっきを煽動せんどうしたとして門葉もんようの相良さがら左ひだり仲なか頼よりゆき直ただしも切腹せっぷくとなった。左ひだり仲なか切腹せっぷくの背景はいけいには、次期じき藩主はんしゅ長福ながふくの擁立ようりつをめぐって、擁立ようりつ支持しじの家老がろう派はと擁立ようりつ反対はんたいの門葉もんよう派はとの対立たいりつがあったようである。

丑うし歳とし騒動そうどう

丑うし歳とし騒動そうどう（うしのとしそうどう）は、幕末ばくまつの慶応けいおう元年がんねん（1865年ねん）に起おこった騒動そうどうである。文久ぶんきゅう2年ねん（1862年ねん）に発生はっせいした大火たいか「寅とら助じょ火事かじ」により武器ぶきが焼失しょうしつし、また西洋せいよう式しき軍隊ぐんたいの導入どうにゅうの必要ひつよう性せいを感かんじた藩はんは、松本まつもと了りょう一郎いちろうを起用きようし軍制ぐんせい改革かいかくに乗のり出だした。了りょう一いち郎ろうの一派いっぱは佐幕さばくであり洋式ようしき派はと呼よばれた。一方いっぽう、江戸えど初期しょきからの伝統でんとうである山鹿やまが流りゅう軍制ぐんせいを守まもろうとする家老がろうらは勤王きんのう派はであった。こうした軍制ぐんせいと政治せいじの対立たいりつがあったが、洋式ようしき派はが優勢ゆうせいとなりオランダ式しき軍制ぐんせいへの改革かいかくが推進すいしんされた。これに反発はんぱつした勤王きんのう派はは了りょう一いち郎ろうらを襲撃しゅうげきし洋式ようしき派は14人にんを上意じょうい討うちにし、逆ぎゃくに勤王きんのう派はが主導しゅどう権けんを掌握しょうあくした。その後ご、山鹿やまが流りゅう、オランダ式しきとも廃止はいしされ薩摩さつま藩はんよりイギリス式しき軍制ぐんせいが導入どうにゅうされた。一連いちれんの騒動そうどうから藩はん内ないの改革かいかくが立たち後おくれ、明治維新めいじいしんでは新しん政府せいふ軍ぐんに参加さんかしたものの目立めだった活躍かつやくはなかった。

歴代れきだい藩主はんしゅ

相良さがら家か

外様とざま　2万まん2000石せき　　　

代だい	氏名しめい	肖像しょうぞう	官位かんい	在職ざいしょく期間きかん	享年きょうねん	備考びこう
1	相良さがら頼房よりふさ さがら よりふさ		従したがえ五ご位い下か・宮内みやうち大輔だいすけ・左衛門さえもん佐さ	天正てんしょう13年ねん - 寛永かんえい13年ねん 1585年ねん - 1636年ねん	63
2	相良さがら頼よりゆき寛ひろし さがら よりひろ		従したがえ五ご位い下か・壱岐いき守もり	寛永かんえい13年ねん - 寛文ひろふみ4年ねん 1636年ねん - 1664年ねん	67
3	相良さがら頼よりゆき喬たかし さがら よりたか		従したがえ五ご位い下か・遠江とおとうみ守まもる	寛文ひろふみ4年ねん - 元禄げんろく16年ねん 1664年ねん - 1703年ねん	63
4	相良さがら頼よりゆき福ぶく さがら よりとみ		従したがえ五ご位い下か・志摩しま守まもる	元禄げんろく16年ねん - 正徳まさのり2年ねん 1703年ねん - 1712年ねん	70	相良さがら長秀ながひでの子こ
5	相良さがら長ちょう興きょう さがら ながおき		従したがえ五ご位い下か・遠江とおとうみ守まもる	正徳しょうとく2年ねん - 享とおる保ほ6年ねん 1712年ねん - 1721年ねん	41	初はつ名な・頼よりゆき以
6	相良さがら長ちょう在ざい さがら ながあきら		従したがえ五ご位い下か・遠江とおとうみ守まもる	享とおる保ほ6年ねん - 元もと文ぶん3年ねん 1721年ねん - 1738年ねん	36
7	相良さがら頼よりゆき峯みね さがら よりみね		従したがえ五ご位い下か・志摩しま守まもる	元もと文ぶん3年ねん - 宝たから暦れき8年ねん 1738年ねん - 1758年ねん	24
8	相良さがら頼よりゆき央ひさし さがら よりひさ		従したがえ五ご位い下か・遠江とおとうみ守まもる	宝たから暦れき8年ねん - 宝たから暦れき9年ねん 1758年ねん - 1759年ねん	23	本来ほんらいの相良さがら氏しの血統けっとうでは最後さいごの藩主はんしゅ。
9	相良さがら晃あきら長ちょう さがら みつなが			宝たから暦れき9年ねん - 宝たから暦れき12年ねん 1759年ねん - 1762年ねん	10	日向ひなた国こく高鍋たかなべ藩はん主おも・秋月あきづき種美かねとみの三男さんなん。
10	相良さがら頼よりゆき完かん さがら よりさだ		従したがえ五ご位い下か・遠江とおとうみ守まもる	宝たから暦れき12年ねん - 明和めいわ4年ねん 1762年ねん - 1767年ねん	19	鷲尾わしお隆たかし煕ひろしの二男じなん。公式こうしきには晃あきら長ちょうと同どう一人物いちじんぶつ。
11	相良さがら福ぶく将しょう さがら とみもち		従したがえ五ご位い下か・越前えちぜん守まもる	明和めいわ4年ねん - 明和めいわ6年ねん 1767年ねん - 1769年ねん	20	美濃みの国こく苗木なえぎ藩はん主おも・遠山とおやま友明ともあきの二男じなん。初はつ名な・遠山とおやま友とも充たかし。
12	相良さがら長ちょう寛ひろし さがら ながひろ		従したがえ五ご位い下か・壱岐いき守もり	明和めいわ6年ねん - 享とおる和わ2年ねん 1769年ねん - 1802年ねん	62	備前びぜん国こく岡山おかやま藩はん主おも・池田いけだ宗そう政まさしの二男じなん。
13	相良さがら頼よりゆき徳とく さがら よりのり		従したがえ五ご位い下か・志摩しま守まもる	享とおる和わ2年ねん - 文政ぶんせい元年がんねん 1802年ねん - 1818年ねん	83
14	相良さがら頼よりゆき之これ さがら よりゆき		従したがえ五ご位い下か・壱岐いき守もり	文政ぶんせい元年がんねん - 天保てんぽう10年ねん 1818年ねん - 1839年ねん	53
15	相良さがら長福ながふく さがら ながとみ		従したがえ五ご位い下か・壱岐いき守もり	天保てんぽう10年ねん - 安政あんせい2年ねん 1839年ねん - 1855年ねん	32
16	相良さがら頼よりゆき基もと さがら よりもと		従したがえ五ご位い下か・遠江とおとうみ守まもる	安政あんせい2年ねん - 明治めいじ4年ねん 1855年ねん - 1871年ねん	45

家臣かしん団だん

筆頭ひっとう家老がろう

相良さがら中務なかつかさ家か (800石せき-500石せき) 藩主はんしゅ一門いちもん。相良さがら頼よりゆき福ぶく三さん男なん, 榮さかえ長ちょうが祖そ。

榮さかえ長ちょう-頼よりゆき直ただし=頼よりゆき匡ただし-頼よりゆき為ため=頼よりゆき直ただし-福ぶく直じき

幕末ばくまつの領地りょうち

• 肥後ひご国こく
  • 球磨くま郡ぐん - 54村むら（全域ぜんいき）
• 日向ひなた国こく
  • 臼杵きゅうしょ郡ぐんのうち - 4村むら

参考さんこう文献ぶんけん

• 児玉こだま幸みゆき多た・北島きたじま正ただし元もと監修かんしゅう『藩はん史し総覧そうらん』新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ、1977年ねん
• 『別冊べっさつ歴史れきし読本とくほん24 江戸えど三さん百ひゃく藩はん 藩主はんしゅ総覧そうらん 歴代れきだい藩主はんしゅでたどる藩政はんせい史し』新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ、1997年ねん ISBN 978-4404025241
• 中嶋なかじま繁雄しげお『大名だいみょうの日本にっぽん地図ちず』文春ぶんしゅん新書しんしょ、2003年ねん ISBN 978-4166603527
• 人吉ひとよし市し史し編へんさん協議きょうぎ会かい『人吉ひとよし市し史し 第だい一いち巻かん』1981年ねん
• 福田ふくだ千鶴ちづる『御家おいえ騒動そうどう 大名だいみょう家かを揺ゆるがした権力けんりょく闘争とうそう』中公新書ちゅうこうしんしょ、2005年ねん ISBN 978-4121017888

外部がいぶリンク

• 人吉ひとよし（相良さがら壱岐いき守もり長ちょう寛ひろし） - 武鑑ぶかん全集ぜんしゅう（人文じんぶん学がくオープンデータ共同きょうどう利用りようセンター）

先代せんだい （肥後ひご国こく）

行政ぎょうせい区くの変遷へんせん 1585年ねん - 1871年ねん （人吉ひとよし藩はん→人吉ひとよし県けん）

次代じだい 八代やしろ県けん