イロレーティング

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

イロレーティング (Elo rating) とは、対戦たいせんがた競技きょうぎ2人ふたりのプレイヤーまたは2つのチームが対戦たいせんして勝敗しょうはいめるタイプの競技きょうぎ)において、相対そうたい評価ひょうか実力じつりょくあらわすために使つかわれる指標しひょうひとつ。数学すうがくてき裏付うらづけのあるもっと著名ちょめいレーティングシステムである。

イロレーティングは、もともとチェスの実力じつりょくあらわすために考案こうあんされたものだが、様々さまざま競技きょうぎ応用おうようされている。具体ぐたいてきには

などでイロレーティング、あるいはイロレーティングを改変かいへんしたレーティングシステムが採用さいようされている。一部いちぶ競技きょうぎではたんレーティングぶこともある。

なお、「イロ」とは、考案こうあんしゃであるアルパド・イロハンガリーまれのアメリカじん物理ぶつり学者がくしゃ)に由来ゆらいする。

概要がいよう[編集へんしゅう]

たとえば100mはしのような絶対ぜったいきそ競技きょうぎでは、その絶対ぜったいたとえば100mはしのタイム)が試合しあい結果けっかとなるので、これをそのまま実力じつりょく基準きじゅんとして使つかうことができる(自己じこベストタイムなど)。しかし、チェスやサッカーのような対戦たいせんがた競技きょうぎでは、試合しあい結果けっか勝敗しょうはいであるから、そのままでは実力じつりょくあらわすことができない。そこで、勝敗しょうはい実力じつりょく指標しひょう変換へんかんする工夫くふう必要ひつようとなる。

古典こてんてき指標しひょうとしては、勝率しょうりつ勝敗しょうはい変換へんかんすることもできる)がある。しかし、勝率しょうりつには「対戦たいせん相手あいてつよさを考慮こうりょしていない」という欠点けってんがあった。すなわち、トッププレイヤーばかりを相手あいてにして勝率しょうりつ5わり場合ばあいと、初心者しょしんしゃばかりを相手あいてにして勝率しょうりつ5わり場合ばあいとでは、うまでもなく前者ぜんしゃのほうが実力じつりょくうえであるが、勝率しょうりつではこのような事情じじょう反映はんえいされない。対戦たいせん相手あいて均等きんとうになるそうたりせん競技きょうぎでは、この欠点けってん問題もんだいとなることはないが、チェスなどでは、実力じつりょくがあるプレイヤーほどつよ相手あいてとの対戦たいせんえることから、勝率しょうりつではつよさをあらわすことができないという事態じたいおちいった。

この問題もんだい解消かいしょうする手段しゅだんが、イロレーティングである。イロレーティングは、平均へいきんてきつよさのプレイヤーと対戦たいせんしたときに予想よそうされる勝利しょうり勝率しょうりつ数学すうがくてき推計すいけいし、対数たいすう変換へんかんした指標しひょうである。実際じっさいには、試合しあいのたびに対戦たいせんまえ相互そうごのレーティングにもとづいて勝利しょうりかくりつ期待きたい勝率しょうりつ)を計算けいさんし、これと実際じっさい対戦たいせん結果けっかとの差異さいもとづいてレーティングを更新こうしんする。この作業さぎょう試合しあいのたびにかえすことで、いずれ平均へいきんてきつよさのプレイヤーと対戦たいせんしたときのしん勝利しょうりかくりつ、すなわちつよさをあらわ適正てきせいにレーティングが収束しゅうそくするというわけである。

なお、勝率しょうりつなどでも同様どうようであるが、イロレーティングは勝敗しょうはい計算けいさん対象たいしょうとしているため、けは勝敗しょうはい変換へんかんしなければ計算けいさん対象たいしょうにできないけのあつかいは競技きょうぎ団体だんたいによってことなるが、

  • けは0.5しょう0.5はいとして計算けいさんする。
  • けはさい試合しあいおこなうものとしてさい試合しあい結果けっかによって計算けいさんする。
  • けの試合しあいはレーティング計算けいさん対象たいしょうがいとする。

という3つの手法しゅほうられている。後述こうじゅつする「勝敗しょうはいせきによって推移すいいする」という関係かんけいせいたされるように競技きょうぎ性質せいしつおうじてけのあつかいを適切てきせつさだめる必要ひつようがある。なお、イロレーティングの発祥はっしょうであるチェスでは、けを0.5しょう0.5はいとする方法ほうほう採用さいようされている。以下いかでは、けの場合ばあいについて言及げんきゅうしない。

歴史れきし[編集へんしゅう]

イロレーティング以前いぜん[編集へんしゅう]

イロは物理ぶつり学者がくしゃであると同時どうじにチェスにおいてはマスターレベルであり、アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくチェス連盟れんめい(USCF)でプレーしていた。 当時とうじUSCFでは、ケネス・ハークネスが考案こうあんしたレーティングシステムを採用さいようしていた。このシステムでは大会たいかいごとに算出さんしゅつした平均へいきんレーティングにじゅんじて個人こじんのレーティングが決定けっていされる方法ほうほうをとっており、たとえば著名ちょめいなトーナメントで優勝ゆうしょうした場合ばあいべつのトーナメントで優勝ゆうしょうした場合ばあいくらべて、5ばいのポイントがあたえられることがあった。

イロレーティングの特徴とくちょう[編集へんしゅう]

イロレーティングは統計とうけいてき推定すいていもとづいたシステムである。試合しあい勝敗しょうはい直接的ちょくせつてきかくプレーヤーの能力のうりょくあらわ基礎きそてき変数へんすう関連付かんれんづけるモデルを使用しようする。

イロの理論りろんではふたつの前提ぜんていをおいている。

  • 試合しあい勝敗しょうはいは、プレイヤーの評価ひょうか大小だいしょうによってまる - あるプレイヤーがゲームにてば、そのゲームでは相手あいてより評価ひょうかたかかったとみなす。けた場合ばあい相手あいてより評価ひょうかひくい、けの場合ばあい評価ひょうか同等どうとうだったとする。
  • かくゲームにおけるプレイヤーの評価ひょうかは、正規せいき分布ぶんぷかくりつ変数へんすうである - あるプレイヤーの評価ひょうか対局たいきょくのたびに好調こうちょう不調ふちょう変動へんどうはするものの、評価ひょうか平均へいきん時間じかん経過けいかとともにゆっくりとしか変化へんかしないとかんがえた。

プレイヤーごと標準ひょうじゅん偏差へんさ(レーティング偏差へんさ)のばらつきを考慮こうりょしない単純たんじゅんしたモデルとしている。

イロレーティングの活用かつよう発展はってん[編集へんしゅう]

またイロはかく選手せんしゅしん実力じつりょく(=モデルの変数へんすう)を推定すいていする簡単かんたん方法ほうほう提案ていあんしている。対戦たいせん相手あいてのレーティングとの比較ひかくから、予想よそうされる勝率しょうりつひょうから比較的ひかくてき簡単かんたん算出さんしゅつすることができる。 勝利しょうりすうおお選手せんしゅのレーティングは上方かみがた修正しゅうせいされ、すくない選手せんしゅのレーティングは下方かほう修正しゅうせいされる。 その調整ちょうせいは、予想よそう勝率しょうりつ上回うわまわった勝利しょうりすう下回したまわった勝利しょうりすう直線ちょくせんてき比例ひれいすることになっていた。

イロレーティングは計算けいさんのシンプルさから計算けいさんのない時代じだいとく有用ゆうようであった。 電卓でんたくひとつで計算けいさんできたため、公式こうしき発表はっぴょうまえにレーティングを1ポイント以内いない計算けいさんすることができた。これはレーティングの公正こうせいせい一般いっぱんれられる一助いちじょとなった。一方いっぽうでイロレーティングの欠点けってんである、インフレやデフレにより過去かこのレーティングと比較ひかくできないといった問題もんだい対応たいおうして発展はってんさせたグリコレーティングがマーク・グリックマンにより提案ていあんされた。また、FIDEではこうした問題もんだいへの対処たいしょとして、より正確せいかくなレーティングシステムをKaggleでのコンペにより募集ぼしゅうしている[1]

レーティングの定義ていぎ[編集へんしゅう]

あるプレイヤーのイロレーティングは、そのプレイヤーが平均へいきんてきプレイヤーと対戦たいせんした場合ばあい予想よそうされる勝利しょうりかくりつ敗北はいぼくかくりつをそれぞれ平均へいきんてきなプレイヤーのレーティングをとして、

あらわされる。しき変形へんけいして勝敗しょうはいがわかられば、

である。としては、イロは完全かんぜん任意にんいとしつつも便宜上べんぎじょう2000をもちいたが、慣習かんしゅうてきに1500がもちいられることがおおい。

ここで、400やといった定数ていすうは、たん数値すうちやすくするために調整ちょうせいしているにぎず、イロレーティングの本質ほんしつは、勝敗しょうはい対数たいすう変換へんかんしたものということである。

以下いか、プレイヤーがプレイヤー勝利しょうりするかくりつ(=プレイヤーがプレイヤー敗北はいぼくするかくりつ)を、プレイヤーのイロレーティングをなどと表記ひょうきすることとする。

レーティングから算出さんしゅつされる勝利しょうりかくりつ[編集へんしゅう]

ここで、勝敗しょうはいせきによって推移すいいするという重要じゅうよう仮定かていく。すなわち、3にんのプレイヤーについて、イロレーティングでは、

という関係かんけいたされることを前提ぜんていとする。たとえばたいして平均へいきんして2しょう1はいのペース(勝率しょうりつやく67%)、たいして平均へいきんして3しょう1はいのペース(勝率しょうりつ75%)だとすれば、なので、たいして平均へいきんして6しょう1はいのペース(勝率しょうりつやく86%)となることが必要ひつようである。このような関係かんけいたされない競技きょうぎでは、イロレーティングで適切てきせつ実力じつりょく評価ひょうかすることができないかくじょうばかりと対戦たいせんするプレイヤーと格下かくしたばかりと対戦たいせんするプレイヤーをくらべると、おなつよさでもレーティングがことなったになってしまう)。

このような仮定かていくことで、任意にんいのプレイヤー対戦たいせんにおいて、平均へいきんてきプレイヤーをとして、

という関係かんけい導出どうしゅつすることができる。ここで、であることから、

となり、レーティングから勝利しょうりかくりつられることになる。

このようにして計算けいさんされる勝利しょうりかくりつ以下いか常識じょうしきにかなう特徴とくちょうたす。

  • 勝利しょうりかくりつは、つねに0%から100%のあいだおさまる。
  • レーティングがひとしいプレイヤー同士どうし対戦たいせんでは、勝利しょうりかくりつは50%となる。
  • レーティング絶対ぜったいおおきくなるほど、上位じょういしゃ勝利しょうりかくりつたかくなる。
  • レーティングがプラスの無限むげんだいちかづけば、勝利しょうりかくりつは100%に漸近ぜんきんし、レーティングがマイナスの無限むげんだいちかづけば、勝利しょうりかくりつは0%に漸近ぜんきんする(レーティングよこじくに、勝利しょうりかくりつたてじくれば、ロジスティック曲線きょくせんえがく)。

レーティングからの実力じつりょく把握はあく[編集へんしゅう]

ここまでの説明せつめいから、以下いかられる。

  • 平均へいきんてきプレイヤーのレーティングは、レーティングを計算けいさんされたときもちいたたとえば1500など)である。
  • レーティングごとに勝利しょうりかくりつ計算けいさんするとつぎひょうのようになる。
レーティング 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
上位じょういしゃ勝利しょうりかくりつ 50% 57% 64% 70% 76% 81% 85% 88% 91% 93% 95%
下位かいしゃ勝利しょうりかくりつ 50% 43% 36% 30% 24% 19% 15% 12% 9% 7% 5%

これにより、レーティングからそのプレイヤーのつよさを容易ようい把握はあくすることが可能かのうとなる。

たとえば、以下いかのように実力じつりょく把握はあくすることができる。

レーティング1700は、レーティング1500のプレイヤーを相手あいてに76%の勝率しょうりつとなるつよさである。レーティング1900は、レーティング1700のプレイヤーを相手あいてに76%の勝率しょうりつとなるつよさである。以下いか同様どうように、76%の勝率しょうりつとなるごとにレーティングが200ずつがっていく。

ただし、平均へいきんてきプレイヤー基準きじゅんは、競技きょうぎによっては、対局たいきょくじょうごとにことなることがある。たとえば、将棋しょうぎ場合ばあいには、プロ棋士きしのレーティングはプロ棋士きし平均へいきんを1500と、日本にっぽんアマチュア将棋しょうぎ連盟れんめいのレーティングはアマチュアの平均へいきんを1500としている。うまでもなく、前者ぜんしゃのほうがこうレベルとなるため、補正ほせいなしで両者りょうしゃ比較ひかくすることはできない。チェスでは、レーティングの基準きじゅん国際こくさいてき統一とういつされているものの、対局たいきょくじょう団体だんたいごとに誤差ごさがあるため、比較ひかくには注意ちゅういようする。

算出さんしゅつ方法ほうほう[編集へんしゅう]

かくプレイヤーについて、いきなり勝利しょうりかくりつ適切てきせつあらわすレーティング算出さんしゅつすることはできない。そこで、イロレーティングでは、最初さいしょかりいておき、試合しあいごとにすこしずつレーティングを更新こうしんしていって、徐々じょじょ適正てきせい収束しゅうそくさせるという手段しゅだんをとる。具体ぐたいてきには、試合しあいのたびに、従前じゅうぜんのレーティングにもとづく勝利しょうりかくりつ実際じっさい試合しあい結果けっかとを比較ひかくし、この差異さいによって、レーティング更新こうしんする

たとえば、かいつづけて試合しあいおこなうとする(チェスの対局たいきょくでは、いち複数ふくすうきょくおこなうのが通例つうれいである)。このとき、イロレーティングから計算けいさんされる勝利しょうりかくりつは、

であり、期待きたいされる勝利しょうりすうは、である。試合しあい結果けっか勝利しょうりすうだったとする。その場合ばあい、レーティングから期待きたいされた勝利しょうりすう実際じっさい勝利しょうりすうとのもとづいて、のレーティングを

更新こうしんする(についても同様どうよう更新こうしんする)。なお、自由じゆう設定せっていできる定数ていすうであり、一般いっぱんてきには32が採用さいようされることがおおいが、プロレベルでは16が使つかわれることもある。おおきいほど、適正てきせいレーティングに収束しゅうそくするのがはやくなる一方いっぽう収束しゅうそくしたのち頻繁ひんぱん上下じょうげする不安定ふあんていとなる。

ようするに、実際じっさい勝利しょうりすうがレーティングから期待きたいされる勝利しょうりすう上回うわまわれば、レーティングが過小かしょうであったと判断はんだんしてレーティングをプラスに更新こうしんし、ぎゃく実際じっさい勝利しょうりすうがレーティングから期待きたいされる勝利しょうりすう下回したまわれば、レーティングが過大かだいであったと判断はんだんしてレーティングをマイナスに更新こうしんするわけである。

対戦たいせんなん試合しあいつづけておこなうのでなければ、は1、は0か1となるので、であることに注意ちゅういすれば、計算けいさんはより単純たんじゅんになる。すなわち、勝利しょうりしたとき、

とレーティングを更新こうしんする。

しきればかるように、敗北はいぼくしたプレイヤーのレーティング減少げんしょうぶんおなが、勝利しょうりしたプレイヤーのレーティングに加算かさんされる。そして、レーティング変動へんどうぶんは、敗北はいぼくしたがわ勝利しょうりかくりつたかいほどおおきくなる(つまり番狂ばんくるわせきるほど実際じっさい実力じつりょくとレーティング乖離かいりおおきいと判断はんだんしてレーティングおおきく変動へんどうさせる)。

れいとして、レーティング1500のプレイヤーとレーティング1700のプレイヤー対戦たいせんし、勝利しょうりしたとする。この場合ばあいやく76%であるから、を32とすると、

あらたなレーティングとなる。

擬似ぎじてき算出さんしゅつ方法ほうほう[編集へんしゅう]

日本にっぽん囲碁いご将棋しょうぎのオンライン対戦たいせんサイトなどでは、イロレーティングを簡略かんりゃくしたレーティングが使用しようされることがおおい。本来ほんらいのイロレーティングの計算けいさんは、上述じょうじゅつとおり、を32とすれば、プレイヤーがプレイヤー勝利しょうりした場合ばあい

おこなわれるが、計算けいさん多少たしょう煩雑はんざつになる。そこで、

計算けいさん線型せんけいしき簡略かんりゃくする(レーティングよこじくに、勝利しょうりかくりつたてじくれば、元々もともとのイロレーティングはロジスティック曲線きょくせんだったが、簡略かんりゃくばんのこのしき単純たんじゅん直線ちょくせんとなる)。

この簡易かんいイロレーティングを採用さいようした場合ばあい、レーティングもとづく勝利しょうりかくりつ以下いかのようになる。

レーティング 0 50 100 150 200 250 300 350 400
上位じょういしゃ勝利しょうりかくりつ 50% 56% 62% 69% 75% 81% 88% 94% 100%
下位かいしゃ勝利しょうりかくりつ 50% 44% 38% 31% 25% 19% 12% 6% 0%

勝利しょうりかくりつ計算けいさんしきこそことなるが、勝利しょうりかくりつ試合しあい結果けっかもちいてレーティングを更新こうしんしていくてんは、本来ほんらいのイロレーティングと同様どうようである。ただし、この簡略かんりゃくされた勝利しょうりかくりつでは、レーティングが400以上いじょうになると計算けいさんじょう勝利しょうりかくりつが0%以下いか・100%以上いじょうになるという重大じゅうだい欠陥けっかんがある。そのため、この方法ほうほう使つか場合ばあいは、基本きほんてきにレーティング400未満みまんのプレイヤー同士どうしでの対戦たいせん前提ぜんていとなり、レーティング400以上いじょうのプレイヤーあいだでは、無関係むかんけいにレーティング変動へんどうめるなど特殊とくしゅ処理しょり必要ひつようとなる。

実際じっさいのレーティングの計算けいさんは、簡略かんりゃくされた代入だいにゅうすれば、

となる。

この方法ほうほうは、オンライン将棋しょうぎ対局たいきょくじょう将棋しょうぎ倶楽部くらぶ24近代きんだい将棋しょうぎ道場どうじょうなどで使つかわれている。ただし、これらの対局たいきょくじょうでは、小数点しょうすうてん以下いか四捨五入ししゃごにゅうとし、レーティングの変動へんどうぶんが1から31の範囲はんいおさまらない場合ばあい(レーティングが400以上いじょうとなる場合ばあいや400にちか場合ばあい)には、上記じょうき計算けいさんによらず変動へんどうぶんを1あるいは31とするという特殊とくしゅ処理しょりをしている。

なお、TAISEN囲碁いご対局たいきょくでは、

というしきもちいている。ここで、はハンデ(せきやコミの調整ちょうせいによる)ごとにさだめられた点数てんすうであり、ハンデをレーティングに反映はんえいしているてんが、将棋しょうぎ倶楽部くらぶ24や近代きんだい将棋しょうぎことなる。

そのうえで、TAISENはを24とし、

でレーティングを計算けいさんする。なお、小数点しょうすうてん以下いか四捨五入ししゃごにゅうとし、極端きょくたんにレーティングがある場合ばあい特例とくれいもうけているてん同様どうようである。

レーティングの初期しょき[編集へんしゅう]

イロレーティングでは、新規しんきのプレイヤーにたいしては、初期しょきレーティングとして暫定ざんていてき設定せっていしておき、試合しあいたびにレーティングを更新こうしんすることで徐々じょじょ適正てきせい近付ちかづけていく。初期しょきレーティングが過小かしょう場合ばあいは、試合しあいたびにレーティングががっていくし、ぎゃく初期しょきレーティングが過大かだい場合ばあいは、試合しあいたびにレーティングががっていく。つまり、どのようなにしたとしても、いずれは適正てきせい収束しゅうそくするので、初期しょきレーティングはなんでもよく、この設定せっていかんして明確めいかくなルールはない。

とはいえ、あまりにも過大かだいまたは過小かしょう初期しょきレーティング設定せっていすると、

  • しんプレイヤーのレーティングが適正てきせい収束しゅうそくするまでに時間じかんがかかる。
  • しんプレイヤーの対戦たいせん相手あいてのレーティングが必要ひつよう以上いじょう変動へんどうするので、レーティングが一時いちじてき不安定ふあんていになる(たとえば、しんプレイヤーの初期しょきレーティングを適正てきせいよりもきわめてひく設定せっていすると、しんプレイヤーの対戦たいせん相手あいてのレーティングだけが一時いちじてき大幅おおはば減少げんしょうしてしまう)。
  • レーティングインフレまたはレーティングデフレ(後述こうじゅつ)の原因げんいんとなる。

といった問題もんだい発生はっせいすることがある

初期しょきレーティングのさだかたは、とりあえず平均へいきんてきプレイヤーのレーティングとしたり、プレイヤーの自己じこ申告しんこくによってさだめたりといった方法ほうほうもあるが、上記じょうき問題もんだい対応たいおうするために工夫くふうをする場合ばあいもある。

まず、新規しんきプレイヤーは、一定いってい試合しあいすうをこなすまではレーティング計算けいさん対象たいしょうがいとし、一定いってい試合しあいすうをこなした時点じてんでそれまでの試合しあい結果けっかから初期しょきレーティングを決定けっていするという方法ほうほうがある。たとえば、それまでの勝利しょうりすう敗北はいぼくすう対戦たいせん相手あいてのレーティングの平均へいきんとして、

初期しょきレーティングとする(ただし、全勝ぜんしょうまたは全敗ぜんぱいだった場合ばあいには計算けいさんができなくなるため、初期しょきレーティングの上限じょうげん下限かげんさだめておく必要ひつようがある)。こうすることで、初期しょきレーティングの時点じてんから適正てきせいちかになるため、収束しゅうそくはやくなり、対戦たいせん相手あいてのレーティングがみだれることもなくなる。このほか通常つうじょうのレーティング計算けいさん対象たいしょうがいとしつつも、おおきくとって収束しゅうそくはやめたレーティングしんプレイヤーのぶんだけ別途べっと計算けいさんしておき、一定いってい試合しあいすうをこなした時点じてんでそれを初期しょきレーティングとするという方法ほうほうもある。

また、レーティングのインフレ・デフレを防止ぼうしするために、どう時期じき引退いんたいするプレイヤーの最終さいしゅうレーティングと平均へいきんレーティング(ここでは1500の場合ばあいかんがえる)とのぐという方法ほうほうもある。たとえば、引退いんたいするプレイヤーが2めいでその最終さいしゅうレーティングが1300と1200、新規しんき参加さんかするプレイヤーが5めいだったとする。この場合ばあい引退いんたいするプレイヤーは、平均へいきんてきプレイヤー(1500)と比較ひかくして、それぞれ200、300だけレーティングがすくない。これらを合計ごうけいすれば、2めいのプレイヤーの引退いんたいによって合計ごうけい500のレーティングがリーグ全体ぜんたい増加ぞうかしたことになる。そこで、この500を新規しんき参加さんかする5めい折半せっぱんした100を平均へいきんレーティングからいて、5めい初期しょきレーティング1400でスタートする。こうすることで、リーグの平均へいきんレーティングはつねに1500にたもたれるので、レーティングのインフレ・デフレをふせぐことができる。ただし、この方法ほうほうしんプレイヤーのレーティングが適正てきせい収束しゅうそくするまでに時間じかんがかかる問題もんだいなどを解決かいけつできず、ぎゃくにより時間じかんがかかるようになることもあるため、注意ちゅうい必要ひつようである。

初期しょきとして設定せっていしたレーティングが適正てきせい収束しゅうそくするまでのあいだは、レーティングがしんつよさをあらわしているとはえないが、イロレーティングでは収束しゅうそくみであるかどうかが明確めいかくでないという問題もんだいがある。この問題もんだい解決かいけつするため、イロレーティングを改良かいりょうしたグリコレーティングばれるレーティングシステムが考案こうあんされ、一部いちぶのチェス団体だんたいオーストラリアチェス連盟れんめい英語えいごばんなど)、インターネットじょうのチェスサイトなどで利用りようはじまっている。グリコレーティングでは、そのプレイヤーの現在げんざいのレーティングとしんのレーティングとのあいだにどの程度ていど誤差ごさ予測よそくされるかをRD(標準ひょうじゅん偏差へんさ)として算出さんしゅつすることで、そのレーティングの信頼しんらいせいかるようにしている。

レーティングのインフレ・デフレ[編集へんしゅう]

イロレーティングは、試合しあいおこなわれるごとに対戦たいせんした当事とうじしゃあいだでレーティングが更新こうしんされるため、本来ほんらい平均へいきんてきプレイヤーをあらわすはずだったが、実際じっさい平均へいきんから乖離かいりすることがある。すなわち、ぜんプレイヤーのレーティングが過大かだいになるレーティングインフレ、あるいはぜんプレイヤーのレーティングが過小かしょうになるレーティングデフレきうる。イロレーティングは、そもそも相対そうたい評価ひょうか指標しひょうであるから、レーティングがインフレ・デフレしたとしても、現在げんざいそのリーグに所属しょぞくするプレイヤーあいだ実力じつりょく比較ひかく支障ししょうはない。しかしながら、レーティングインフレ・デフレによって、過去かこのプレイヤーのレーティングとの比較ひかくができなくなったり、あるいは特定とくていのリーグでレーティングインフレ・デフレがしょうじた結果けっかのリーグのレーティングとの比較ひかくができなくなったりするという問題もんだいしょうじることがある。

たとえば、あるプレイヤーがレーティング3000でリーグに参戦さんせんし、レーティングを1000までとしてから引退いんたいしたとする。このとき、このプレイヤーは、現役げんえきちゅうき2000のレーティングをのプレイヤーにうばわれたことになる。すなわち、このプレイヤーによって、リーグ全体ぜんたいのレーティングの合計ごうけいが2000増加ぞうかしたことになる。ぎゃくに、レーティング1000で参入さんにゅうして3000で引退いんたいするプレイヤーがいれば、リーグ全体ぜんたいのレーティングを合計ごうけい2000減少げんしょうさせたことになる。このように、かくプレイヤーのレーティングのいちじるしい減少げんしょう増加ぞうか)は、リーグ全体ぜんたいのレーティングの増加ぞうか減少げんしょう)につながる。

もっとも、プレイヤー1にん影響えいきょうによるレーティングの増減ぞうげんはわずかなものであり、増加ぞうかさせるプレイヤーと減少げんしょうさせるプレイヤーとがたがいに相殺そうさいしていることから、おおきな影響えいきょうはない。しかし、なんらかの原因げんいんにより、レーティングの増加ぞうかあるいは減少げんしょうばかりがしょうずれば、レーティングインフレやレーティングデフレがきるのである。

このほかに、イロレーティングが前提ぜんていとしている「勝敗しょうはいせきによって推移すいいする」という仮定かてい前述ぜんじゅつ)がたされない場合ばあい、すなわち、3にんのプレイヤーについて、

という関係かんけいたされない場合ばあいには、上位じょういしゃ下位かいしゃのレーティング過大かだいになったり過小かしょうになったりすることがある。その結果けっか平均へいきんてきプレイヤーのレーティングは安定あんていしていても上位じょういプレイヤーのレーティングだけがインフレして下位かいプレイヤーのレーティングだけがデフレする(またはそのぎゃく)という現象げんしょうしょうずることがある。

具体ぐたいてきには、チェスのFIDE公式こうしきレーティングは、あたらしい世代せだいのプレイヤーにおけるコンピューターソフトを利用りようした研究けんきゅう普及ふきゅうなどの原因げんいんにより、きゅう時代じだいのトッププレイヤーのおおくがレーティングをおおきくとして引退いんたいし、結果けっかとして1985ねんごろからとしすうてんずつレーティングインフレをこしている[2]。チェスではグランドマスターをはじめとするタイトルをレーティングで規定きていしているため、レーティングインフレによってタイトル保持ほじしゃ増加ぞうかするという現象げんしょうつながっている。

また、日本にっぽんのオンライン将棋しょうぎ対局たいきょくじょうである将棋しょうぎ倶楽部くらぶ24では、初期しょきレーティングを自己じこ申告しんこくめられることから、これを過小かしょう申告しんこくして登録とうろくにレーティングを急上昇きゅうじょうしょうさせたり、あるいはコンピューター将棋しょうぎソフトを利用りようした不正ふせい行為こういによってレーティングを上昇じょうしょうさせたのち不正ふせい発覚はっかくして退会たいかい処分しょぶんになったりといった事例じれいかさなり、いちじるしいレーティングデフレの状態じょうたいにあると指摘してきされている[3][4][5]将棋しょうぎ倶楽部くらぶ24では、だんきゅう基準きじゅんをレーティングでさだめているため、レーティングデフレによって一般いっぱんだんきゅうとのいがれなくなる問題もんだいつながっている。

レーティングインフレ・デフレの問題もんだい解決かいけつするため、様々さまざま改良かいりょうこころみられており、たとえばオンライン将棋しょうぎ対局たいきょくじょうの81Dojoでは、オンライン将棋しょうぎ対局たいきょくではレーティングデフレがきやすいことを考慮こうりょして、レーティングをがりにくく調整ちょうせいした非対称ひたいしょうレーティングを採用さいようしている[6]

文献ぶんけん[編集へんしゅう]

  • The Rating of Chessplayers, Past and Present (1978), Arco. ISBN 0-668-04721-6 - 考案こうあんしゃによる解説かいせつ

脚注きゃくちゅう[編集へんしゅう]

関連かんれん項目こうもく[編集へんしゅう]