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[…] 津波つなみの新あらたな浸水しんすい想定そうていは、２０１１年ねん１２月じゅうにがつに施行しこうされた「津波つなみ防災ぼうさい地域ちいきづくり法ほう」に基もとづく。兵庫ひょうごを含ふくむ４０都道府県とどうふけんで作つくる必要ひつようがあり、東京とうきょう都とを除のぞいて公表こうひょう済ずみだ。 　３県けんの新しん想定そうていは、数すう百ひゃく～千せん年ねんに１回かいと発生はっせい頻度ひんどは極きわめて低ひくいものの、防潮ぼうちょう堤つつみが壊こわれ、満潮まんちょう時じなどの悪条件あくじょうけんが重かさなった場合ばあいを前提ぜんていに、津波つなみの高たかさや浸水しんすい範囲はんいを試算しさんした。 　新しん想定そうていによると、浸水しんすい域いきの広ひろさは岩手いわて県けんで１００平方へいほうキロ、宮城みやぎ県けんで３９１平方へいほうキロ、福島ふくしま県けんで１３９平方へいほうキロに達たっする。３県けん合あわせた浸水しんすい域いきの面積めんせきは東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさい時じの約やく１・３倍ばいに上のぼる。各地かくちで市町村しちょうそんの庁舎ちょうしゃが浸水しんすいしたり避難ひなんタワーが使つかえなくなったりするが、ハード対策たいさくに多額たがくの追加ついか費用ひようを投とうじるのは困難こんなんな状況じょうきょうだ。 移転いてん先さきも浸水しんすいの恐おそれ 　広大こうだいな浸水しんすい域いきから命いのちをどう守まもるのか。復興ふっこうまちづくりが一段落いちだんらくした段階だんかいで新あらたな対応たいおうを迫せまられる被災ひさい地ちの人々ひとびとには割わり切きれない思おもいが強つよい。 　「行政ぎょうせいが安全あんぜん安心あんしんだという場所ばしょに自宅じたくを再建さいけんしたのに、今いまになって津波つなみが来くると言いわれても、どうすればいいのか」。津波つなみが襲おそい、約やく７５０人にんが犠牲ぎせいになった宮城みやぎ県けん名取なとり市しの閖上ゆりあげ（ゆりあげ）地区ちくで町内ちょうない会長かいちょうを務つとめる長沼ながぬま俊幸としゆきさん（６０）の疑問ぎもんは尽つきない。 　震災しんさい後ご、３メートルほどかさ上あげして整備せいびされた市街地しがいちは海岸かいがんから約やく１・５キロ離はなれている。一戸建いっこだてと復興ふっこう住宅じゅうたくなどが混在こんざいし、約やく３１０世帯せたいが暮くらす。当初とうしょの市しの浸水しんすい想定そうていは「１メートル未満みまん」で、近ちかくの公民館こうみんかんか小中こなか一貫いっかん校こうに逃にげれば大丈夫だいじょうぶと考かんがえていた。 しかし、県けんが示しめした新しん想定そうていでは「３メートル以上いじょう５メートル未満みまん」とされた。地区ちくで最もっとも高たかい６階かい建だての復興ふっこう住宅じゅうたくの屋上おくじょうへ「垂直すいちょく避難ひなん」を検討けんとうするが、冬季とうき夜間やかんの避難ひなんは寒さむさによる低てい体温たいおん症しょうのリスクが気きがかりだ。 　長沼ながぬまさんは「震災しんさいを経験けいけんしていない新しん住民じゅうみんも増ふえている。国くにや県けんは浸水しんすい想定そうていを公表こうひょうするだけでなく、避難ひなん可能かのうな屋内おくない施設しせつや訓練くんれんなどの対策たいさくも示しめしてほしい」と求もとめる。市しは住民じゅうみん説明せつめい会かいでハザードマップを見直みなおす方針ほうしんを示しめし「避難ひなんを優先ゆうせんし、命いのちを守まもる行動こうどうを」と繰くり返かえすばかりで、目立めだった進展しんてんはない。長沼ながぬまさんの脳裏のうりには１２年ねん前まえの悪夢あくむがよぎる。 避難ひなんルールの徹底てっていを 　東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいでは大だい津波つなみ警報けいほうの発令はつれい後ごも逃にげなかった人ひとがおり、被害ひがい拡大かくだいにつながった。同おなじ過あやまちを決けっして繰くり返かえしてはならない。一人ひとり一いち人にんが避難ひなんできる場所ばしょやそこへ向むかう手段しゅだんを平時へいじから確認かくにんしておきたい。 　注意ちゅういしなければならないのが、避難ひなん時じの車くるまの使用しようだ。国くには「徒歩とほ避難ひなんが原則げんそく」としている。だが南海なんかいトラフ地震じしんの津波つなみが予想よそうされる兵庫ひょうごなど西日本にしにほん各地かくちでも、車くるまでの避難ひなんを「必要ひつよう」と捉とらえる自治体じちたいは多おおい。一方いっぽう、避難ひなん計画けいかくで具体ぐたい的てきなルールを定さだめている自治体じちたいはごく一部いちぶとされる。 　東日本ひがしにっぽんでは道路どうろの被災ひさいや渋滞じゅうたいで逃にげ遅おくれた例れいもある。自治体じちたいは地形ちけいなど地域ちいきの特性とくせいも考慮こうりょして計画けいかくの実効じっこう性せいを担保たんぽし、住民じゅうみんの理解りかいを得えられるよう丁寧ていねいに説明せつめいすべきだ。高齢こうれい者しゃや障害しょうがい者しゃら支援しえんが必要ひつような人ひとの避難ひなん対策たいさくの強化きょうかも欠かかせない。 　「最悪さいあく」に備そなえ、犠牲ぎせい者しゃを一人ひとりでも減へらす。それにはやり残のこしたことがまだある。自治体じちたいの負担ふたんを軽減けいげんする国くにの財政ざいせい支援しえんや地域ちいき防災ぼうさい計画けいかくの抜本ばっぽん的てき見直みなおしも急いそがねばならない。 全文ぜんぶん

　福島ふくしまから娘むすめたちを避難ひなんさせた選択せんたくは間違まちがいではなかったと、無事ぶじに成人せいじんして安堵あんど（あんど）している。その一方いっぽう、自分じぶんたちだけが逃にげ出だしたような負おい目めから逃のがれられない−。 東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこからの十じゅう二に年ねんは、今いまは京都きょうと市しに住すむ団体だんたい職員しょくいんの高木たかぎ久美子くみこさん（５６）＝写真しゃしん＝にとって、葛藤かっとうの渦うずの中なかで過すごした時間じかんでもありました。 […] ◆自主じしゅ避難ひなんの葛藤かっとうの中なかで 　京都きょうとでは放射線ほうしゃせんの心配しんぱいから解放かいほうされましたが、夫おっととの別わかれが待まっていました。 　「一緒いっしょに避難ひなんを」と説得せっとくしましたが、夫おっとは「そこには四よん十じゅう歳さいすぎの男おとこに仕事しごとはない」。夫婦ふうふの溝みぞは埋うずまらず、避難ひなんの翌年よくねん、離婚りこんに至いたります。父親ちちおやと会あえないことは娘むすめたちを不安定ふあんていにし、不ふ登校とうこうになった次女じじょは「お父とうさんに会あいたい」と言いって泣なきました。 　いわきの家いえは夫婦ふうふで働はたらいて建たてた家いえでした。家いえを出でるときに持もってきた家族かぞく写真しゃしんには、娘むすめたちと若わかい母親ははおやの自分じぶんが写うつっています。撮とったのは夫おっと…。家族かぞくと離はなれる夫おっとのつらさも、今いまなら分わかりますが、原発げんぱつ事故じこは思おもいやりも正気しょうきも奪うばい、多おおくの家族かぞくに苦悩くのうと離散りさんをもたらしました。 　「事故じこさえなかったら、今いまも家族かぞくは一緒いっしょだった」。高木たかぎさんの胸むねには、抜ぬけない悔恨かいこんのとげが刺ささったままです。 　国くにと東電とうでんは原発げんぱつ事故じこの痛いたみや犠牲ぎせいの多おおくを被災ひさい者しゃ個人こじんに押おしつけてきました。「反省はんせい」を口くちにはしますが、責任せきにん逃のがれの言葉ことばの陰かげに隠かくれてしまっています。 　原発げんぱつ事故じこ避難ひなん者しゃの取材しゅざいをしていると、区域くいき外がい避難ひなん者しゃの離婚りこんをよく耳みみにします。しかし、国くにと東電とうでんは自己じこ責任せきにんで避難ひなんした人ひとたちを「自主じしゅ避難ひなん者しゃ」と呼よび、まともな賠償ばいしょうをしてきませんでした。あちらこちらで発はっせられる家族かぞくの痛いたみなど聞きこえないかのようです。 　京都きょうとに来きてからの高木たかぎさんは行動こうどうする人ひとに変かわりました。 　一いち三さん年ねん、京都きょうと府ふに自主じしゅ避難ひなんした人ひとたち五ご十じゅう七なな世帯せたい百ひゃく七なな十じゅう四よん人にんが国くにと東電とうでんに計けい八はち億おく四よん千せん万まん円えん余あまりの損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめた集団しゅうだん訴訟そしょうの原告げんこくに加くわわりました。一いち八はち年ねん春はる、京都きょうと地裁ちさいは国くにと東電とうでんの責任せきにんを認みとめ、一部いちぶ原告げんこくを除のぞいた百ひゃく十じゅう人にんに計けい約やく一いち億おく一いち千せん万まん円えんの賠償ばいしょうを命めいじました。国くにの賠償ばいしょう基準きじゅんを超こえる内容ないようで、審理しんりは大阪おおさか高裁こうさいで続つづいています。 　原発げんぱつ賠償ばいしょう裁判さいばんで勝かち取とった判決はんけつは、国くにが昨年さくねん、九きゅう年ねんぶりに着手ちゃくしゅした原発げんぱつ賠償ばいしょう基準きじゅん（中間なかま指針ししん）の見直みなおしにつながりました。 　ただ、避難ひなん指示しじ区域くいき外がいの避難ひなん者しゃも賠償ばいしょうの増額ぞうがく対象たいしょうですが、その額がくはごくわずかです。区域くいき内ない賠償ばいしょうの増額ぞうがくに主眼しゅがんが置おかれ、「区域くいき内外ないがいで格差かくさが広ひろがる恐おそれ」を指摘してきする専門せんもん家かもいます。 　国くには被災ひさい者しゃを分断ぶんだんするような政策せいさくはやめ、区域くいき外がいの人々ひとびとにもまともな賠償ばいしょうをすべきでしょう。 ◆寄より添そい合あう仲間なかま得えて 　高木たかぎさんは「風評ふうひょう被害ひがいをまき散ちらすな」と非難ひなんされ、福島ふくしまでは放射線ほうしゃせん被害ひがいを語かたれませんでした。避難ひなん先さきでの生活せいかつ費ひが続つづかず福島ふくしまに戻もどった母子ぼしも見みてきました。 　原発げんぱつ事故じこで失うしなった多おおくのものを私わたしたちは忘わすれてはなりません。だからこそ、原発げんぱつ事故じこの問題もんだいを福島ふくしまに閉とじ込こめず、広ひろく問といかける必要ひつようがあるのです。そのためには人ひとと人ひととのつながりを太ふとく、強つよくしたい。それが、原発げんぱつ事故じこの被災ひさい者しゃにとって未み曽そ有ゆうの核かく災害さいがいを乗のり越こえ、生いきる力ちからになるはずです。 　寄より添そい合あえる仲間なかまを得えて、京都きょうとに根ねを下おろして生いきると決きめた高木たかぎさん。表情ひょうじょうに明あかるさが戻もどり、力ちからを込こめてこう語かたるのです。「次世代じせだいに対たいする責任せきにんとして福島ふくしまの人ひとの分ぶんまで京都きょうとで声こえを上あげたい」と。

青木あおき美希みき いまだに放射線ほうしゃせん量りょうが高たかい帰還きかん困難こんなん区域くいき 福島ふくしま県けん双葉ふたば町まちの鵜沼うぬま（うぬま）家かに入はいる道路どうろは、今いまも銀色ぎんいろのゲートで行ゆく手てを阻はばまれている。看板かんばんには「この先さき 帰還きかん困難こんなん区域くいきにつき通行止つうこうどめ」という文字もじ。住民じゅうみんの立たち入いりは厳きびしく制限せいげんされている。 帰還きかん困難こんなん区域くいきは7市町村しちょうそんの計けい337平方へいほうキロメートルに及およんでいる。住民じゅうみん登録とうろくしている人ひとは約やく2万まん人にん。国くにはその面積めんせきの8％を「特定とくてい復興ふっこう再生さいせい拠点きょてん」とし、避難ひなん指示しじ解除かいじょを始はじめているが、鵜沼うぬまさん宅たくの地域ちいきは対象たいしょう外がいだ。 震災しんさい後ごに夫おっとを亡なくした鵜沼うぬま久江ひさえさん（69）はこの10月、20日はつかぶりにこの自宅じたくに戻もどり、私わたしも同行どうこうした。 ゲートの前まえで鵜沼うぬまさんが電話でんわすると、3分ふん後ごに青あおい作業さぎょう服ふくの男性だんせいがやってきた。男性だんせいは、鵜沼うぬまさんと私わたしの運転うんてん免許めんきょ証しょうを確認かくにん。施錠せじょうされた銀色ぎんいろのゲートを押おし開あけた。鵜沼うぬまさんが車くるまを進すすませると、セイタカアワダチソウやササなど高たかさ2メートルほどの草くさが道みちの両側りょうがわを埋うめ尽つくしていた。 「ここはみんな田たんぼです」 どこが畔ほとり（あぜ）なのか。田たんぼを思おもわせるものは何なにも見みえない。 鵜沼うぬまさんは、ハンドルを握にぎりながらフロントガラスに顔かおを近ちかづけ、道路どうろをじっと見みつめる。道路どうろには落おち葉ばが積つもり、その下したにどんなものが落おちているのか、注意ちゅういしなければならないからだ。 2分ふんほど車くるまを徐行じょこうさせたところで、ピーピーという警告けいこく音おんが鳴なりはじめた。私わたしが持もってきたウクライナ製せい線量せんりょう計けいのアラームだ。初期しょき設定せっていで0.3マイクロシーベルト毎時まいじを超こえると鳴なるようになっている。事故じこ前まえの双葉ふたば町まちは0.03マイクロシーベルト毎時まいじ程度ていどだったので、10倍ばい超ちょうということだ。 数値すうちはその後ごも上あがっていく。 […] […] 「持もち出だせるものなんて何なにもありません」 位牌いはいもですかと問とうと、鵜沼うぬまさんはうなずいた。 線量せんりょう計けいの値ねが1マイクロを超こえる。 「（アラームが）鳴なりっぱなしですものね。『あれを持もっていこう』と思おもうときもあるんですけど、どうせ持もっていったって、（汚染おせん限度げんどを）超こえて没収ぼっしゅうとなるでしょう？ 持もち出だす気きにもなれません」 帰還きかん困難こんなん区域くいきで外そとに持もち出だせるものは、対象たいしょう物ぶつの汚染おせん（1分間ふんかん当あたりの放射線ほうしゃせんの計数けいすう率りつ）が1万まん3000cpmを下回したまわるものに限かぎられている。 牛舎ぎゅうしゃに残のこる、逃にげられなかった牛うしの骨ほね 「牛舎ぎゅうしゃを見みせていただけますか」と頼たのむと、鵜沼うぬまさんが案内あんないしてくれた。来きた道みちを戻もどっていく。右側みぎがわに牛舎ぎゅうしゃが見みえた。事故じこ前まえの鵜沼うぬまさんは放牧ほうぼくで約やく50頭とうの黒毛くろげ和牛わぎゅうを育そだてており、牛舎ぎゅうしゃは餌えさ場じょうだった。今いまはがらんとしていて、コンクリートの床ゆかは乾かわいた牛糞ぎゅうふんで埋うめ尽つくされている。その上うえに白しろいものが散ちらばっていた。 「骨ほねです」 […] 一いち度どは東電とうでんが骨ほねを片付かたづけたが、あのときに見みた牛うしたちの骨ほねは、どれがどこの部分ぶぶんかわからないほどの微細びさいな欠片かけらとなってしまった。散ちり散ぢりになって落おちていたり、埋うまったりしている。「まだまだ出でてくるんです」と言いいながら、鵜沼うぬまさんは靴くつで骨ほねを掘ほり返かえす。「何なにとかならないかと思おもうんだけど、一人ひとりで拾ひろうのは勇気ゆうきがなくて……」。 鵜沼うぬまさんの放牧ほうぼく場じょうは広大こうだいで、福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつの敷地しきちと隣接りんせつしていた。 「原発げんぱつ構内こうないからうちの牛うしが見みえるのよ。福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつを視察しさつに来きた人ひとたちには、『安全あんぜんですよ』というすごいいいPRだったと思おもいます。のんびりエサ食たべて寝ねっ転ころがって」 東電とうでんから原発げんぱつは安全あんぜんだと繰くり返かえし聞きかされてきたという。 線量せんりょう計けいの値ねは1.7マイクロにまで上あがった。事故じこ前まえの56倍ばいだ。被曝ひばくさせるのは申もうし訳わけないと思おもい、私わたしは鵜沼うぬまさんに先さきに外そとに出でてもらい、残のこされた骨ほねを撮影さつえいした。これは脚あしか、こっちは首くびか。考かんがえながら、カメラとビデオを向むける。 福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつから西北西せいほくせい2.5キロに住すんでいた鵜沼うぬまさん夫妻ふさいは2011年ねん3月がつ11日にち、牛うしとともに被災ひさいした。 防災ぼうさい無線むせんが聞きこえず、地域ちいきの町民ちょうみんたちが避難ひなんしていくのを見みて避難ひなんを始はじめようとしたが、牛うしが気きになって仕方しかたない。近所きんじょの一家いっかを避難ひなんさせたあと、いったん自宅じたくに戻もどった。出産しゅっさんを控ひかえていた牛うしがいたからだ。その日ひは近ちかくで車中しゃちゅう泊はくしたが、牛うしは出産しゅっさんせず、結局けっきょく、牛舎ぎゅうしゃを離はなれた。 忘わすれることはできない震災しんさいの記憶きおく 鵜沼うぬまさんは11年ねんあまり前まえの、突然とつぜん自分じぶんたちを襲おそった避難ひなんの日々ひびを忘わすれたことがない。 同おなじ双葉ふたば町まちの町民ちょうみんたちは自家用車じかようしゃで北西ほくせいの川俣かわまた町まちを目指めざした。鵜沼うぬまさんは疑問ぎもんだった。年とし1度どの訓練くんれんでは近ちかくの公民館こうみんかんに集あつまり、自衛隊じえいたいのトラックで双葉ふたば町まち役場やくばまで行いっていた。事故じこが現実げんじつになってみると、避難ひなん先さきは計画けいかくと異ことなり、移動いどうも自力じりきを強しいられた。 […] 「テレビも何なにもなく、情報じょうほうがなかったんです。東電とうでんの制服せいふくを着きた職員しょくいんが『メルトダウンしてるんだからここにいてはだめだ』と叫さけんでまわってて。体育館たいいくかんの戸とが閉しめられ、『出でないように』と言いわれ、閉とじこもりました」 鵜沼うぬまさんは事故じこから3日にち後ごの3月がつ14日にち、避難ひなん所しょの体育館たいいくかんを出でて、車くるまで牛舎ぎゅうしゃに向むかった。その時点じてんで、避難ひなん指示しじは原発げんぱつから20キロ圏内けんないまで拡大かくだいされていた。鵜沼うぬまさんは制止せいしをかいくぐって進すすんだ。牛舎ぎゅうしゃに着つくと、濡ぬれた子こ牛うしがいた。出産しゅっさんは終おわっている。しかし、母はは牛うしからは母乳ぼにゅうが出でていない。置おいていけば死しんでしまうが、連つれていくわけにはいかない。 翌よく15日にち午前ごぜん、浪江なみえ町まちが全ぜん町民ちょうみんの町まち外がい避難ひなんを決きめたため、鵜沼うぬまさんも内陸ないりく部ぶの二本松にほんまつ市しに向むかった。 「牛うしたちが気きがかりでしたが、『放射能ほうしゃのうで牛うしがみんな死しんだ』という情報じょうほうが流ながれ、あきらめました。それがうそ情報じょうほうだとわかったのはあとのことです」 原発げんぱつ新しん増設ぞうせつの方針ほうしんに対たいする疑問ぎもん … Continue reading →

2011年ねん3月がつに発生はっせいした福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこ後ごに日本にっぽん全国ぜんこくに点在てんざいしている福島ふくしま県民けんみんについて、復興ふっこう庁ちょうが〝所在しょざい確認かくにん〟をするなかで帰還きかん意思いしのない人ひとや所在しょざい確認かくにんできなかった人ひとなどを統計とうけいから意図いと的てきに除外じょがいしていたことが分わかった。避難ひなん者しゃとしてカウントされなかった原発げんぱつ避難ひなん者しゃは、既すでに亡なくなっていた114人にんを除のぞいても6490人にんに達たっする。23日にち午後ごごに衆議院しゅうぎいん第だい一いち議員ぎいん会館かいかんで行おこなわれた復興ふっこう庁ちょうとの意見いけん交換こうかんでは、避難ひなん当事とうじ者しゃたちが除外じょがいを撤回てっかいするよう申もうし入いれ。「なぜ帰還きかん意思いしを持もたなければ避難ひなん者しゃと集計しゅうけいしないのか」などと怒いかりをぶつけた。 （略りゃく） 【「帰還きかん意思いし問とう理由りゆう」答こたえず】　問題もんだいとなっているのは、復興ふっこう庁ちょうが今年ことし6月がつ14日にちに公表こうひょうした「全国ぜんこくの避難ひなん者しゃ数すう～福島ふくしま県けん外がい避難ひなん者しゃに係かかる所在しょざい確認かくにん結果けっか」。　昨年さくねん3月がつ、復興ふっこう庁ちょうと内閣ないかく府ふ、福島ふくしま県けん連名れんめいで「県けん外がいに避難ひなんされている皆様みなさまへのお願ねがい」と題だいした文書ぶんしょを送付そうふ。「支援しえんのためには避難ひなん者しゃの所在しょざいは大切たいせつなデータ」として、転居てんきょなどの届とどけ出でを促うながした。 （略りゃく） 　その結果けっか、所在しょざいが確認かくにんできなかった2897人にんと、所在しょざいが確認かくにんできたものの避難ひなん元もとの福島ふくしま県けんに帰還きかんする意思いしのない避難ひなん継続けいぞく者しゃ1111人にん、死亡しぼう確認かくにんされた114人にん、別べつの市町村しちょうそんに転居てんきょした避難ひなん継続けいぞく者しゃ2482人にんの計けい6604人にんが避難ひなん者しゃ数すうの集計しゅうけいから除外じょがいされたという。　そもそも原発げんぱつ避難ひなん者しゃ数すうの集計しゅうけいに「帰還きかん意思いしの有無うむ」など関係かんけいない。原発げんぱつ事故じこが発生はっせいし、放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつが拡散かくさんされたことで福島ふくしまを離はなれたのだから、当然とうぜん「避難ひなん者しゃ」としてカウントされなければならない。しかも、自みずから「転送てんそう不要ふよう」にしておいて、結果けっか的てきに所在しょざいが確認かくにんできなかったからといって統計とうけいそのものから存在そんざいを抹消まっしょうしてしまうのは、恣意しい的てきな統計とうけい操作そうさと批判ひはんされても仕方しかたない。　意見いけん交換こうかんに参加さんかした中手なかて聖一せいいちさん（「避難ひなんの権利けんり」を求もとめる全国ぜんこく避難ひなん者しゃの会かい共同きょうどう代表だいひょう、福島ふくしま県けん福島ふくしま市しから北海道ほっかいどう札幌さっぽろ市しに避難ひなん）は、何なん度ども「そもそもなぜ、国くにが把握はあくする避難ひなん者しゃ数すうから帰還きかん意思いしがない避難ひなん者しゃを除外じょがいするのか。その考かんがえ方かたはどこから来きているのか。『帰還きかん意思いしのない人ひとは国くにとして支援しえんする必要ひつようのない人ひとだと考かんがえているから除外じょがいした』と言いうのなら、そう説明せつめいして欲ほしい。なぜ帰還きかん意思いしのある者ものだけを把握はあくするのか。どんな理由りゆうなのか」と質ただしたが、復興ふっこう庁ちょう側がわから明快めいかいな回答かいとうはなし。 （略りゃく） 【復興ふっこう庁ちょう「『被災ひさい者しゃ』ではある」】　藤田ふじた参事官さんじかん補佐ほさは「10年ねん以上いじょう経たち、避難ひなん先さきにおいて仕事しごとをしたり子こどもが就学しゅうがくしたりして定住ていじゅうされている方ほうについては、少すくなくとも避難ひなん元もとに戻もどる意思いしがない。避難ひなん先さきの市町村しちょうそんに確認かくにんしてもらったうえで定住ていじゅうするという方ほうだけ避難ひなん者しゃの統計とうけいから外はずさせていただく。復興ふっこう庁ちょうの定義ていぎとしては、全国ぜんこくに散ちらばっている避難ひなん者しゃで避難ひなん元もとに戻もどりたくても戻もどれない人ひとの数かずを集計しゅうけいしている」とも説明せつめい。「『被災ひさい者しゃ』ではあると考かんがえている」と強調きょうちょうしたが、基本きほん的てきなデータである「避難ひなん者しゃ数すう」が恣意しい的てきに操作そうさされているのは避難ひなん当事とうじ者しゃにとって深刻しんこくな問題もんだいだ。　実じつは原発げんぱつ事故じこ発生はっせい直後ちょくごから、当事とうじ者しゃたちは「避難ひなん者しゃ数すうがきちんと把握はあくされていない」と訴うったえ続つづけてきた。　新潟にいがた県けん小千谷おじや市しでは2020年ねん、それまで16人にん確認かくにんされていた原発げんぱつ避難ひなん者しゃが突然とつぜんゼロになった。小千谷おじや市し職員しょくいんが避難ひなん者しゃに「避難ひなん終了しゅうりょう」と言いわせるよう誘導ゆうどうしたとの指摘してきがある。市議会しぎかいでも問題もんだいとなり、再さい確認かくにんの結果けっか9人にんが避難ひなん者しゃとして集計しゅうけいされた。 （略りゃく） 森もり松まつ明希子あきこさん（福島ふくしま県けん郡山こおりやま市しから大阪おおさか府ふ大阪おおさか市しに避難ひなん）は「そもそも全ぜん避難ひなん者しゃ数すうの把握はあくもできていないのに、帰還きかん意思いしを要件ようけんにするのは何なにを根拠こんきょにしているのか。国連こくれんの国内こくない避難ひなんに関かんする指導しどう原則げんそくについてどのように認識にんしきしているのか。国連こくれんから勧告かんこくも受うけている。どのように活用かつようするのか。そもそも帰還きかん意思いしをどのように確認かくにんするのか」としたうえで、「避難ひなん者しゃ数すうが矮小わいしょう化かされていくことに加くわえて、ニーズに合あった支援しえん策さくが届とどかなくなってしまう。避難ひなん者しゃの定義ていぎから『帰還きかん意思いしの有無うむ』を削除さくじょしてください。それよりも避難ひなんの理由りゆうや現在げんざいの状況じょうきょうを確認かくにんして実態じったい把握はあくをするべき。削除さくじょを約束やくそくして欲ほしい」と訴うったえたが、復興ふっこう庁ちょう側がわは削除さくじょや撤回てっかいを明言めいげんしなかった。　森松もりまつさんによると、大阪おおさか府ふでも2017年ねんから2018年ねんにかけて原発げんぱつ避難ひなん者しゃ数すうが10分ぶんの1の88人にんしか集計しゅうけいされていなかった事態じたいが起おきた。大阪おおさか市しも、市営しえい住宅じゅうたくなど公営こうえい住宅じゅうたくに入居にゅうきょした避難ひなん者しゃしか数かぞえていなかった。原発げんぱつ避難ひなん者しゃは常つねに「集計しゅうけい除外じょがい」や「不可視ふかし化か」との闘たたかいを強しいられ続つづけてきたのだった。 （略りゃく） 会見かいけんでの森松もりまつさんが非常ひじょうに重要じゅうような指摘してきをしていた。　「私わたしたちには人権じんけんがある。必要ひつような保護ほごや支援しえん、ニーズに合あった手当てあてを災害さいがい避難ひなん者しゃとして平等びょうどうに受うける権利けんりがある。しかし、保護ほごや支援しえんどころか、消けされている。避難ひなん者しゃは見みえなくされている、避難ひなん者しゃ数すうを把握はあくしたうえで必要ひつようなところに税金ぜいきんを投入とうにゅうしていくべきなのに、避難ひなん民みんの状況じょうきょうを誰だれも把握はあくしないまま11年ねんが経過けいかしてしまった。国連こくれん『国内こくない避難ひなんの指導しどう原則げんそく』には、帰還きかん意思いしを確認かくにんしろなどとは書かかれていないのに…」 全文ぜんぶんは【原発げんぱつ避難ひなん者しゃの不可視ふかし化か】復興ふっこう庁ちょうが〝帰還きかん意思いしのない避難ひなん者しゃ〟を統計とうけいから除外じょがいする暴挙ぼうきょ　避難ひなん当事とうじ者しゃたちが怒いかりの抗議こうぎ「私わたしたちの存在そんざいを消けさないで」

東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこで全ぜん町まち避難ひなんを強しいられた福島ふくしま県けん浪江なみえ町まちは二に〇一いち七なな（平成へいせい二に十じゅう九きゅう）年ねん三さん月がつに居住きょじゅう制限せいげん、避難ひなん指示しじ解除かいじょ準備じゅんびの両りょう区域くいきが解除かいじょされた。 　町内ちょうないでは新あらたなまちづくりが進すすむ。棚塩たなしお地区ちくには世界せかい最大さいだい級きゅうの水素すいそ製造せいぞう実証じっしょう拠点きょてん「福島ふくしま水素すいそエネルギー研究けんきゅうフィールド」が整備せいびされた。ＪＲ浪江なみえ駅えき周辺しゅうへんの市街地しがいち再生さいせいに向むけた取とり組くみも続つづく。 　一方いっぽう、町まち中心ちゅうしん部ぶから三さん十じゅうキロほど離はなれた津島つしま地区ちくは、帰還きかん困難こんなん区域くいきとして取とり残のこされている。国くには区域くいき内ないの計けい約やく六ろく百ひゃく六ろく十じゅう一いちヘクタールを特定とくてい復興ふっこう再生さいせい拠点きょてん区域くいき（復興ふっこう拠点きょてん）に認定にんていし、二に〇二に三さん（令れい和わ五ご）年春としはるまでの避難ひなん指示しじ解除かいじょを目指めざしている。 　津島つしま地区ちくは原発げんぱつ事故じこ前まえから少子しょうし高齢こうれい化か、過疎かそ化かが進すすむ地域ちいきだった。「にぎわいを取とり戻もどせるのだろうか」。大玉いかだま村むらに避難ひなんしている下津島しもつしま行政ぎょうせい区長くちょうの今野こんの秀則ひでのりさん（７３）は首くびをかしげる。 […] 　今野こんのさんの自宅じたくを含ふくむ津島つしま地区ちくは全域ぜんいきが帰還きかん困難こんなん区域くいきとなった。このうち、復興ふっこう拠点きょてんの面積めんせきは約やく百ひゃく五ご十じゅう三さんヘクタールで地区ちく全体ぜんたいの約やく１・６％に過すぎない。残のこる拠点きょてん外がいは国くにが避難ひなん指示しじ解除かいじょの見通みとおしすら示しめしていない。合併がっぺい前まえは一ひとつの自治体じちたいだった地域ちいきの大だい部分ぶぶんが、原発げんぱつ事故じこの発生はっせいから十じゅう年ねんが過すぎても放置ほうちされている。 　「復興ふっこう拠点きょてんだけが整備せいびされても、津島つしま全体ぜんたいに人ひとが住すむことはできない。住民じゅうみんが安心あんしんして、笑顔えがおで暮くらせる津島つしまに戻もどしてくれ。それが国くにの責任せきにんじゃないのか」。国策こくさくとして進すすめられる「復興ふっこう」の在あり方かたに、疑問ぎもんを抱いだく。 全文ぜんぶん