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　東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしま第だい1原発げんぱつ事故じこに伴ともなう処理しょり水すいの放出ほうしゅつ開始かいし後ご、中国ちゅうごくの禁輸きんゆの影響えいきょうで、日本にっぽん産さん水産物すいさんぶつの売うり上あげ減げんが懸念けねんされている。国内こくないの消費しょうひ拡大かくだいに躍起やっきになるのが岸田きしだ政権せいけん。閣僚かくりょうが試食ししょくし、「食たべて応援おうえん」をアピールするだけではない。市井しせいの人々ひとびとを取とり込こむ「国民こくみん運動うんどう」も進すすめる。これには釈然しゃくぜんとしない思おもいが湧わく。水産すいさん業界ぎょうかいの苦境くきょうを招まねいたのは岸田きしだ政権せいけんなのに、国民こくみんが駆かり出だされるのか。応おうじないと非国民ひこくみん扱あつかいされないか。（曽田そた晋すすむ太郎たろう、安藤あんどう恭子きょうこ） ◆自衛隊じえいたいで食材しょくざい利用りよう、自みずから試食ししょく、自民党じみんとうではホタテカレー 　「政府せいふ全体ぜんたいとして日本にっぽん産さん水産物すいさんぶつの国内こくない消費しょうひ拡大かくだいに取とり組くんでいきたいと思おもっており、わが国くにの水産物すいさんぶつの消費しょうひ拡大かくだいにご協力きょうりょく願ねがいたい」 　野村のむら哲郎てつろう農相のうしょうは8日にちの記者きしゃ会見かいけんでこう述のべ、省庁しょうちょうの食堂しょくどうで日本にっぽん産さんホタテなどを使用しようしたメニューを追加ついかするよう閣議かくぎで協力きょうりょくを求もとめたと明あきらかにした。 　浜田はまだ靖やすし一いち防衛ぼうえい相しょうも同日どうじつに記者きしゃ会見かいけん。全国ぜんこくの自衛隊じえいたいの駐屯ちゅうとん地ちや基地きちで提供ていきょうする食事しょくじに日本にっぽん産さん水産物すいさんぶつを積極せっきょく活用かつようする考かんがえを示しめした。 […] 　岸田きしだ文雄ふみお首相しゅしょうや西村にしむら康やすし稔みのり経済けいざい産業さんぎょう相しょう、渡辺わたなべ博道ひろみち復興ふっこう相しょうらは東京とうきょう・豊洲とよす市場いちばや被災ひさい地ちを訪おとずれるなどし、主おもに福島ふくしま県けん産さんの魚さかなを試食ししょくして安全あんぜん性せいをアピール。経けい産さん省しょう福島ふくしま復興ふっこう推進すいしんグループ総合そうごう調整ちょうせい室しつの担当たんとう者しゃは「日本にっぽん産さん水産物すいさんぶつの消費しょうひを全国ぜんこくに広ひろげる活動かつどうの一ひとつ。首相しゅしょうや大臣だいじんが発信はっしんすることに意味いみがある」と強調きょうちょうする。 　小泉こいずみ進すすむ次郎じろう元もと環境かんきょう相しょうは、福島ふくしま県けん南みなみ相馬そうま市しの海岸かいがんで子こどもたちとサーフィンをした後のち、地元じもとで水揚みずあげされた魚さかなを試食ししょくと報ほうじられた。5日にちにあった自民党じみんとうの水産すいさん部会ぶかい・水産すいさん総合そうごう調査ちょうさ会合かいごう同どう会議かいぎでは、北海道ほっかいどう産さんホタテを使つかったカレーが昼食ちゅうしょくとして提供ていきょうされている。 ◆さらにCMなど予定よてい「現時点げんじてんで具体ぐたい的てきな費用ひようをはじくのは難むずかしい」 　そもそも岸田きしだ政権せいけんは、海洋かいよう放出ほうしゅつ前まえから国内こくない消費しょうひ拡大かくだいの方策ほうさくをまとめていた。 　8月がつ22日にちの関係かんけい閣僚かくりょう会議かいぎでは行動こうどう計画けいかくを改定かいてい。テレビCMやネット動画どうがなどを活用かつようしたPR、学校がっこう現場げんばで文部もんぶ科学かがく省しょうの「放射線ほうしゃせん副読本ふくどくほん」を使つかった理解りかい醸成じょうせい、インフルエンサーや著名ちょめい人じん、日本にっぽんサーフィン連盟れんめいに協力きょうりょくを依頼いらいしての情報じょうほう発信はっしんなどを盛もり込こむ。 […] ◆対策たいさく1番目ばんめが「国民こくみん運動うんどう」…担当たんとう者しゃは「あくまで協力きょうりょく要請ようせい」と説明せつめい […] 　水産物すいさんぶつの輸出ゆしゅつ額がくのうち、中国ちゅうごくと香港ほんこんの合計ごうけいで4割わりを占しめる。年額ねんがくでいえば1600億おく円えん。海洋かいよう放出ほうしゅつに伴ともなう全面ぜんめん禁輸きんゆの打撃だげきは甚大じんだいだ。そんな中なかで岸田きしだ政権せいけんは今月こんげつ4日にち、「『水産すいさん業ぎょうを守まもる』政策せいさくパッケージ」を発表はっぴょう。その最初さいしょの項目こうもくには、国内こくない消費しょうひ拡大かくだいに向むけた「国民こくみん運動うんどう」の展開てんかいが掲かかげられた。 　国民こくみん運動うんどうとは果はたして何なにを意味いみするのか。 　経けい産さん省しょう福島ふくしま復興ふっこう推進すいしんグループ総合そうごう調整ちょうせい室しつの担当たんとう者しゃは、ふるさと納税のうぜいの返礼へんれいメニューの活用かつようなどを挙あげた上うえで「国内こくないでの消費しょうひ拡大かくだいの機運きうんを高たかめ、その流ながれを全国ぜんこくに広ひろめるのが狙ねらい」と説明せつめいする。「特定とくていの国くにへの輸出ゆしゅつに依存いぞんしていた部分ぶぶんが大おおきい日本にっぽん産さん水産物すいさんぶつを国内こくないで消費しょうひし、水産すいさん業ぎょうを守まもる取とり組くみの一環いっかん。あくまで協力きょうりょく要請ようせい」と述のべる。 　国民こくみん運動うんどうについては、5日にちの自民党じみんとう部会ぶかいでも盛もり上あげるべきだとの声こえが上あがった。出席しゅっせきした議員ぎいんの一人ひとりは「風評ふうひょう被害ひがいが起おきないように皆みなで正ただしく理解りかいしようとする方策ほうさくだ」と語かたる。 　別べつの議員ぎいんは「日本にっぽんは正ただしいことをしていると世界せかいにアピールする活動かつどうの一ひとつだ」と説明せつめいする。 ◆「海洋かいよう放出ほうしゅつも『食たべて応援おうえん』されるのも勝手かってに決きめられたこと」 […] 福島ふくしま原発げんぱつ事故じこの問題もんだいを取材しゅざいしているフリーライターの吉田よしだ千せん亜あさんは「海洋かいよう放出ほうしゅつも、『食たべて応援おうえん』されるのも、福島ふくしまの人ひとたちからすれば勝手かってに決きめられたこと。理不尽りふじんだという思おもいが募つのっている。でも政府せいふのキャンペーンに疑問ぎもんを呈ていせば『非国民ひこくみん』『風評ふうひょう加害かがい者しゃ』とみなされるので、被害ひがい者しゃは黙だまるしかない」と物もの言いえぬ福島ふくしまの空気くうきを憂うれえる。 　日本にっぽん政府せいふは今月こんげつ5日にち、日本にっぽんの水産すいさん関係かんけい者しゃを支援しえんする経費けいひとして本年度ほんねんどの予備よび費ひから207億おく円えんを支出ししゅつすると閣議かくぎ決定けっていした。風評ふうひょう被害ひがい対策たいさく300億おく円えん、漁業ぎょぎょう継続けいぞく支援しえん500億おく円えんの基金ききんと合あわせ計けい1007億おく円えんの対策たいさくとなる。 ◆被害ひがいも負担ふたんも国民こくみんが引ひき受うける？　識者しきしゃ「東京電力とうきょうでんりょくに求償きゅうしょうすべき」 　大島おおしま堅一けんいち・龍谷大りゅうこくだい教授きょうじゅ（環境かんきょう経済けいざい学がく）は「中国ちゅうごくの禁輸きんゆで、全国ぜんこくの漁業ぎょぎょう者しゃが被害ひがいを受うけ、その支援しえんを税金ぜいきんでまかなうことになる。さらに国民こくみん全体ぜんたいで被害ひがいも負担ふたんも引ひき受うけるというのは筋違すじちがい」と指摘してきし、事業じぎょう者しゃの責任せきにんを定さだめる原子力げんしりょく損害そんがい賠償ばいしょう法ほうに基もとづき、国くには事故じこを起おこした東電とうでんに求償きゅうしょうすべきだと述のべる。 　さらに「環境かんきょうの影響えいきょうを受うける他国たこくなどとの協議きょうぎは国際こくさい原子力げんしりょく機関きかん（IAEA）の国際こくさい安全あんぜん基準きじゅんでも定さだめている」と述のべ、7月がつに公表こうひょうされた包括ほうかつ報告ほうこく書しょでもその旨むねが記しるされていると解説かいせつ。「中国ちゅうごくの反発はんぱつを『想定そうてい外がい』としながら、『食たべて応援おうえん』を呼よびかけるのは不誠実ふせいじつだ」と話はなす。 ◆日本にっぽんの魚さかなを食たべて中国ちゅうごくに勝かつ？ 　協議きょうぎの乏まずしさが露呈ろていする中なか、複数ふくすうの全国ぜんこく紙しの今月こんげつ6、7日にち付づけ朝刊ちょうかんでは「保守ほしゅ派はの論客ろんかく」とされるジャーナリスト、桜井さくらいよしこさんが理事りじ長ちょうを務つとめる公益こうえき財団ざいだん法人ほうじんの意見いけん広告こうこくが掲載けいさいされた。 　「日本にっぽんの魚さかなを食たべて中国ちゅうごくに勝かとう」 […] ◆「意見いけんを調整ちょうせいできないまま、陳腐ちんぷなキャンペーンで社会しゃかいを分断ぶんだん」 　そもそも物価高ぶっかだかで、国内こくないの消費しょうひは厳きびしい。総務そうむ省しょうが発表はっぴょうした7月がつの家計調査かけいちょうさによると、1世帯せたい（2人ふたり以上いじょう）当あたりの消費しょうひ支出ししゅつは28万まん1736円えん。物価ぶっか変動へんどうの影響えいきょうを除のぞく実質じっしつで前年ぜんねん同月どうげつを5.0％下回したまわった。支出ししゅつの3割わりほどを占しめる「食料しょくりょう」の支出ししゅつも切きり詰つめられ、魚介ぎょかい類るいは前年ぜんねん同月どうげつ比ひ11.9％減げんと落おち込こんだ。「国内こくないで魚さかなの消費しょうひを増ふやすのは現実げんじつ的てきでない。勝者しょうしゃなんてどこにもいない」（早川はやかわさん） […] ◆デスクメモ 　関係かんけい者しゃの理解りかいを得えずに話はなしが進すすむ。唐突とうとつに国民こくみん運動うんどうが始はじまる。政府せいふの非ひは棚上たなあげされたまま、運動うんどうの目的もくてきとして「他国たこくに勝かつ」が掲かかげられる。私わたしたちは何なにに巻まき込こまれているのか。わけが分わからぬ状況じょうきょう。こうして戦時せんじ動員どういんされるのか。まだ歯止はどめはかけられる。国民こくみんが良識りょうしきを示しめさねば。（榊さかき） 全文ぜんぶん

　東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこで被災ひさいした福島ふくしま県けんの沿岸えんがん部ぶ、いわゆる浜はま通どおり。新しん産業さんぎょう創出そうしゅつの中核ちゅうかくとして、政府せいふが同どう県けん浪江なみえ町まちに開設かいせつするのが「福島ふくしま国際こくさい研究けんきゅう教育きょういく機構きこう」だ。モデルにされたのは米国べいこくの核かく施設しせつの周辺しゅうへん地域ちいき。原子力げんしりょくや核兵器かくへいきを礼賛らいさんする地ちだ。「こちら特報とくほう部ぶ」はかねて問題もんだい視ししてきたが、四よん月がつの開設かいせつに向むけて準備じゅんびが進すすみ、誘致ゆうち合戦かっせんも起おきた。こんな形がたの「復興ふっこう」でいいのか。（木原きはら育子いくこ、宮みや畑はた譲ゆずる） […] ◆米国べいこくの「放射能ほうしゃのう汚染おせんから復興ふっこう」を参考さんこう 　この機構きこうは20年ねん6月がつ、復興ふっこう庁ちょうの有識者ゆうしきしゃ会議かいぎがまとめた原発げんぱつ事故じこの被災ひさい地ち復興ふっこうに関かんする報告ほうこく書しょがベースになっている。 　報告ほうこく書しょが機構きこうのモデルにしたのが、米国べいこくワシントン州しゅうのハンフォード核かく施設しせつ周辺しゅうへんだった。「こちら特報とくほう部ぶ」は当時とうじから、この地域ちいきの特殊とくしゅ性せいを指摘してきしていた。 　ハンフォードについて、報告ほうこく書しょは「軍事ぐんじ用ようのプルトニウムが精製せいせいされ、放射能ほうしゃのう汚染おせんに見舞みまわれたが、環境かんきょう浄化じょうかのために多おおくの研究けんきゅう機関きかんや企業きぎょうが集積しゅうせきし、廃はい炉ろや除染じょせん以外いがいの産業さんぎょう発展はってんに結むすび付ついた」と復興ふっこうの成功せいこう例れいのように位置付いちづけた。1940年ねんには1万まん8000人にんほどの人口じんこうが、2020年ねんには30万まん人にん近ちかくに達たっしたとし、「全米ぜんべいでも有数ゆうすうの繁栄はんえい都市とし」と絶賛ぜっさんした。ただ、ハンフォードは原爆げんばくの開発かいはつ拠点きょてんの一ひとつで、原子力げんしりょくが礼賛らいさんされる地域ちいきという事実じじつには触ふれなかった。 　以後いごも政府せいふは準備じゅんびを進すすめ、沿岸えんがん部ぶの9市町しちょうが誘致ゆうち合戦かっせんを繰くり広ひろげた。核かく礼賛らいさんの地ちをモデルにした点てんについて、地元じもと自治体じちたいはどう捉とらえているのか。 　機構きこうが設置せっちされる浪江なみえ町まちの磯貝いそがい智也ともや・企画きかく財政ざいせい課か課長かちょう補佐ほさは「ゼロから復興ふっこうしていったという意味いみでのモデル。ハンフォードと福島ふくしまの事情じじょうは別物べつものだ」と距離きょりを取とり「それよりも、五いつつの重要じゅうよう分野ぶんやは決きまったが、具体ぐたい的てきな内容ないようは決きまっていない。スピード感かんを持もってほしい」と国くにや県けんに注文ちゅうもんする。 　誘致ゆうちを目指めざした広野こうの町まち復興ふっこう企画きかく課かの小松こまつ和かず真ま課長かちょうも「構想こうそうの具現ぐげん化かにはまだまだといった様相ようそうだ。早はやく復興ふっこうを進すすめたい」と、地元じもとに寄与きよする中身なかみを求もとめた。 ◆機構きこうでの研究けんきゅうは特定とくてい秘密ひみつに？住民じゅうみん警戒けいかい 　核かくを礼賛らいさんする地域ちいきを手本てほんとした拠点きょてんづくりに、警戒けいかいの動うごきが出でている。 　福島ふくしま県内けんないの住民じゅうみんグループ「放射能ほうしゃのうゴミ焼却しょうきゃくを考かんがえるふくしま連絡れんらく会かい」の和田わだ央子ようこさんらは昨年さくねん10月がつ、「福島ふくしまイノベーション・コースト構想こうそうを監視かんしする会かい」を結成けっせい。大学だいがく教授きょうじゅらを招まねいて月つき1回かいの勉強べんきょう会かいを開ひらき、その内容ないようをインターネットで公開こうかいしている。 　和田わださんは「原発げんぱつ事故じこというマイナスをプラスに変かえようとしているのだろうが、負まけの側面そくめんを厚化粧あつげしょうして覆おおい隠かくそうとしている」と厳きびしい目めを向むける。機構きこうが司令塔しれいとうとして新しん産業さんぎょうを創出そうしゅつしていく構想こうそうについても「原発げんぱつで利益りえきを出だした企業きぎょうが、また利益りえきを出だす構図こうずになっていないか」と問題もんだい提起ていきする。 　監かん視しする会かいは、機構きこうの下したで研究けんきゅうが進すすめられる先端せんたん技術ぎじゅつが軍事ぐんじ転用てんようされることも危あやぶんでいる。機構きこうの重要じゅうよう分野ぶんや「ロボット」には水素すいそドローンの開発かいはつも一いち例れいに挙あげられている。 　会かいの勉強べんきょう会かいで講義こうぎをした東北大とうほくだいの井原いはら聡さとし名誉めいよ教授きょうじゅ（科学かがく技術ぎじゅつ史し）は「福島ふくしまの復興ふっこうを語かたりながら、福島ふくしまの生業せいぎょうの復興ふっこうではなく、外部がいぶからの新しん産業さんぎょう移植いしょく、国家こっか的てきイノベーション都市とし建設けんせつのテストケースだ」とみる。「廃はい炉ろ研究けんきゅうが第だい一いちのはずが、いろんな柱はしらができて影かげが薄うすくなってしまった。どこに力点りきてんがあるのか。しかも、それに復興ふっこうの予算よさんを使つかうという。何なん重じゅうにも問題もんだいがあると感かんじている」と機構きこうの意義いぎそのものを疑問ぎもん視しする。 　機構きこうは人材じんざい育成いくせいの場ばでもあることをうたうが、軍事ぐんじ転用てんよう可能かのうな国家こっかプロジェクトが研究けんきゅう内容ないようになれば、特定とくてい秘密ひみつに指定していされる可能かのう性せいもある。京都大きょうとだいの駒込こまごめ武たけし教授きょうじゅ（教育きょういく史し）は「研究けんきゅう者しゃは公表こうひょうする研究けんきゅう成果せいかが業績ぎょうせきとなり、地位ちいを築きずいていく。公おおやけにできない研究けんきゅうをしても機構きこうの外そとで仕事しごとはできない。若わかい研究けんきゅう者しゃは集あつまらないのではないか」と予測よそくする。さらに、「研究けんきゅうというのは自由じゆうがあってこそ成功せいこうする。内容ないようは別べつにしても、国くにが期限きげんや予算よさんを決きめた研究けんきゅうでは、おそらくうまくいかないだろう」と付つけ加くわえる。 　機構きこうは福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつに近ちかい浪江なみえ町まちにつくられる。その原発げんぱつは軍ぐんと浅あさからぬ縁えんがある。 　既すでに日にち中ちゅう戦争せんそうが始はじまり、太平洋戦争たいへいようせんそうの開戦かいせんが近ちかづいていた1940（昭和しょうわ15）年ねん、旧きゅう日本にっぽん陸軍りくぐんが現在げんざいの福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ所在地しょざいちに「磐城いわき飛行場ひこうじょう」の建設けんせつを決きめた。飛行場ひこうじょうは終戦しゅうせん間際まぎわ、特攻隊とっこうたいの訓練くんれん施設しせつとして使つかわれ、米べい軍ぐんの空襲くうしゅうを受うけた。跡地あとちには碑いしぶみが建たてられ、今いまも当時とうじを伝つたえている。 　特攻隊とっこうたいが訓練くんれんしていた場所ばしょの近ちかくで、軍事ぐんじ転用てんようが可能かのうとみられる研究けんきゅうが行おこなわれる施設しせつをつくることは、地元じもとに複雑ふくざつな感情かんじょうを与あたえかねない。 　被災ひさい地ちにつくられる機構きこうについて、福島ふくしま県けんの取材しゅざいを続つづけるフリーライターの吉田よしだ千せん亜あさんは「福島ふくしまから事故じこ後ご、避難ひなんしてしまった人ひとは関かかわれない。原発げんぱつ事故じこと復興ふっこうが利用りようされているのではないか」といぶかる。 　復興ふっこう庁ちょうは昨年さくねん8月がつに発表はっぴょうした「新しん産業さんぎょう創出そうしゅつ等とう研究けんきゅう開発かいはつ基本きほん計画けいかく」で、機構きこうを中心ちゅうしんに産学さんがく連携れんけいによる日本にっぽんの科学かがく技術ぎじゅつ力りょくの向上こうじょうを前面ぜんめんに出だした。こうしたことからも、吉田よしださんは機構きこうが復興ふっこうのためになるのかという疑念ぎねんがぬぐえないでいる。 　「産さん・官かん・学がくの連携れんけいや科学かがく技術ぎじゅつ力りょくの向上こうじょうが重点じゅうてんになっている。集つどう研究けんきゅう者しゃの中なかには『復興ふっこうのために』と思おもっている人ひともたくさんいると信しんじたい。しかし、機構きこうが地元じもとに与あたえる影響えいきょうは限定げんてい的てきだろう」と冷ひややかな見方みかたを示しめした上うえで、こう強調きょうちょうする。「そもそも、地元じもとの人ひとがどれだけ望のぞんでいるのか、という議論ぎろんも見みえない。上うえから降ふってくる復興ふっこうが地元じもとの人ひとたちのためになるのか」 ◆デスクメモ 　東京とうきょう大だい空襲くうしゅうが起おきたのは78年ねん前まえの3月がつ10日とおか。5カ月かげつ後ご、広島ひろしまと長崎ながさきに原爆げんばくが投下とうかされ、終戦しゅうせんを迎むかえる。そうした経緯けいいと関係かんけいが深ふかいハンフォードを手本てほんにした施設しせつを原発げんぱつ事故じこの被災ひさい地ちにつくるのは、すっきりしない。新しん産業さんぎょう創出そうしゅつという美名びめいのもと、負まけの歴史れきしにふたをしていないか。（北きた） 全文ぜんぶん

今年ことし３月がつで発生はっせいから１０年ねんとなる福島ふくしま原発げんぱつ事故じこ。時間じかんの経過けいかとともに事実じじつ究明きゅうめいや責任せきにん追及ついきゅうが希薄きはくになるなか、「なかったことにしないで」「忘わすれないで」と叫さけび続つづけてきた人ひとたちがいる。東京とうきょう新聞しんぶん記者きしゃの榊原さかきばら崇たかし仁ひとし（さかきばら・たかひと）氏しもそのひとりだ。 このたび、榊原さかきばら氏しが『福島ふくしまが沈黙ちんもくした日ひ　原発げんぱつ事故じこと甲状腺こうじょうせん被ひばく』（集英社しゅうえいしゃ新書しんしょ）を上梓じょうししたのを機きに、『ルポ母子ぼし避難ひなん』（岩波いわなみ新書しんしょ）や『孤塁こるい』（岩波書店いわなみしょてん）などの著者ちょしゃであるフリーライターの吉田よしだ千せん亜あ（よしだ・ちあ）氏しと対談たいだん。”なかったこと”にはさせない、という一心いっしんで寄より添そってきた”その後ごの福島ふくしま”、そしてまだ”終おわっていない”原発げんぱつ事故じこについて見みつめ直なおしていく。 ＊　＊　＊ ■知しりたかった「甲状腺こうじょうせん内部ないぶ被ひばくの対応たいおう」 （略りゃく） 榊原さかきばら　本ほんのテーマになった「甲状腺こうじょうせん内部ないぶ被ひばく」の取材しゅざいは２０１３年ねんの秋あきに始はじめました。チェルノブイリ原発げんぱつ事故じこでは甲状腺こうじょうせん内部ないぶ被ひばくが問題もんだいになったのに、福島ふくしま原発げんぱつ事故じこでは、誰だれがどれだけ被ひばくしたか、政府せいふはほとんど測はからなかったんです。コロナ禍かでＰＣＲ検査けんさの数かずがなかなか増ふえなかったのと似にていますよね。きちんと調しらべなかった内幕うちまくをつかむため、情報じょうほう公開こうかい制度せいど（情報じょうほう公開こうかい法ほうなどに基もとづき、行政ぎょうせい側がわが持もつ文書ぶんしょの複写ふくしゃを求もとめる制度せいど）を活用かつようして、２年ねんほどかけて２万まん枚まい余あまりの内部ないぶ文書ぶんしょを手てに入いれたんですけど、転勤てんきんになってしまって。福島ふくしま原発げんぱつ事故じこの取材しゅざいは管轄かんかつ外がいになったので、関係かんけい者しゃ取材しゅざいができなくなったんです。 それでも赴任ふにん先さきでは比較的ひかくてき時間じかんに余裕よゆうがあったので、できることをやろうと考かんがえました。入手にゅうしゅ済ずみの文書ぶんしょから事故じこ後ごの住民じゅうみん対応たいおうはだいたい分わかったので、事故じこ前まえに想定そうていされた対応たいおう手順てじゅんを調しらべることにしました。実際じっさいの対応たいおうは想定そうてい通どおりだったのか、やるべきことをやらなかったのか検証けんしょうしたかったので。それでウェブ上じょうにある政府せいふの会議かいぎ資料しりょうを読よんだり、各地かくちの図書館としょかんにある文書ぶんしょを取とり寄よせたりしました。トータルで３０年ねん分ぶんくらい。愛知あいちにいた２年ねん半はんはその作業さぎょうをやって、２０１８年ねんの８月がつに東京とうきょうに戻もどって改あらためて取材しゅざいして、という感かんじでした。 （略りゃく） 榊原さかきばら　僕ぼく自身じしんは被害ひがいに遭あった当事とうじ者しゃではない、第三者だいさんしゃ的てきな立場たちばに過すぎません。その僕ぼくでさえ、「行政ぎょうせい側がわが被ひばくの状況じょうきょうを丁寧ていねいに調しらべないのはなぜなのか」「何なにをやっていたのか」と疑問ぎもんを抱いだき続つづけてきたわけだから、当事とうじ者しゃの人ひとたちはもっともっと疑問ぎもんに思おもってきたはずなんです。 吉田よしだ　本当ほんとうにそう。榊原さかきばらさんが明あきらかにしてくれた「甲状腺こうじょうせん内部ないぶ被ひばく」の国くにや行政ぎょうせいの対応たいおうについて、被ひばくの可能かのう性せいを抱かかえる人ひとたちは大おおきな疑問ぎもんを持もったままなんですよね。だから、『福島ふくしまが沈黙ちんもくした日ひ』の中なかで「原発げんぱつから○キロ」といった記述きじゅつを見みるたびに、「ああ、あの人ひとはここにいたはず」「ああ、あの人ひともここにいた」って、たくさんの方々かたがたの顔かおが浮うかびました。そういった原発げんぱつ周辺しゅうへんから避難ひなんした方ほうや、福島ふくしま県けん内外ないがいの事故じこに関かかわるたくさんの方ほうに読よんでほしいと思おもいました。「知しりたい」と思おもった人ひとが、「知しりたい」と思おもった時ときにそれが叶かなうためには、事実じじつが残のこされなきゃいけないんです。 （略りゃく） ■「まだ終おわっていない」—-私わたしたちが取材しゅざいし続つづける理由りゆう 榊原さかきばら　僕ぼくは「被災ひさいした方々かたがたは汚染おせんが到達とうたつする前まえに避難ひなんできたのだろうか」「政府せいふの指示しじは適切てきせつだったのだろうか」「それを確認かくにんするために被ひばくの状況じょうきょうをきちんとつかむべきだったのではないか」という問題もんだい意識いしきを持もって取材しゅざいを進すすめてきました。そんな中なかで参考さんこうにさせてもらったのが、千せん亜あさんの『孤塁こるい』でした。あの本ほんは一般いっぱん的てきに被災ひさい地ちの消防しょうぼう士しさんの話はなしとして捉とらえられていると思おもうんですけど、僕ぼくは少すこし読よみ方かたが違ちがったんです。福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつの近ちかくから”逃にげ遅おくれた人ひとたち”の話はなしがたくさん出でてくると思おもって読よんでいました。特とくに３号機ごうきの爆発ばくはつについて触ふれているあたりを読よんでいくと。 前々まえまえから千せん亜あさんも甲状腺こうじょうせんの内部ないぶ被ひばくについて書かいていたので、最初さいしょはむしろ「なぜ消防しょうぼう士しさんの話はなしを書かいたんだろう？」と思おもいながら読よんでいたんですが、途中とちゅうで「ああ、これは”逃にげ遅おくれた人ひとたち”や”逃にげられなかった人ひとたち”の物語ものがたりでもあるんだ」と受うけ止とめました。問題もんだい意識いしきは一緒いっしょなんだって。ちょうど『孤塁こるい』を岩波書店いわなみしょてんの『世界せかい』で連載れんさいし始はじめたタイミングと、僕ぼくが東京とうきょう新聞しんぶんで甲状腺こうじょうせん内部ないぶ被ひばくに関かんする連載れんさいを始はじめたタイミングが重かさなったこともあって、『孤塁こるい』は詳くわしく読よませていただきました。 吉田よしだ　気きづいてくれてありがとう。そこは、問題もんだい意識いしきがありました。私わたしも初期しょき被ひばく、初期しょき避難ひなん行動こうどうについてとても関心かんしんがあって、連載れんさい時じから榊原さかきばらさんの記事きじには注目ちゅうもくしていました。榊原さかきばらさんの原稿げんこうには専門せんもん的てきな用語ようごや数字すうじがたくさん出でてくるので、最初さいしょは難むずかしいなと感かんじる人ひともいるかもしれないけれど、本ほんの中なかでは、重要じゅうような部分ぶぶんを繰くり返かえし説明せつめいしてくれていて分わかりやすいので、読よみ進すすめていくうちに「あ、そういうことか」と腑ふに落おちると思おもいます。 榊原さかきばら　体からだに付ついた汚染おせんの程度ていどを調しらべる「スクリーニング」で言いえば、１万まん３０００ｃｐｍ（ｃｐｍ＝放射線ほうしゃせん測定そくてい器きの値ね）とか１０万まんｃｐｍとかね。『福島ふくしまが沈黙ちんもくした日ひ』の中なかには、いくつか数字すうじが出でてくるんですが、数字すうじひとつひとつの意味いみ、行おこなわれた行為こういひとつひとつの意図いとを改あらためて問とい直なおす必要ひつようがあると思おもったんです。 先さきに挙あげた数字すうじはメディアでも頻繁ひんぱんに報ほうじられていたはずなんですが、その数字すうじがどんな意味いみを持もつのか、詳くわしく伝つたえられてきませんでした。行政ぎょうせい側がわが基準きじゅん値ちや手順てじゅんを変かえた際さい、「専門せんもん家かを交まじえて話はなし合あった結果けっか」「問題もんだいはない値ね」という趣旨しゅしの情報じょうほうを出だすと、そのまま報ほうじられていたようでした。原発げんぱつ事故じこの直後ちょくごは次々つぎつぎにいろんなトピックスが出でてきていたから、それに対応たいおうする記者きしゃたちは手一杯ていっぱいで、あまり検証けんしょうされずに流ながされていった印象いんしょうです。僕ぼくの場合ばあい、事故じこ発生はっせいからしばらくたった段階だんかいで行政ぎょうせい側がわの対応たいおうについて調しらべだしたので、一いち歩ほ引ひいた立場たちばで「この数字すうじの意味いみは何なにだろう」と落おち着ついて考かんがえることができたのかもしれません。 吉田よしだ　『孤塁こるい』の中なかに出でてくる消防しょうぼう士しさんのひとりが、基準きじゅん値ちが１０万まんに上あがった時ときに、「１０万まんってなんだよ」って言いっていたのが印象いんしょう的てきで。当事とうじ者しゃの人ひとたちも、その数字すうじの引ひき上あげはおかしい、と思おもっていたのに、勝手かってに「大丈夫だいじょうぶ」って突つき放はなされてしまったんですよね。被ひばくしてしまったかもしれない逃にげ遅おくれた人ひと、逃にげられなかった人ひと、そこで事故じこ処理しょりや救助きゅうじょ活動かつどうをしていた人ひと、その基準きじゅん値ちの決定けっていにはまったく関かかわれなかった人ひとたちは、みんな「なんで？」って思おもったはずなのにね。 被災ひさい地ちや、そこから避難ひなんした方々かたがたから話はなしを聞きいていると、初期しょき被ひばくを気きにされている方ほうって本当ほんとうに多おおいんです。それが怖こわいから避難ひなんしたんだよ、という方ほうもたくさんおられて、中なかには「自分じぶんの選択せんたくが正ただしかったのか、正ただしくなかったのかという思おもいを一生いっしょう抱かかえて生いきていかなきゃいけない」とおっしゃっている方ほうもいました。あの時とき何なにがあったのか、自分じぶんや自分じぶんの大切たいせつな人ひとがどれだけ被ひばくしたのか、それがあまりに残酷ざんこくな事実じじつだったとしても、私わたしだったら知しりたい。もちろん、さまざまなつらい経験けいけんをしておられるので、もう知しりたくない、これ以上いじょうはたくさんだ、という方ほうもいるかもしれないけれど、もしいつか、知しりたいと思おもった時とき、当事とうじ者しゃなのに事実じじつを知しるチャンスさえないのは、あまりにも悔くやしいと思おもうんです。 （略りゃく） 吉田よしだ　あの時とき、逃にげられないままそこにいた人ひとたちもいるんだよね。そのことを思おもうと、本当ほんとうに悔くやしい。でも、あの時ときわからなかったことが、１０年ねんかかって、ようやく榊原さかきばらさんのこの本ほんのおかげでわかる。だから改あらためて、３月さんがつ１１日にちから、双葉ふたば郡ぐんや福島ふくしま県内けんない、その周辺しゅうへんで何なにが起おきていて、どういうことが話はなし合あわれて、住民じゅうみんはどう動うごいていたのか――それを立体りったい的てきに、全部ぜんぶ残のこさなきゃいけないなと思おもいました。榊原さかきばらさんが、繰くり返かえし本ほんの中なかに書かいてくださったように、最終さいしゅう的てきには、被害ひがいを受うけたすべての人ひとが「自分じぶんは被害ひがいを受うけたし、ちゃんと償つぐなってほしい」と言いえるようにしなきゃいけないなと。 （略りゃく） 榊原さかきばら　僕ぼくもまだやらなきゃいけないことが残のこってるので、取材しゅざいを続つづけていきます。『福島ふくしまが沈黙ちんもくした日ひ』は、これまで書かいてきたものの成果せいかではあるんだけど、あるひとつの側面そくめんを明あきらかにできたにしか過すぎないと思おもっています。ここで描えがけたのは２０１１年ねん４月がつくらいまでの話はなしなので、じゃあ、その後ご何なにがあったのか。福島ふくしま県けんの県民けんみん健康けんこう調査ちょうさが始はじまったのもそのあとですし。まだ解明かいめいしないといけない疑問ぎもんが多おおくあります。 全文ぜんぶんは【対談たいだん】『福島ふくしまが沈黙ちんもくした日ひ　原発げんぱつ事故じこと甲状腺こうじょうせん被ひばく』榊原さかきばら崇たかし仁ひとし×『孤塁こるい』吉田よしだ千せん亜あ～終おわらない福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこを追おい続つづける理由りゆう～

MC：吉田よしだ千せん亜あ（フリーライター） 出演しゅつえん： 中島なかじま孝たかし（「生業せいぎょうを返かえせ、地域ちいきを返かえせ!」福島ふくしま原発げんぱつ訴訟そしょう 原告げんこく団長だんちょう） 馬うま奈木厳いむ太郎たろう（「生業せいぎょうを返かえせ、地域ちいきを返かえせ!」福島ふくしま原発げんぱつ訴訟そしょう 弁護べんご団だん事務じむ局長きょくちょう） 森もり松まつ明希子あきこ（原発げんぱつ賠償ばいしょう関西かんさい訴訟そしょう 原告げんこく団だん代表だいひょう） 樋口ひぐち英明ひであき（元もと福井ふくい地裁ちさい裁判さいばん長ちょう） 原文げんぶん

[…] 東京とうきょうも通過つうかした『セシウムボール』 　’13年ねん、気象きしょう研究所けんきゅうじょの研究けんきゅうチームのひとりである足立あだち光司こうじ氏しが発表はっぴょうしたセシウムボール。水みずに溶とけない性質せいしつを持もち、放射ほうしゃ性せいセシウムを含ふくみ、放射線ほうしゃせんを多おおく出だす微粒子びりゅうしだ。過去かこに研究けんきゅうのない「未知みちの領域りょういき」として、多おおくの学者がくしゃが研究けんきゅうを進すすめている。 　その1人ひとり、九州大学きゅうしゅうだいがくの宇都宮うつのみや聡さとし准じゅん教授きょうじゅ（理学りがく博士はかせ）は、米国べいこく、英国えいこく、フランスと国内こくないの学者がくしゃとの共同きょうどう研究けんきゅうチームを組くみ、6本ほんの論文ろんぶんを発表はっぴょうした。 　宇都宮うつのみや氏しは、アメリカ・ミシガン大学だいがくの原子力げんしりょく工学科こうがっかで放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつや原子力げんしりょくの専門せんもん知識ちしきを学まなんだ経歴けいれきを持もつ。原発げんぱつ事故じこが起おき、その知識ちしきが役やくに立たつのではないかと考かんがえ、研究けんきゅうに着手ちゃくしゅ。’16年ねんに最初さいしょの論文ろんぶんを発表はっぴょうする。 　宇都宮うつのみや氏しが率ひきいる研究けんきゅうグループは、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつから230キロ離はなれた東京とうきょう都内とないの大気たいきエアフィルターからセシウムボールを見みつけた。東京とうきょう都とでは’11年ねん3月がつ15日にち午前ごぜん10～11時じに放射能ほうしゃのうのピークが観測かんそくされている。その同どう時刻じこくのエアフィルターを分析ぶんせきしたのが左下ひだりしたの写真しゃしんだ。黒こくい粒つぶは放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつの存在そんざいを示しめしているが、その約やく9割わりがセシウムボールであると判明はんめいしている。 […] 宇都宮うつのみや氏しによる東京とうきょうの大気たいきエアフィルターの分析ぶんせきでは、1立方りっぽうメートルあたり129個このセシウムボールが含ふくまれていた。別べつの研究けんきゅうでは、事故じこ当時とうじ、東京とうきょう23区くにはまんべんなく放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつが降ふりそそいだとされている。 「大おおざっぱな計算けいさんですが」と宇都宮うつのみや氏しは前置まえおきしたうえで、25メートル程度ていどの空気くうきの厚あつみと東京とうきょう23区くの面積めんせきで考かんがえると、2×10の12乗じょう（2兆ちょう）個こほどセシウムボールが降ふったと推測すいそくできるという。 　さらに呼吸こきゅうによって体内たいないに取とり込こんだ場合ばあい、ピーク時じには1時じ間あいだあたり17個こほど吸すい込こむ可能かのう性せいがあった。そのうちの20～40％（数個すうこ）が体内たいないに沈着ちんちゃくすると考かんがえられる。 　宇都宮うつのみや氏しらは、肺はいの中なかにある液体えきたいを模擬もぎした“肺はい胞液”にセシウムボールを浸ひたす研究けんきゅうも行おこなった。肺はいに沈着ちんちゃくした場合ばあい、セシウムボールが体内たいないで溶とけるまでにかかる時間じかんは、2ミクロンの大おおきさで35年ねん以上いじょうかかり、条件じょうけんによってはもっと長ながい期間きかんになると推定すいていしている。 　加くわえて、セシウムボールの内部ないぶには原発げんぱつ事故じこ由来ゆらいのウラン酸化さんか物ぶつ（核かく燃料ねんりょう成分せいぶんと同おなじ物質ぶっしつ）が含ふくまれていることも明あきらかになっている。原発げんぱつから数すうキロ地点ちてんの土壌どじょうから発見はっけんされたもので、ウランの構造こうぞうや構成こうせい物ぶつの比率ひりつなどを分析ぶんせきし、このウランが原子げんし炉ろから出でたものであると突つき止とめている。 「燃料ねんりょうデブリは、ウラン酸化さんか物ぶつが主おもな成分せいぶんであるだけではなく、構造こうぞう物ぶつや有害ゆうがいな核分裂かくぶんれつ生成せいせい物ぶつなど、いろいろなものを含ふくんだ放射ほうしゃ性せいのゴミです」（宇都宮うつのみや氏し） 　原発げんぱつ事故じこ時じに放出ほうしゅつされたウランの量りょうから考かんがえると、セシウムボールに含ふくまれていたとしても極きわめて微量びりょうだ。ウランはセシウムよりも放射線ほうしゃせんを出だす威力いりょくは弱よわいが、放射能ほうしゃのうが半分はんぶんになる“半減はんげん期き”は億おく年ねん単位たんいとケタはずれに長ながい。 　さらにアルファ粒子りゅうしというセシウムとは異ことなる種類しゅるいの放射線ほうしゃせんが出でている。ウランの人体じんたいへの健康けんこう影響えいきょうは古ふるくからの研究けんきゅうデータがあり、今回こんかいのウランの濃度のうどでは重大じゅうだいな健康けんこう影響えいきょうは出でないとされている。 　その一方いっぽうで、溶とけた高温こうおんの核かく燃料ねんりょうがコンクリートと反応はんのうしてセシウムボールができたときに、空気くうき中ちゅうの浮遊ふゆう物ぶつを取とり込こんでいるとすれば、さまざまな物質ぶっしつが含ふくまれていてもおかしくはない。 　原子げんし炉ろ核かく燃料ねんりょうの被覆ひふく材ざいであるジルコニウムとウランの混合こんごう酸化さんか物ぶつも発見はっけんされ、核かく燃料ねんりょうの被覆ひふく管かんが溶とけ混まざったものであることもわかっている。実際じっさい、セシウムボールには、セシウムやウラン以外いがいの重要じゅうような放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつが含ふくまれている可能かのう性せいもあるという。 […] 　また、大分おおいた県立けんりつ看護かんご科学かがく大学だいがく・国際こくさい放射線ほうしゃせん防護ぼうご委員いいん会かい（ICRP）の甲斐かい倫明みちあき氏しも前出ぜんしゅつの番組ばんぐみの中なかで「内部ないぶ被ひばくの影響えいきょうは見直みなおしていく必要ひつようがある」と話はなしている。核かくや原子力げんしりょくを推進すいしんする組織そしきの学者がくしゃたちが、セシウムボールの影響えいきょうについては、これまでの知見ちけんを適用てきようできないとする慎重しんちょう論ろんを述のべているのだ。 　数々かずかずの原発げんぱつ訴訟そしょうに関かかわる井戸いど謙一けんいち弁護士べんごしは、このセシウムボールの健康けんこう影響えいきょうを特とくに懸念けねんしている。 「リスクがはっきりしないのであれば、そのような環境かんきょうを避さけるのが最良さいりょうの対策たいさくです。それができなくても、マスクなどの対策たいさくはしてほしい。でも、いまの日本にっぽんは、マスクで防護ぼうごを行おこなうだけでも攻撃こうげきされる可能かのう性せいがある」 　事故じこ直後ちょくごから、被ひばくを恐おそれると、特とくに国くにの避難ひなん指示しじのなかった地域ちいきでは「過剰かじょう反応はんのうだ」と叩たたかれる風潮ふうちょうもあった。被ひばくに関かんしては「いちばんのリスクはストレス」（元もと原子力げんしりょく規制きせい委員いいん長ちょう・田中たなか俊一しゅんいち氏し）との発言はつげんがあるなど、実際じっさいの健康けんこう影響えいきょうは否定ひていされがちで、自己じこ防衛ぼうえいすら「風評ふうひょう被害ひがい」と責せめられる空気くうきもある。 「広島ひろしま・長崎ながさきの原爆げんばく症しょう認定にんてい訴訟そしょうでも、ニュアンスはさまざまあるが、内部ないぶ被ひばくを考慮こうりょしないのは適切てきせつではないという内容ないようの判決はんけつも出でてきています」（井戸いど氏し） 　国際こくさい的てきにみても、核かく開発かいはつ当時とうじから、内部ないぶ被ひばくの軽視けいしは問題もんだいにされてきた。 「そこをはっきりさせてしまうと、核かく開発かいはつは非ひ人道的じんどうてきなものと評価ひょうかされ、続つづけられないのでしょう。日本にっぽんはその問題もんだいに正面しょうめんから向むき合あい、考かんがえなくてはならないと思おもいます」（井戸いど氏し） […] 取材しゅざい・文ぶん/吉田よしだ千せん亜あ）　 吉田よしだ千せん亜あ　◎フリーライター。福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこで引ひき起おこされたさまざまな問題もんだいや、その被害ひがい者しゃを精力せいりょく的てきに取材しゅざいしている。近著きんちょに『その後ごの福島ふくしま　原発げんぱつ事故じこ後ごを生いきる人々ひとびと』（人文書院じんぶんしょいん） 全文ぜんぶんはこちらから。

来年らいねん3月がつ、国くには福島ふくしま原発げんぱつ事故じこの自主じしゅ避難ひなん者しゃへの住宅じゅうたく支援しえん（唯一ゆいいつの経済けいざい支援しえん）を打うち切きろうとしている。「年間ねんかん20ミリシーベルト以下いかなら大丈夫だいじょうぶ」と期間きかんを促うながし、帰かえらなければ支援しえんを打うち切きるとうのだ。原発げんぱつ事故じこ被害ひがい者しゃなのに「避難ひなん者しゃ」ですらなくなる状況じょうきょうに追おい込こまれている。 埼玉さいたま県けん在住ざいじゅうのライター吉田よしだ千せん亜あさんは、『ルポ　母子ぼし避難ひなん　−消けされゆく原発げんぱつ事故じこ被害ひがい者しゃ』（岩波いわなみ新書しんしょ）を出版しゅっぱん。福島ふくしま県けん外がいに避難ひなんした人ひとたちを、支ささえ、寄より添そってきた記録きろくである。「子こどもの健康けんこうを守まもりたい」と、様々さまざまな困難こんなんに耐たえ奮闘ふんとうする母親ははおやたちへの温あたたかい視線しせんと、正確せいかくに冷静れいせいに、この理不尽りふじんを訴うったえようとする姿勢しせいに心しん打うたれる。ご本人ほんにんに話はなしを伺うかがった。 奪うばわれたものの大おおきさ 帰還きかん政策せいさくが強行きょうこうされる中なか、このままでは避難ひなんしている人ひとたちのことが一切いっさい残のこらない、歴史れきしから消きえてしまうと感かんじた。記録きろくを残のこし、住宅じゅうたく支援しえんの打うち切きりを何なんとか止とめたいと思おもい、この本ほんを書かいた。「自主じしゅ避難ひなん」というけれど、「あなたも同おなじ選択せんたくをしませんか？」と問といたい。共感きょうかんし、この問題もんだいを一緒いっしょに考かんがえる人ひとが増ふえない限かぎり、2017年ねん3月がつに住宅じゅうたく支援しえんが打うち切きられたら、本当ほんとうに絶望ぜつぼうする人ひとが出でるのではないかと心配しんぱいだ。 […] 消けされる「避難ひなん者しゃ」 帰還きかん政策せいさくと批判ひはんしてきたが、実みのところ、国くににとっては「避難ひなん者しゃ」という存在そんざいがなくなればよく、帰かえろうが、どこに行いこうが関係かんけいないのではと思おもう。借か上うわ住宅じゅうたくの供与きょうよは、災害さいがい救助きゅうじょ法ほうによる避難ひなん登録とうろくをしているからで、登録とうろくした住所じゅうしょから移動いどうした時点じてんで「避難ひなん者しゃ」ではなくなる。つまり原発げんぱつ事故じこと関係かんけいない「移住いじゅう者しゃ」となり、避難ひなん者しゃの数かずには入はいらなくなる。国くにはオリンピックまでに（原発げんぱつ事故じこを）終おわりにしたいのだ。 […] ある福島ふくしま市しのお母かあさんは「”復興ふっこう”と、子こどもを守まもることを別べつにして欲ほしかった」と言いった。学校がっこう給食きゅうしょくのお米べいにしても、初はじめは県外けんがい産さんだったが、2014年ねんくらいから地元じもとのお米こめを使つかうようになった。結局けっきょく、子こどもに被ひばくを強しいて、復興ふっこうの象徴しょうちょうに使つかってしまったのだ。 原発げんぱつ事故じこでは多おおくの言葉ことばが歪ゆがめられた。「絆きずな」「復興ふっこう」「風評ふうひょう」「復興ふっこうの加速かそく」…極きわめつけが「オリンピック」。希望きぼうの言葉ことばで被害ひがいを隠かくそうとする欺瞞ぎまんが広ひろがった。どうしても原発げんぱつ事故じこ災害さいがいを終おわりにするためには、国くには「オリンピック」が必要ひつようだったのだろう。 […] ぜひ、皆みなさんが住すむ自治体じちたいに問とい合あわせてほしい。「避難ひなん者しゃの住宅じゅうたく支援しえんが打うち切きられるそうだが、うちの自治体じちたいに避難ひなんしている人ひとたちはどうなるのか？」と。住民じゅうみんに気きにしている人ひとがいるというメッセージが伝つたわることが大切たいせつ。それが世論せろん作づくりにつながる。住宅じゅうたく支援しえん打うち切きりに反対はんたいして何なに十じゅう万まんも署名しょめいを集あつめたが、変かわらないままだ。できることはなんでもしていきたい。 全文ぜんぶんは　原発げんぱつ事故じこ避難ひなん者しゃへの住宅じゅうたく支援しえんの継続けいぞくを