神社じんじゃ建築けんちく

宇治うじ上神かずわ社しゃ本殿ほんでん覆くつがえ屋や（国宝こくほう・世界せかい遺産いさん）。五ご間あいだ社しゃ流造ながれづくり。康平こうへい3年ねん（1060年ねん）頃ごろ建立こんりゅうの現存げんそん最古さいこの神社じんじゃ建築けんちく（京都きょうと府ふ宇治うじ市し）

神社じんじゃ建築けんちく（じんじゃけんちく）は、神社じんじゃの建築けんちく。社殿しゃでん建築けんちく（しゃでんけんちく）ともいう。

概要がいよう

大社たいしゃ造づくり 出雲いずも大社たいしゃ本殿ほんでん（国宝こくほう）（島根しまね県けん出雲いずも市し） 神明しんめい造づくり 伊勢神宮いせじんぐうの御ご稲いね御倉おぐら（内宮ないくう（皇すめらぎ大神宮だいじんぐう）所管しょかん社しゃ）（三重みえ県けん伊勢いせ市し）

今日きょうの神社じんじゃ建築けんちくは、一般いっぱんに、本殿ほんでん（正殿せいでん）・幣ぬさ殿どの・拝殿はいでんが中心ちゅうしんである。神社じんじゃを訪おとずれると、本殿ほんでんの手前てまえに拝殿はいでん（礼拝れいはい用ようの建物たてもの）が建たっており、賽銭さいせん箱ばこが置おいてある。拝殿はいでんは参拝さんぱい者しゃが祈祷きとうなどを受うける場所ばしょになっていることもある。

拝殿はいでんの奥おくに御ご神体しんたいを収おさめる本殿ほんでんがある。本殿ほんでんは拝殿はいでんの奥おくにあってみえにくいため、一般いっぱんの参拝さんぱい者しゃは拝殿はいでんを神社じんじゃ建築けんちくの中心ちゅうしん的てき建物たてものと考かんがえがちである。本殿ほんでんは流造ながれづくり、春日しゅんじつ造づくりが一般いっぱん的てきで、小型こがたの本殿ほんでんでは、風雨ふううから守まもるために覆くつがえ屋やをかける場合ばあいもある。 拝殿はいでんと本殿ほんでんをつなぐ部分ぶぶんに幣ぬさ殿どのが造つくられることも多おおく、これらを一いち続つづきに建たてる場合ばあいも多おおい。建物たてものの横よこに回まわると、拝殿はいでんの奥おくに幣ぬさ殿どのや本殿ほんでんを確認かくにんすることができる。

本殿ほんでんは神かみがいるとされる神聖しんせいな場所ばしょであるため、瑞垣みずがきなどで囲かこわれたり、覆くつがえ屋やが造つくられ、普段ふだんはその内部ないぶをみられないことが多おおい。一部いちぶの神社じんじゃでは山さんや岩がんを神体しんたいとして崇あがめるため、本殿ほんでんを持もたず、神体しんたいを直接ちょくせつ拝おがむための拝殿はいでんのみがあるところ（大神神社おおみわじんじゃ・金きむ鑚神社しゃなど）や拝殿はいでんも持もたない（檜原ひばる神社じんじゃや湯殿山ゆどのさん神社じんじゃ）ところもある。このように、社殿しゃでんのない神社じんじゃが本来ほんらいの形式けいしきであったと考かんがえられる。

仏教ぶっきょう伝来でんらい以降いこうの神社じんじゃ建築けんちくは、寺院じいん建築けんちくの影響えいきょうを受うけ、朱しゅ塗ぬりや瓦かわら屋根やねを取とり入いれた例れいもあるが、建物たてもの内部ないぶに関かんしては神道しんとう伝統でんとうの構成こうせいがよく守まもられている。神社じんじゃ建築けんちくは、一宮いちのみやなどの各かく有力ゆうりょく神社じんじゃにおいて固有こゆうの様式ようしきを採とっており、なおかつ、その固有こゆうの伝統でんとう的てきな様式ようしきを維持いじしようと努つとめている。そのため、神社じんじゃ建築けんちくの様式ようしきを解明かいめいすることは、その神社じんじゃの祭神さいじんの性格せいかくを知しる上じょうで重要じゅうような手てがかりの一ひとつとなる。後のちにできた神社じんじゃにおいても、建立こんりゅう当初とうしょの様式ようしきを保たもつものが多おおい。

本殿ほんでん

本殿ほんでん（ほんでん）は、神霊しんれいを宿やどした神体しんたいを安置あんちする社殿しゃでんのことで、神殿しんでん（しんでん）ともいう。本殿ほんでんは人ひとが内部ないぶに入はいることを想定そうていしていないため、拝殿はいでんより小ちいさいことが多おおい。古ふるくは1宇の本殿ほんでんに1柱はしらの神かみが祀まつられたが、現在げんざいでは1宇の本殿ほんでんに複数ふくすうの神かみが祀まつられることも多おおい。内部ないぶには神体しんたい（鏡かがみなど）がおさめられる。内陣ないじんと外陣がいじんに分わかれている場合ばあいは内陣ないじんに神体しんたいが納おさめられ、外陣がいじんは献饌けんせん・奉幣ほうへいの場ばとして使つかわれる。

拝殿はいでん

拝殿はいでん（はいでん）は、祭祀さいし・拝礼はいれいを行おこなうための社殿しゃでんで、祭祀さいしの時ときに神職しんしょくなどが着座ちゃくざするところでもあり、吹ふき抜ぬけとされる場合ばあいが多おおい。通常つうじょう、神社じんじゃを訪おとずれた際さいに見みるのはこの拝殿はいでんで、一般いっぱんの参拝さんぱいは拝殿はいでんの手前てまえで拍手はくしゅを打うって行おこなうが、祈祷きとうなどの際さいは拝殿はいでんに昇のぼる（昇殿しょうでん）こともある。拝殿はいでんは、一般いっぱんに本殿ほんでんよりも大おおきく建たてられ、床ゆかを張はるのが一般いっぱん的てきであるが、中央ちゅうおうが土間どまとなっており、通とおり抜ぬけ可能かのうな「割わり拝殿はいでん」（国宝こくほうとなっている桜井さくらい神社じんじゃと出雲いずも建けん雄お神社じんじゃのものが著名ちょめい）もある。舞まい殿どの、神楽かぐら殿どの、社務しゃむ所しょなどを兼かねることもある。

神社じんじゃによっては拝殿はいでんがないところ（春日大社かすがたいしゃ・伊勢神宮いせじんぐうなど）や、2つ持もつところ（伏見ふしみ稲荷いなり大社たいしゃ・明治めいじ神宮じんぐうなど）もある。2つある場合ばあいは、手前てまえを外そと拝殿はいでん（げはいでん）と呼よび、奥おくのものを内うち拝殿はいでん（ないはいでん）と呼よぶ。鈴すず（鈴すずの緒いとぐち）や鰐口わにぐちがある場合ばあいもある。

幣ぬさ殿どの

幣ぬさ殿どの（へいでん）は、祭儀さいぎを行おこない、幣帛へいはくを奉たてまつる社殿しゃでんである。本殿ほんでんと拝殿はいでんとの間あいだに位置いちし、両者りょうしゃをつなぐような構造こうぞうになっているのが特徴とくちょうである。中殿ちゅうでんともいう。幣ぬさ殿どのが独立どくりつしていることもある。また、拝殿はいでんと一体いったいになっている幣ぬさ殿どのもある。幣ぬさ殿どのがない神社じんじゃもある。

権現造ごんげんづくりでは、本殿ほんでん・拝殿はいでんよりも低ひくい「石いしの間あいだ」と呼よばれる建物たてものが幣ぬさ殿どのである。

その他た

このほか、楼門ろうもん（神門ごうど）や鳥居とりい、神楽かぐら殿どの（舞まい殿どの）、手水ちょうず鉢はち、社務しゃむ所しょなどが神社じんじゃ建築けんちくに含ふくまれる。

神社じんじゃ建築けんちく（本殿ほんでん）の特徴とくちょう

以下いかはあくまで概論がいろんであり、全すべての神社じんじゃ建築けんちくに当あてはまるわけではなく、時代じだいによっても変遷へんせんがあるが、神社じんじゃ建築けんちく（特とくに本殿ほんでん建築けんちく）の特徴とくちょうとして以下いかの点てんが指摘してきされている。

1. 屋根やねに妻つまを持もつこと
2. 床ゆかを高たかく張はること
3. 瓦かわらを用もちいないこと
4. 土ど壁かべを用もちいないこと
5. 装飾そうしょくの質素しっそなこと

まず「屋根やねに妻つまを持もつこと」についてだが、これは神社じんじゃ建築けんちくの屋根やねはほとんどが切妻きりづま造づくりで、一部いちぶに入母屋いりもや造づくりが見みられる。入母屋いりもや造づくりは仏教ぶっきょう建築けんちくに由来ゆらいする様式ようしきであるが、同おなじ仏教ぶっきょう建築けんちくの様式ようしきであるが妻つまのない寄よせ棟とう造づくりや宝たから形かたち造づくりは採用さいようされていない。このことは、仏教ぶっきょう建築けんちくからの一方いっぽう的てきな影響えいきょうではなく、神社じんじゃ建築けんちくとしての価値かち観かんに基もとづいて、神社じんじゃ側がわが主体しゅたい的てきに入母屋いりもや造づくりを神社じんじゃ建築けんちくに採用さいようしたことを示しめしている。

妻つまの神社じんじゃ建築けんちくにおける意義いぎははっきりしないが、信仰しんこう上じょうの重要じゅうような要素ようそであったことは間違まちがいないと思おもわれる。例たとえば、伊勢神宮いせじんぐう正殿せいでんにおいて妻つまの部分ぶぶんの金具かなぐが特別とくべつ視しされ、式年しきねん遷宮せんぐうの際さいに妻つまを装着そうちゃくする儀礼ぎれいが秘伝ひでんとされたことや、流造ながれづくりの社殿しゃでんを横よこにいくつも連結れんけつした社殿しゃでんにおいて、ひとつの社殿しゃでんごとに正面しょうめんに千鳥ちどり破風はふ（妻つま）が設もうけられて、ひとつひとつの社殿しゃでんが区別くべつされていることからもわかる。

床ゆかを高たかく張はることについては、本来ほんらい、土間どまを基本きほんとする寺院じいん建築けんちくと対照たいしょう的てきである（奈良なら時代じだいの仏堂ぶつどうや禅宗ぜんしゅう様さまの建物たてものは中国ちゅうごくの建築けんちくと同様どうように床ゆかを張はらない）。

瓦かわらを用もちいないことについては、明あきらかに瓦葺かわらぶきの仏教ぶっきょう建築けんちくとの差異さいを意識いしきし、もしくは仏教ぶっきょう建築けんちくを忌避きひしたものであるといえる。神社じんじゃの屋根やねは基本きほん的てきに植物しょくぶつ材ざいで葺ふくが（茅かや葺、檜ひのき皮がわ葺や杮葺）、近世きんせいになると銅どう板葺いたぶき（銅どう葺）も用もちいられるようになった。ただし例外れいがい的てきに、本殿ほんでんに瓦葺かわらぶきを用もちいる場合ばあいもある(たとえば、沖縄おきなわの神社じんじゃは伝統でんとう的てきな赤あか瓦かわらを用もちいる)。土ど壁かべを用もちいないことについても同様どうようである。

装飾そうしょくが質素しっそなことは、上古じょうこの日本にっぽん建築けんちくの様式ようしきを固定こてい化かしたためといえる。日本にっぽん固有こゆうの神かみの住すまいであるので、仏教ぶっきょうとは異ことなることを意識いしきし、日本にっぽんに伝統でんとう的てきな建築けんちくの意匠いしょうを取とり入いれている。

本殿ほんでんの起源きげん

山宮さんぐう浅間あさま神社じんじゃ 富士山ふじさん本宮ほんぐう浅間あさま大社たいしゃの本宮ほんぐうと伝つたえられ、現在げんざいも本殿ほんでんを持もたず富士山ふじさんそのものを祀まつる古ふるい祭祀さいし形態けいたいを留とめている（静岡しずおか県けん富士宮ふじのみや市し）

神社じんじゃは、古ふるくはヤシロ（社）しゃだんほうじんといい、このヤシロとは本来ほんらいは「屋代やしろ」の意味いみで、神かみを祭まつる仮かり小屋こやや祭壇さいだんを指さした。ヤシロのシロは、穢けがれを付着ふちゃくさせるための身代みがわりとされるカタシロ（形代かたしろ）などのシロと同意どういである。

神かみの依よ代だいである神かみ籬ませは、最もっとも小ちいさなヤシロといえる。また、広ひろい意味いみでは祭壇さいだんや、忌き竹ちくや注連縄しめなわなどで俗界ぞっかいと区切くぎられて聖域せいいきとされた祭場さいじょう全体ぜんたいも含ふくめて、ヤシロ、つまり、一時いちじ的てきな神かみの仮住かりずまいといいうる。

神かみの仮住かりずまいに過すぎなかったヤシロは、寺院じいんにおいて仏像ぶつぞうを祀まつる仏教ぶっきょうの影響えいきょうから、御ご神体しんたいを常つね祭まつりする「神社じんじゃ」へと変貌へんぼうしていった。神社じんじゃにおいて、最もっとも重要じゅうような御ご神体しんたいの鎮座ちんざする内陣ないじんを備そなえた建物たてものが「本殿ほんでん」とされ、御ご神体しんたいを拝おがむための「拝殿はいでん」や、神域しんいきを区切くぎる鳥居とりいなどの設備せつびが整備せいびされていった。なお、本来ほんらいの姿すがたから変貌へんぼうを遂とげていった後のちも、多おおくの神社じんじゃでは、御ご神霊しんれいと因縁いんねんのある霊域れいいき（磐いわ座ざなど）で祭まつりが行おこなわれている。

神社じんじゃ建築けんちくの成立せいりつに影響えいきょうを与あたえたと考かんがえられるのが神宮寺じんぐうじの建立こんりゅうである。神宮寺じんぐうじは神社じんじゃに建たてられた寺院じいんのことで、神仏しんぶつ習合しゅうごうの初期しょき段階だんかいで登場とうじょうした。神宮寺じんぐうじの建立こんりゅうにより、神社じんじゃは仏教ぶっきょう建築けんちくの直接ちょくせつの影響えいきょうを受うけたが、隣接りんせつするためにかえって神社じんじゃ建築けんちくと寺院じいん建築けんちくの差異さいを求もとめるようになったと考かんがえられる。

拝殿はいでんの起源きげん

春日大社かすがたいしゃ中門ちゅうもん（重文じゅうぶん）（奈良なら県けん奈良なら市し）

拝殿はいでんの成立せいりつは本殿ほんでんよりも後ごである。現在げんざいでも伊勢神宮いせじんぐう・春日大社かすがたいしゃ・宇佐うさ神宮じんぐう・松尾まつお大社たいしゃなど拝殿はいでんを持もたない古いにしえ社しゃは多おおい。 拝殿はいでんは祭神さいじんの祭祀さいしのための施設しせつであるが、本来ほんらい、神社じんじゃの祭祀さいしは本殿ほんでんの正面しょうめんの露天ろてんの祭場さいじょうで行おこなわれていた。本殿ほんでんは、その起源きげんを祭壇さいだんに求もとめられるように、祭祀さいしの対象たいしょうであって、祭祀さいしを行おこなう場ばでなかったのである。

祭祀さいしにおいて、神職しんしょくらは祭場さいじょうの左右さゆうに着座ちゃくざし、そこから中央ちゅうおうの祭場さいじょうに赴おもむいて祭儀さいぎを行おこなったが、祭場さいじょうが屋内おくないになると、中心ちゅうしんの祭場さいじょうが幣ぬさ殿どのとなり、神職しんしょく着座ちゃくざの場ばが回廊かいろうとなった。回廊かいろうの入口いりくちには楼門ろうもんが建たてられた。このように祭祀さいしの形態けいたいにあわせて、楼門ろうもんと回廊かいろうと幣ぬさ殿どのが建たてられたが、これらを持もつに至いたらない小規模しょうきぼな神社じんじゃは、やがてその機能きのうを圧縮あっしゅくして、ひとつの社殿しゃでんにその機能きのうを備そなえさせることにした。これが拝殿はいでんである。

建築けんちく様式ようしき

古典こてん的てき神社じんじゃ建築けんちく（本殿ほんでん）の類型るいけい

古典こてん的てきな神社じんじゃ建築けんちく（本殿ほんでん建築けんちく）は、以下いかのように分類ぶんるいすることができる。

1. 柱はしらの下したに土台どだいを持もつもの
2. 心こころ御ご柱はしら（しんのみはしら）を持もつもの
3. 内部ないぶが2室しつに分わかれるもの

柱はしらの下したに土台どだいを持もつものは流造ながれづくり・春日しゅんじつ造づくりに代表だいひょうされる。柱はしらを地面じめんに直接ちょくせつ建だてたり、礎石そせきなどの基礎きそを設置せっちしたりせずに、社殿しゃでんの最さい下部かぶに井桁いげたを組くみ、その上うえに柱はしらを建たてる。これは社殿しゃでんを移動いどうさせることを前提ぜんていとした様式ようしきで、祭祀さいしのときのみ社殿しゃでんを設置せっちし、祭祀さいしを行おこなわないときには社殿しゃでんを設置せっちしていなかったという、上古じょうこの祭祀さいし方法ほうほうの名残なごりではないかと言いわれている。また、「神かみ籬ませ」（上古じょうこの仮設かせつの祭壇さいだん）が発展はってんして、常設じょうせつの社殿しゃでんとなったのではないかといわれる。

流造ながれづくり・春日かすが造づくりのいずれも床下ゆかしたを壁かべで隠蔽いんぺいしている。これは神社じんじゃ建築けんちく一般いっぱんの特徴とくちょうでもあるが、社殿しゃでんと設置せっちされた地面じめんとのつながりに神聖しんせい性せいを求もとめることによる。い換いかえると、社殿しゃでんの神聖しんせい性せいの根源こんげんは置おかれている場所ばしょに求もとめることができる。すなわち、神体しんたいとされる領域りょういきや磐いわ座ざなどの上うえに仮設かせつの祭壇さいだんを置おいて祀まつった神かみ籬ませの形式けいしきを受うけ継ついだものではないかということが、ここからも指摘してきできる。

境内けいだい社しゃや小祠しょうしに用もちいられる様式ようしきで、流造ながれづくりや春日しゅんじつ造づくりの階かいを省略しょうりゃくして棚たなを付つけた見世みせ棚たな造づくりという小型こがた社殿しゃでん様式ようしきがあるが、これは省略形しょうりゃくけいというよりはむしろ神社じんじゃ建築けんちくの原形げんけいに近ちかいともいえるかもしれない。

このように、起源きげんを上古じょうこに求もとめることができ、「柱はしらの下したに土台どだいを持もつもの」は神社じんじゃ建築けんちくの中なかでも古ふるい形式けいしきと考かんがえられる。

心こころ御ご柱はしらを持もつものは神明しんめい造づくりと大社たいしゃ造づくりである。この様式ようしきの特徴とくちょうは、心こころ御ご柱はしら・棟むね持じ柱ばしらを持もち、掘立柱ほったてばしらであることである。心こころ御ご柱はしらは、社殿しゃでんの中央ちゅうおうにある柱はしらを指さすが、建築けんちく構造こうぞう上じょう、意味いみをなさない柱はしらであり、本来ほんらいは神かみの依よ代がわであったと考かんがえられる。神明しんめい造づくりでは社殿しゃでん本体ほんたいと完全かんぜんに分離ぶんりしている。棟むね持じ柱ばしらは母屋もやの梁はりを支ささえる他ほかの柱はしらと違ちがって棟むねに届とどく柱はしらのことである。

そして棟むね持じ柱ばしらを含ふくめて、全すべての柱はしらが礎石そせきを使つかわず地面じめんに穴あなを掘ほって建たてる掘立柱ほったてばしらである（現在げんざいの出雲いずも大社たいしゃは土台どだいの上うえに建たつ）。掘立柱ほったてばしらは原始げんし住居じゅうきょ以来いらいの建築けんちくに使つかわれるものである。

内部ないぶが2室しつに分わかれるものは住吉すみよし造づくりと八幡やはた造づくりである。どちらも本殿ほんでん内部ないぶに前後ぜんご2室しつもっている。住吉すみよし造づくりは後室こうしつに神座かんざがあり、八幡やはた造づくりは前後ぜんごの室しつにそれぞれ神座かんざ（昼ひるの神座かんざと夜よるの神座かんざ）があるのであって、両者りょうしゃは厳密げんみつには区別くべつされるが、もともと1室しつの本殿ほんでんが分化ぶんかして2室しつになったものではないという意味いみで共通きょうつうである。大鳥おおとり造づくりや天皇てんのうが大嘗祭だいじょうさいのときに祭儀さいぎを行おこなう大だい嘗宮もこれに含ふくまれると考かんがえられる。

本殿ほんでんの建築けんちく様式ようしき

本殿ほんでんの建築けんちく様式ようしきは大おおきく平ひら入いれと妻つま入いれに分わけられ、さらに屋根やねの形状けいじょうを以もって分類ぶんるいすることが多おおい。それ以上いじょうの細部さいぶをみると、各かく神社じんじゃ独特どくとくの様式ようしきであることが多おおく、種類しゅるいが多おおくなりすぎて、分類ぶんるいの意味いみをなさなくなる。最古さいこの様式ようしきは神明しんめい造づくりや、大社たいしゃ造づくり、住吉すみよし造づくりといった直線ちょくせん的てきな形状けいじょうの屋根やねを持もつものとされるが、現在げんざい一般いっぱん的てきによく見みられる様式ようしきは流造ながれづくりで、春日かすが造づくりがこれに次ついでおり、いずれも流ながれ線せん的てきな形状けいじょうの屋根やねとなっている。

平ひらた入にゅう形式けいしき

• 神明しんめい造づくり - 仁科にしな神明しんめい宮みや（長野ながの県けん大町おおまち市し）、伊勢神宮いせじんぐう（三重みえ県けん伊勢いせ市し）など

伊勢神宮いせじんぐう正殿せいでんの様式ようしきは他たへの使用しようを禁きんじられているため唯一ゆいいつ神明しんめい造づくりと称しょうされる。なお、棟むね持じ柱ばしらを持もたない場合ばあいなどは単たんに切妻きりづま造づくりとなる。明治めいじ時代じだい以降いこう、神明しんめい造づくりの社殿しゃでんが流行りゅうこうした。

台湾たいわんの神社じんじゃのほとんどは神明しんめい造づくりである。

• 流造ながれづくり - 賀茂かも別べつ雷神らいじん社しゃ・賀茂かも御ご祖神そしん社しゃ（ともに京都きょうと府ふ京都きょうと市し）など

本殿ほんでんの様式ようしきとしては最もっとも多おおく、全国ぜんこく的てきにも広ひろく分布ぶんぷし、次つぎのような発展はってん型がたもある。

• 両りょう流造ながれづくり - 厳島いつくしま神社じんじゃ（広島ひろしま県けん廿日市はつかいち市し）など
• 八幡やはた造づくり - 宇佐うさ神宮じんぐう（大分おおいた県けん宇佐うさ市し）など
• 穂高ほたか造づくり - 穂高ほたか神社じんじゃ（長野ながの県けん安曇あずみ野市のいち）のみ

• 入母屋いりもや造づくり - 御上おかみ神社じんじゃ（滋賀しが県けん野洲やす市し）など

入母屋いりもや造づくりの発展はってん型がた乃至ないし変形へんけいがある。

• 日吉ひよし造づくり（聖帝せいてい造づくり、山王さんのう造づくり） - 日吉ひよし大社たいしゃ（滋賀しが県けん大津おおつ市し）のみ
• 吉備津きびつ造づくり（比翼ひよく入母屋いりもや造づくり） - 吉備津きびつ神社じんじゃ（岡山おかやま県けん岡山おかやま市し）、法華経ほけきょう寺てら祖師そし堂どう（千葉ちば県けん市川いちかわ市し）のみ
• 祇園ぎおん造づくり - 八坂神社やさかじんじゃ（京都きょうと府ふ京都きょうと市し）のみ
• 香椎かしい造づくり - 香椎かしい宮みや（福岡ふくおか県けん福岡ふくおか市し）のみ
• 織田おだ造づくり - 劔つるぎ神社じんじゃ（福井ふくい県けん越前えちぜん町まち）のみ
• 近江おうみ造づくり - 近江おうみ神宮じんぐう（滋賀しが県けん大津おおつ市し）のみ

妻つま入にゅう形式けいしき

• 春日しゅんじつ造づくり - 春日大社かすがたいしゃ（奈良なら県けん奈良なら市し）など

奈良なら県けんを中心ちゅうしんに分布ぶんぷし、次つぎのような発展はってん型がたがある。

• 平野へいや造づくり（比翼ひよく春日かすが造づくり） - 平野ひらの神社じんじゃ（京都きょうと府ふ京都きょうと市し）のみ
• 熊野くまの造づくり（王子おうじ造づくり、皇子おうじ造づくり） - 熊野くまの本宮ほんぐう大社たいしゃ（和歌山わかやま県けん田辺たなべ市し）など

• 大社たいしゃ造づくり - 出雲いずも大社たいしゃ（島根しまね県けん出雲いずも市し）など

主おもに島根しまね県けんを中心ちゅうしんに分布ぶんぷし、次つぎのような発展はってん型がたもある。

• 美保みほ造づくり（比翼ひよく大社たいしゃ造づくり） - 美保みほ神社じんじゃ（島根しまね県けん松江まつえ市し）のみ

• 住吉すみよし造づくり - 住吉すみよし大社たいしゃ（大阪おおさか府ふ大阪おおさか市し）など
• 大鳥おおとり造づくり - 大鳥おおとり大社たいしゃ（大阪おおさか府ふ堺さかい市し）など
• 隠岐おき造づくり - 水みず若わか酢す神社じんじゃ（島根しまね県けん隠岐おきの島町しままち）など
• 中山なかやま造づくり - 中山なかやま神社じんじゃ（岡山おかやま県けん津山つやま市し）など
• 切妻きりづま造づくり
• 入母屋いりもや造づくり

• 比翼ひよく入母屋いりもや造づくり - 由加ゆか神社じんじゃ本宮ほんぐう（岡山おかやま県けん倉敷くらしき市し）

• 
  大社たいしゃ造づくり 熊野くまの大社たいしゃ本殿ほんでん（島根しまね県けん松江まつえ市し）
• 
  神明しんめい造づくり 伊勢神宮いせじんぐう内宮ないくう正殿せいでん（三重みえ県けん伊勢いせ市し）
• 
  住吉すみよし造づくり 住吉すみよし大社たいしゃ第だい2本ほん宮本みやもと殿どの・拝殿はいでん（国宝こくほう）（大阪おおさか府ふ大阪おおさか市し）
• 
  流造ながれづくり（側面そくめん） 伏見ふしみ稲荷いなり大社たいしゃ本殿ほんでん（重文じゅうぶん）（京都きょうと府ふ京都きょうと市し）
• 
  春日しゅんじつ造づくり 聖せい神社じんじゃ末社まっしゃ三さん神社じんじゃ（右みぎ）・滝たき神社じんじゃ（左ひだり）（ともに重文じゅうぶん）（大阪おおさか府ふ和泉いずみ市し）
• 
  入母屋いりもや造づくり 多田ただ神社じんじゃ本殿ほんでん（重文じゅうぶん）（兵庫ひょうご県けん川西かわにし市し）
• 
  日吉ひよし造づくり（背面はいめん） 日吉ひよし大社たいしゃ西本にしもと宮本みやもと殿どの（国宝こくほう）（滋賀しが県けん大津おおつ市し）
• 
  八幡やはた造づくり 市谷いちたに亀岡かめおか八幡宮はちまんぐう本殿ほんでん（東京とうきょう都と新宿しんじゅく区く）
• 
  祇園ぎおん造づくり 八坂神社やさかじんじゃ本殿ほんでん（国宝こくほう）（京都きょうと府ふ京都きょうと市し）
• 
  流ながれ見世みせ棚たな造づくり（屋敷やしき神しん）（？）

複ふく合あい社殿しゃでん形式けいしき

本殿ほんでんが拝殿はいでんなどの他ほかの社殿しゃでんと結合けつごうしたもので八はち棟むね造づくりと総称そうしょうできるが、以下いかの様式ようしき名めいで呼よばれるものもある。

• 権現造ごんげんづくり - 北野きたの天満てんま宮みや（京都きょうと府ふ京都きょうと市し）など
• 浅間あさま造づくり - 富士山ふじさん本宮ほんぐう浅間あさま大社たいしゃ（静岡しずおか県けん富士宮ふじのみや市し）など
• 尾張おわり造づくり - 真清田ますみだ神社じんじゃ（愛知あいち県けん一宮いちのみや市し）など

特とくに大だい県けん神社じんじゃ（愛知あいち県けん犬山いぬやま市し）は特殊とくしゅで、「大だい縣けん造づくり」「三さん棟むね造づくり」とも呼よばれる。

• 水分すいぶん造づくり - 建水けんすい分ぶん神社じんじゃ（大阪おおさか府ふ千早赤阪ちはやあかさか村むら）など）

複ふく合あい社殿しゃでん形式けいしきの場合ばあいであっても、例たとえば「流造ながれづくりの本殿ほんでんを持もつ権現造ごんげんづくり」というように、本殿ほんでんの建築けんちく様式ようしきを独立どくりつして扱あつかうことになっている。

• 
  権現造ごんげんづくり 北野きたの天満宮てんまんぐう（国宝こくほう）
• 
  浅間あさま造づくり 富士山ふじさん本宮ほんぐう浅間あさま大社たいしゃ（重要じゅうよう文化財ぶんかざい）

拝殿はいでんの建築けんちく様式ようしき

入母屋いりもや造づくり妻つま入いれの拝殿はいでん。平野ひらの神社じんじゃ（京都きょうと府ふ京都きょうと市し）

拝殿はいでんも大おおきく平ひら入いれと妻つま入いれに2分ふんでき、切妻きりづま造ぞうか入母屋いりもや造づくりが一般いっぱん的てきである。

• 平ひらた入にゅう拝殿はいでん

棟むねが横よこに通かよっているものである。最もっとも一般いっぱん的てきな様式ようしきといえる。着座ちゃくざする人々ひとびとが本殿ほんでんに対面たいめんするようになる。

• 妻つま入にゅう拝殿はいでん

棟むねが縦たてに通かよっているものである。本殿ほんでんへの通路つうろとしての性格せいかくを持もち、縦長たてながとなる奥おくの部分ぶぶんは幣ぬさ殿どのも兼かねている。拝殿はいでんが成立せいりつする以前いぜんの回廊かいろう形式けいしきだったころの幣ぬさ殿どのが変化へんかしたものとも考かんがえられる。

また上うえとは別べつに次つぎの形式けいしきをとるものもある。

• 割わり拝殿はいでん

中央ちゅうおうが吹ふき抜ぬけになっていて、左右さゆうに床間とこのまがある。これは回廊かいろう形式けいしきの中門ちゅうもんと左右さゆうの回廊かいろうが変形へんけいした結果けっかだと考かんがえられる。遺構いこうは少すくなく大神神社おおみわじんじゃ・石上いしがみ神宮じんぐう摂社せっしゃ出雲いずも建男たてお神社じんじゃ・大崎おおさき八幡宮はちまんぐうに見みられる。

• 特異とくいな拝殿はいでん

静岡しずおか浅間あさま神社じんじゃ（静岡しずおか県けん静岡しずおか市し） - 拝殿はいでんが浅間あさま造づくりとなっている。

• 
  平ひらた入にゅう拝殿はいでん（入母屋いりもや造づくり） 熊野くまの那智なち大社たいしゃ（和歌山わかやま県けん那智勝浦なちかつうら町まち）
• 
  平ひらた入にゅう拝殿はいでん（切妻きりづま造づくり） 廣田ひろた神社じんじゃ（兵庫ひょうご県けん西宮にしのみや市し）
• 
  妻つま入にゅう拝殿はいでん（切妻きりづま造づくり） 大鳥おおとり大社たいしゃ（大阪おおさか府ふ堺さかい市し）
• 
  割わり拝殿はいでん 石上いしがみ神宮じんぐう摂社せっしゃ出雲いずも建けん雄お神社じんじゃ（国宝こくほう）（奈良なら県けん天理てんり市し）

構造こうぞう体たい

神社じんじゃの構造こうぞうには歴史れきし的てきには木きを使つかったものが多おおく、最近さいきんでは鉄筋てっきんコンクリート造づくりのものも増ふえている。関東大震災かんとうだいしんさい以前いぜんは、現在げんざいは重要じゅうよう文化財ぶんかざいに指定していされている築地つきじ本願ほんがん寺てらをコンクリートで建築けんちくした伊東いとう忠太ちゅうたですら、「神社じんじゃは人間にんげんの住宅じゅうたくではなく、神霊しんれいの鎮座ちんざする場所ばしょである」のような思想しそうのもと、神社じんじゃは永久えいきゅうに木造もくぞうであり、その精神せいしんは変かわらないというような主張しゅちょうをしていた。しかし、関東大震災かんとうだいしんさいで1,568箇所かしょの神社じんじゃが罹災りさいし、そのうち神田かんだ神社じんじゃをはじめ約やく130箇所かしょが焼失しょうしつし、「神社じんじゃは火事かじに遭あって簡単かんたんに焼やけ失うせてしまっては困こまる」という考かんがえが台頭たいとうしてきた。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『神道しんとう行法ぎょうほうの本ほん―日本にっぽんの霊れい統みつるを貫つらぬく神かみ祇奉祭さいの秘事ひめごと』学研がっけん（原著げんちょ2005-2-25）。ISBN 9784056037753。 

関連かんれん項目こうもく

• 日本にっぽん建築けんちく史し
• 千木ちぎ・鰹木かつおぎ
• 擬宝珠ぎぼうしゅ