Daily Archives: 2022/08/09

核かくといのちを考かんがえる 岡田おかだ真実まなみ、田井中たいなか雅みやび人じん2022年ねん8月がつ5日にち 10時じ30分ふん 　長崎ながさき県けんと長崎ながさき市しは7月がつ、原爆げんばく投下とうか後ごの長崎ながさきでも降ふったという「黒くろい雨あめ」について、「国くにが認みとめる被爆ひばく地域ちいき外がいで雨あめが降ふった」とする報告ほうこく書しょを厚生こうせい労働省ろうどうしょうに提出ていしゅつした。原爆げんばくに遭あいながら、郊外こうがいにいたため被爆ひばく者しゃと認みとめられない「被爆ひばく体験たいけん者しゃ」の問題もんだい解決かいけつにつながるか、注目ちゅうもくされている。 　報告ほうこく書しょがまとめられたきっかけは、2021年ねん7月がつの「黒くろい雨あめ」をめぐる広島ひろしま高裁こうさい判決はんけつにさかのぼる。判決はんけつでは、援護えんご対象たいしょう区域くいき外がいで放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつを含ふくむ黒くろい雨あめを浴あびた住民じゅうみんら84人にんを被爆ひばく者しゃと認定にんていするよう命めいじた。 　判決はんけつのポイントは、「原爆げんばくの放射能ほうしゃのうによる健康けんこう被害ひがいの可能かのう性せいを否定ひていできなければ被爆ひばく者しゃにあたる」としたことだった。「被爆ひばく者しゃの認定にんていには、放射能ほうしゃのうの影響えいきょうを受うけた『科学かがく的てきな証拠しょうこ』が必要ひつようだ」とする国くに側がわの主張しゅちょうは退しりぞけられた。 　菅かん義よし偉えら首相しゅしょう（当時とうじ）は、判決はんけつの約やく2週間しゅうかん後ご、上告じょうこく断念だんねんを表明ひょうめいする「談話だんわ」を出だした。「判決はんけつには過去かこの裁判さいばん例れいと整合せいごうしない点てんがあり、政府せいふとしては本来ほんらいは受うけ入いれがたい」としながらも、「原告げんこくと『同おなじような事情じじょう』の人ひとたちを被爆ひばく者しゃと認みとめ、早急そうきゅうに救済きゅうさいを検討けんとうする」とした。 　長崎ながさきの被爆ひばく体験たいけん者しゃらは、高裁こうさい判決はんけつと首相しゅしょう談話だんわに光ひかりを見みいだしていた。長崎ながさきでも、国くにが援護えんごの対象たいしょうとする被爆ひばく地域ちいき外がいで放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつを含ふくんだ灰はいや雨あめを浴あびたという証言しょうげんがあった。 　長崎ながさき県けんと長崎ながさき市しも一連いちれんの流ながれを歓迎かんげいした。長崎ながさきの被爆ひばく体験たいけん者しゃも、黒くろい雨あめを浴あびた広島ひろしまの人ひとと同様どうようの事情じじょうにある――。県けんと長崎ながさき市しは、広島ひろしま県けん・広島ひろしま市しとともに、国くにと協議きょうぎを始はじめた。 　厚労省こうろうしょうは昨年さくねん12月がつ、黒くろい雨あめに遭あった人ひとを被爆ひばく者しゃと認みとめする新あたらしい審査しんさ指針案ししんあんを提示ていじ。被爆ひばく者しゃと認みとめるには、「広島ひろしまの原告げんこくと同おなじような場所ばしょや時間じかん帯たいに黒くろい雨あめを浴あびた可能かのう性せいがあること」などが必要ひつようとし、長崎ながさきは対象たいしょうに含ふくまれなかった。 どうして長崎ながさきは対象たいしょう外がいになったのか。国くにが挙あげた主おもな理由りゆうは、①長崎ながさきの被爆ひばく地域ちいき外がいでは黒くろい雨あめが降ふったとする客観きゃっかん的てきな記録きろくがない②長崎ながさきの被爆ひばく体験たいけん者しゃが被爆ひばく者しゃ健康けんこう手帳てちょうの交付こうふを求もとめた過去かこの訴訟そしょうで敗訴はいそし、最高裁さいこうさい判決はんけつが確定かくていしている――の二ふたつだ。 　長崎ながさき県けん・長崎ながさき市しは「広島ひろしまに限定げんていされる案あんは受うけ入いれられない」とし、今年ことし1月がつから、厚労省こうろうしょうと新あらたな枠組わくぐみによる個別こべつ協議きょうぎを開始かいし。さらに、県けんは2月がつに専門せんもん家か会議かいぎを設置せっちし、国くにが指摘してきした二ふたつの理由りゆうの検証けんしょうを始はじめた。放射線ほうしゃせん医学いがくや気象きしょうの専門せんもん家か、過去かこの被爆ひばく体験たいけん者しゃ訴訟そしょうに関かかわっていない弁護士べんごしら4人にんを委員いいんに選えらんだ。 7月にまとめられた報告ほうこく書しょは、国くにが長崎ながさきの被爆ひばく体験たいけん者しゃを援護えんごの対象たいしょうとしなかった二ふたつの理由りゆうを真まっ向こうから否定ひていするものになった。 　まず、①について、長崎ながさき市しなどが1999年度ねんどに実施じっしした証言しょうげん調査ちょうさの証言しょうげん集しゅうを再さい検証けんしょうした。 　調査ちょうさは、被爆ひばく地域ちいき外がいに居住きょじゅうしていた8700人にんを対象たいしょうに実施じっし。原爆げんばく投下とうかから50年ねん以上いじょう経たった調査ちょうさで、黒くろい雨あめに関かんする具体ぐたい的てきな質問しつもんがなかったにもかかわらず、自由じゆう記述きじゅつの欄らんで雨あめに関かんする証言しょうげんが129件けんあった。 　専門せんもん家か会議かいぎは、この129件けんの降雨こうう体験たいけんを一ひとつずつ分析ぶんせき。雨あめについて証言しょうげんした人ひとが特定とくていの地域ちいきに集中しゅうちゅうしていたことなどから、地域ちいきごとに偶然ぐうぜんではない差さが出でており、「地域ちいきに実際じっさいに降雨こううがあったことを示しめしていると解釈かいしゃくできる」と評価ひょうかした。また、過去かこの気象きしょう観測かんそくに関かんする文献ぶんけんや、気象きしょうシミュレーション分析ぶんせきとも矛盾むじゅんがないことから、証言しょうげん集しゅうを「客観きゃっかん的てきな記録きろくである」と結論けつろんづけた。 　②の主張しゅちょうについてはどうか。2017年ねんの最高裁さいこうさい判決はんけつでは、「爆ばく心地ごこちから約やく5キロの範囲はんいにいなかった人ひとは、ただちに原爆げんばくの放射線ほうしゃせんにより健康けんこう被害ひがいを生しょうじる可能かのう性せいがあるといえない」としている。 　報告ほうこく書しょでは、原審げんしんの事実じじつ認定にんていを是認ぜにんしただけで、最高裁さいこうさいが法的ほうてき判断はんだんを示しめしたものではないと主張しゅちょう。「判例はんれいに該当がいとうせず拘束こうそく力りょくをもたない」とした。また、「黒くろい雨あめに遭あったこと」が健康けんこう被害ひがいを与あたえる可能かのう性せいがあるかどうかについては判断はんだんしていないと主張しゅちょう。「過去かこの被爆ひばく体験たいけん者しゃ訴訟そしょう判決はんけつと矛盾むじゅんしない」と結論けつろんづけた。 　さらに、報告ほうこく書しょは、雨あめよりも降灰こうかいの証言しょうげんが多おおかったことに触ふれ、「灰はいを含ふくむ雨あめであっても、灰はいそのものであっても、放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつを含ふくんでいたことに違ちがいはない。雨あめと切きり分わけずに取とり扱あつかうよう検討けんとうする必要ひつようがある」と、より広ひろい範囲はんいで被爆ひばくをとらえる可能かのう性せいも示唆しさした。 　　　　　◇ 　長崎ながさき県けん原爆げんばく被爆ひばく者しゃ援護えんご課かの担当たんとう者しゃは、「私わたしたちの主張しゅちょうが裏付うらづけられた」と評価ひょうかする。報告ほうこく書しょを提出ていしゅつした長崎ながさき市しの田上たうえ富久ふく市長しちょうは、記者きしゃ会見かいけんで、「被爆ひばく体験たいけん者しゃは高齢こうれい化かし時間じかんがない。広島ひろしまと長崎ながさきが一緒いっしょの結論けつろんになるよう説明せつめいしていきたい」と話はなした。 　長崎ながさき被爆ひばく地域ちいき拡大かくだい協議きょうぎ会かい専門せんもん部会ぶかいの大矢おおや正人まさと・長崎総合科学大ながさきそうごうかがくだい名誉めいよ教授きょうじゅは「今回こんかいの県けん報告ほうこく書しょは、広島ひろしま高裁こうさい判決はんけつに基もとづいた非常ひじょうに説得せっとく力りょくのある内容ないようであり、国くには、県けん・市しが被爆ひばく体験たいけん者しゃに被爆ひばく者しゃ健康けんこう手帳てちょうを一刻いっこくも早はやく交付こうふできるようにすべきだ」と話はなす。 　大矢おおや名誉めいよ教授きょうじゅによれば、今回こんかいの報告ほうこく書しょは爆ばく心地ごこちから12キロ以内いないに限かぎって検証けんしょうしているが、戦後せんごまもなく米国べいこくのマンハッタン調査ちょうさ団だんなどが行おこなった残留ざんりゅう放射線ほうしゃせん量りょう測定そくていは、爆ばく心地ごこちから東ひがしに約やく50キロ離はなれた島原半島しまばらはんとうまで放射ほうしゃ性せい降下こうか物ぶつが広ひろがっていたことを示しめしていた。 　さらに、06年ねんの日本にっぽん原子力げんしりょく研究けんきゅう開発かいはつ機構きこうの研究けんきゅうによれば、長崎ながさき原爆げんばく由来ゆらいのプルトニウムは島原半島しまばらはんとうを越こえて熊本くまもと県けん阿蘇あそ市しまで広ひろがっており、今後こんご、被爆ひばく地域ちいきの根本こんぽん的てき見直みなおしを迫せまられる可能かのう性せいも示しめす。 　「被爆ひばく体験たいけん者しゃ」の岩永いわなが千代子ちよこさん（86）は「これ以上いじょうない報告ほうこく書しょ。本当ほんとうに勇気ゆうきをもらった」と評価ひょうかする。 　岩永いわながさんら被爆ひばく体験たいけん者しゃは07年ねんに被爆ひばく者しゃ認定にんていを求もとめて提訴ていそ。約やく400人にんの原告げんこくのうち、これまでに70人にん以上いじょうが亡なくなったという。2度ど敗訴はいそしたが、44人にんが再さい提訴ていそして被告ひこくの県けん・長崎ながさき市しと係争けいそう中ちゅうだ。 　しかし、今回こんかいの報告ほうこく書しょを受うけて7月がつ28日にち、「もはや、原告げんこくら爆ばく心地ごこちから12キロ以内いないの方ほうがすべて被爆ひばく者しゃであるということは、原告げんこく、被告ひこくともに、証拠しょうこに基もとづく共通きょうつう認識にんしきを持もった争あらそいようのない事実じじつ」として、和解わかいを進すすめて早期そうき救済きゅうさいを図はかるよう求もとめる上申じょうしん書しょを長崎ながさき地裁ちさいに提出ていしゅつした。 　長崎ながさき原爆げんばくの日ひの9日にち、平和へいわ祈念きねん式典しきてんに参列さんれつするため、岸田きしだ文雄ふみお首相しゅしょうは長崎ながさきを訪問ほうもんする。その場ばで次つぎにつながる発言はつげんがあるかどうか。関係かんけい者しゃは注視ちゅうししている。岩永いわながさんは「広島ひろしまの裁判さいばん結果けっかを長崎ながさきにも適用てきようしてほしい。民主みんしゅ国家こっかとして同等どうとうに扱あつかってほしい」と訴うったえる。 原文げんぶん

広島ひろしまの原爆げんばくの日ひの1週間しゅうかん前まえ、ある被爆ひばく者しゃの男性だんせいが亡なくなった。男性だんせいのメッセージを収録しゅうろくした映像えいぞうが平和へいわ記念きねん式典しきてんの会場かいじょうで流ながされたが、広島ひろしま市しの手てで6文字もじ削けずられていた。なぜか。男性だんせいが死しの淵ふちでい残いのこしたかったことは。 原爆げんばくドームがある選挙せんきょ区くが地盤じばんの岸田きしだ文雄ふみお首相しゅしょうが参列さんれつした広島ひろしまの平和へいわ記念きねん式典しきてん。 その会場かいじょうで流ながれた動画どうがメッセージに登場とうじょうした被爆ひばく者しゃの中なかに、原稿げんこうの一部いちぶを広島ひろしま市しの手てで削けずられ、その無念むねんを訴うったえて式典しきてんの1週間しゅうかん前まえに亡なくなった男性だんせいがいた。 一連いちれんの経緯けいいを見みつめてきた広島ひろしま在住ざいじゅうのフリーランス記者きしゃ、宮崎みやざき園子そのこさんが報告ほうこくする。 原爆げんばくドームがある選挙せんきょ区くが地盤じばんの岸田きしだ文雄ふみお首相しゅしょうが参列さんれつした広島ひろしまの平和へいわ記念きねん式典しきてん。 その会場かいじょうで流ながれた動画どうがメッセージに登場とうじょうした被爆ひばく者しゃの中なかに、原稿げんこうの一部いちぶを広島ひろしま市しの手てで削けずられ、その無念むねんを訴うったえて式典しきてんの1週間しゅうかん前まえに亡なくなった男性だんせいがいた。 一連いちれんの経緯けいいを見みつめてきた広島ひろしま在住ざいじゅうのフリーランス記者きしゃ、宮崎みやざき園子そのこさんが報告ほうこくする。 自みずからの被爆ひばく体験たいけんを国内外こくないがいで精力せいりょく的てきに証言しょうげんしてきた広島ひろしまの被爆ひばく者しゃが、原爆げんばくの日ひ（8月がつ6日にち）の1週間しゅうかん前まえに、93歳さいで息いきを引ひき取とった。盲腸もうちょうがんのため亡なくなった韓国かんこく原爆げんばく被害ひがい者しゃ対策たいさく特別とくべつ委員いいん会かい委員いいん長ちょうの李り鍾根（イ・ジョングン）さんだ。 広島ひろしま市しの求もとめに応おうじ、被爆ひばく者しゃとしての思おもいを述のべたメッセージ映像えいぞうを収録しゅうろくしたが、用意よういしていた原稿げんこうの一部いちぶを削けずるよう市しの担当たんとう者しゃに求もとめられた。「なんで言いいたいことを言いわせないの」。亡なくなる直前ちょくぜん、悔くやしさを語かたった。 死しの淵ふちで、彼かれが伝つたえ残のこしたかったことは何なにだったのか。 会場かいじょうに流ながれた映像えいぞう 戦後せんご3人にん目めとなる広島ひろしま県けん選出せんしゅつの首相しゅしょう、岸田きしだ文雄ふみお氏しら多おおくの来賓らいひんを招まねき、6日にちに平和へいわ記念きねん公園こうえんで開ひらかれた広島ひろしま市しの平和へいわ記念きねん式典しきてん。 午前ごぜん8時じの開ひらき式しきに先立さきだち、会場かいじょうに設置せっちされた大型おおがたディスプレイで、被爆ひばく者しゃ19人にんがそれぞれの思おもいを語かたるメッセージ映像えいぞうが流ながされた。年齢ねんれい順じゅんで最後さいごとなった李りさんのメッセージは、こうだった。 「あの日ひ被爆ひばくした朝鮮半島ちょうせんはんとう出身しゅっしん者しゃたちは、同おなじ被爆ひばく者しゃでありながら、終戦しゅうせんを境さかいに『外国がいこく人じん』として援護えんごを受うけられないまま多おおくの人ひとが死しんでいきました」 51秒びょうの短みじかいメッセージは、李りさんが7月がつ30日にちに逝去せいきょしたことや、動画どうがは6月がつ30日にちに撮影さつえいされたものだというおことわりつきで流ながされた。 しかし削けずられていた6文字もじ 式典しきてんに参列さんれつしていた私わたしは、この映像えいぞうがこの内容ないようで流ながれるのを、悔くやしい思おもいで眺ながめていた。 「一番いちばん言いいたかった部分ぶぶんを削けずるように、広島ひろしま市しの担当たんとう者しゃに言いわれたのよ」。生前せいぜんの李りさんから、そう聞きいていたからだ。 李りさんの手元てもとにあった原稿げんこうの文言もんごんは、こうなっていた。 「あの日ひ被爆ひばくした朝鮮半島ちょうせんはんとう出身しゅっしん者しゃたちは、同おなじ被爆ひばく者しゃでありながら、終戦しゅうせんを境さかいに外国がいこく人じんとして切きり捨すてられ、援護えんごを受うけられないまま多おおくの人ひとが死しんでいきました」 しかし映像えいぞうでは、「切きり捨すてられ」の6文字もじが削けずられていたのだ。 […] 全文ぜんぶん